第115話
玲音ちゃんを家まで送り届けたあと、そのまま電車に乗って事務所へ帰ってきた。
往復で2時間以上掛かっているため、既に打ち上げは終わりに近かった。なぜなら関東住みの人の終電が近くなっているから。
遠くから参加している人たちは泊まっていくのでまだ事務所にいるが、梓ちゃんなんかはもう事務所を出ているみたいだ。
泊まっていくのは私と香織の他に、凪ちゃんや柄爲ちゃんに律ちゃんだ。つまりは1期生と3期生で、2期生は全員帰宅。
偶然にも、2期生は全員関東在住なのだ。
律ちゃんも関東在住なのだが、明日大学があって事務所から通った方が近いと言うことで本日は泊まりになっている。
「汐ちゃんお帰り」
「社長、お疲れ様です」
「うんおつかれ~。そう言えばさ、香織ちゃんと2人でキャンピングカーに泊まるって言ってたけど、タレント用の仮眠室空いてるよ? 使ってっても良いよ」
「あー、そうですね。どうせキャンピングカーはまた使う機会がありますし、仮眠室は居心地が良かったのでそちらを使いますね」
「おっけー。香織ちゃんも同じようなことを言ってたよ。じゃあ昨日使ったベッドを使ってね」
「はい」
当初の予定では私と香織はキャンピングカーに泊まる予定でいたのだが、仮眠室が想像以上に快適だったために、即答で仮眠室に泊まることになった。
現在東京に来て2日目。いつまでいてもいいのだが、まあ後1週間くらい滞在しようかなと思っている。
社員も大抵が帰宅したため、社内の大半の電気は消え、なんとなく寂しいような感じだ。
ただ、会議室の近くはここでご飯を食べたんだろうなぁと言った匂いがしている。残った社員が必死に片付けをしているところだ。
社長曰く、もう既に香織と3期生のみんなは仮眠室に行って休憩しているらしく、私もそこに合流しようと思う。
仮眠室エリアへ行くと、みんなそれぞれ自分のベッドの上にいるみたいで、何か話し声がするとかそういうわけではない。
少し休憩をしているみたいだ。おそらく律ちゃんは明日大学のために夜更かしはあまりしないと思うが、他のメンバーはここから遊んでも良いわけだ。
律ちゃんも2限からと言っていたので、少しは遊べるだろうが。
とりあえず充電の減ったスマートフォンを自分のベッドの横にある充電機にさして、香織の寝ているベッドの扉を数回ノックする。
タレント用のベッドは中から鍵が掛けられるような扉になっていて、内側から開けて貰わないといけないのだ。
「香織、汐だよ」
「汐ちゃん? 今開けるね~」
声を掛けると、中から香織の声が帰ってきた。扉の影響で少し小さい声だが、あまり防音性能は高くないみたいで、扉越しでもしっかりと聞き取れる。もしかしたら香織が少し大きめの声を出していたのかもしれないが。
扉が開くと、そこにはラフな格好の香織がいた。どうやら先にシャワーを浴びていたみたいだ。
「お帰り」
「ただいま。いれて」
一言そう言うと、そのまま香織のベッドの上に乗った。
「えー? 普通にあっちに行けばソファーあるのに」
「いいのいいの。でさ、これからどうする? みんなで少し遊んでも良いけど……」
「あー、汐ちゃん打ち上げいなかったもんね。でもみんな遠くから来てるし、先輩達と配信して疲れちゃったみたいで……」
「そっかぁ。じゃあ私たちももう寝る?」
「せっかく律ちゃんが来てるのに残念だなぁ。律ちゃんって明日も来るのかなぁ」
「わかんない。私は何も聞いてないね」
そう話していると、扉の外から声が聞こえてきた。
「つぼみ先輩、私に何か御用でしょうか」
どうやら私たちの会話を聞いて律ちゃんが声を掛けてくれたようだ。
「いやいや、大丈夫だよ。せっかく律ちゃんが来てるから何か遊びたいねって話してたの~」
香織がそういいながら扉を開けると、中に私もいたことに驚いたみたいで、少しビックリしたような反応をした。
「あ~、凪ちゃんと柄爲ちゃんはなかなか疲れてるみたいですからね。私は家が近いので別にそこまで疲れてはないですが」
「じゃあ何かして遊ぼうよ!」
「いいですよ。どこで遊びますか?」
「仮眠室だと他の人の迷惑になっちゃうかもしれないから、下の会議室にとりあえず行って貰っててもいい?」
「わかりました。では先に降りてますね」
律ちゃんはそう言うと、自身のベッドから荷物だけ取って下の階へと降りていった。
「アレだね、律ちゃんって汐ちゃんの理想系って感じじゃない? 全然似てないね!」
「……うっさい」
香織がニヤニヤしながらそう言うので、脇の下に一発いれておいた。
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