第114話 護送

「はい、お疲れ様でーす」


 そのスタッフのかけ声で、私たちの緊張の緒が一気に切れた。

 長くも短くも感じた全員集合の公式配信も問題なく終了を迎えた。みんな一種の達成感とやりきった感を感じて頬が緩んでいる。


「お疲れ~」

「うん。おつかれ」


 香織も伸びをしながらニコニコとしている。


「はーい! 注目!」


 みんなここからどうしようかと言う流れになっているときに、社長が大きな声を上げた。みんなの視線が一気に社長に集まる。


「この後会議室で打ち上げやるけど、みんな参加するよね?!」


 そういうと、みんなから歓声が上がる。ただ、もう時刻は9時を回っていて、そろそろ9時半という所だ。明日は普通に平日で、玲音ちゃんは学校がある。

 他のVTuberのみんなは専業だったり、有休取って来ていたりするので別に気にしなくて良いのだが、玲音ちゃんはここで分かれないといけない。しかもここからの打ち上げはお酒が出るだろうし、残念だけれど一緒にはいれないかな。


「私、玲音ちゃん家まで送りますね」

「え? だ、大丈夫ですよ」

「いやいや、未成年を夜に1人で歩かせるのはダメでしょ。送るよ」


 玲音ちゃんは配信モードと通常モードの落差が激しいVTuberの1人だ。配信内では(化けの皮が剥がれつつあるが。ていうか剥がれているが)厨二病っぽい言葉遣いでやっているが、通常時はしっかりと敬語が使えるちゃんとした高校生。

 良い子なのだ。


「じゃあ、お願いするね」


 そう社長に言われて頷こうとしたとき、スタッフ陣の中から声が上がった。


「いや! 私が送ります!」


 どうやら玲音ちゃんのマネージャーらしい。

 確かにマネージャーに送って貰った方が良いだろうか……。いや、私の方が良いな。


「大丈夫です。マネージャーの統括は私ですし、同じタレントでもありますから。仲良くしておくという所でも私が送りますよ」

「うんうん。社長的にはどっちでも良いけど、まあ同じタレント同士の方が良いでしょう。マネちゃんは会場設営手伝って」


 ということで、玲音ちゃんの送り担当は私になった。







「送って貰ってすみません……」

「いやいや、そんなに畏まらないでよ。配信の時と同じで良いから」

「いやいやいや、あれ凄い胃がキリキリなんですから。全員年上で、しかも先輩で……」

「玲音ちゃんは良い子だなぁ」


 とりあえず事務所から歩いて駅へ向かう。

 駅へ到着すると既に電車が止まっていて、その電車に乗り込む。


「ちなみに、玲音ちゃんって最寄り駅どこ?」

「えっと、天王洲アイルっていう所です」

「あ~~……、高級だね……」

「いえいえ、そんな……」

「じゃあ乗り換え1回でいいんだよね?」

「はい。多分そうです」


 天王洲アイルって言ったら電車2つ通っていたと思うんだけど、多分乗り換え1回でいけたはず。

 でもなかなか行く機会がない駅だから、名前を聞いて少し身構えてしまった。


「天王洲アイルって言うことは、タワーマンションに住んでるってこと?」

「え? どうなんでしょう……」

「建物何階建て?」

「えっと、42階……」

「タワーマンションじゃん! うちなんて2階建てだよ」

「いや、それは一軒家で……」

「はえー、純タワマン民は自分の家がタワマンだと気がつかないと……」


 これは驚きのことである。

 灯台元暗しと言うことなのだろうか……。(多分違う)


「そういえば、玲音ちゃんってあんまり高校の話しないけど、どういう高校行ってるの?」


 玲音ちゃんは知っての通り現役の女子高校生だ。

 別に学校名まで教えてと言うことで行ったわけじゃなかったのだが、スマホで自身の通っている高校のホームページを見せてくれた。


「ううぇッ?! お嬢様校じゃん……」

「い、いや、全然お嬢様なんてそんな……」

「えっと、これは中学から?」

「いや、幼稚園からずっとここの学校に通っています」

「一貫でってことか……。えぇ、純お嬢様じゃん。なんで厨二病やってるの……」


 私がそう言うと、玲音ちゃんは顔を真っ赤にしながら悶え始めた。

 彼女が見せてきた学校は、全国でも有数のお嬢様学校だった。本当に、私の偏見目線で、ですわとか、ごきげんようとか言って過ごしているような学校だった。

 しかもそこに幼稚園からずっと通っているらしい。偏差値も高校なら70超えるくらいの超名門。


「えっと、文系?」

「はい。文系です」

「大学受験はするの?」

「えっと、VTuberの方がありますので、正直決めかねてます。一応勉強はしていますが……」

「両親はなんと?」

「自分の好きなようにすれば良いよと言ってくれています」


 あぁ、これは絶対に大学に行った方が良いやつだ。

 でも私目線ここまで純粋なお嬢様で女子校だと、大学で共学というのに不安を覚える。

 ただ、共学で育ってきたバカザル高校卒の私目線だ。きっと彼女ならなんとかできるだろう。


「大丈夫? 今受験生?」

「そうです」

「配信とかしてて大丈夫なの? あの、受験とかでなら別に1年くらいお休みしても全然大丈夫だよ」

「いや、勉強としっかり両立出来ています。一応志望校もA判定ですので……」

「そっかぁ……。なら私は大学に行くべきだと思うな。大学行ってないから説得力はないけど、将来の可能性が全然違うかも」

「やっぱりそうですよね……。でも、受験期に配信頻度が減っちゃうのが申し訳なくて」

「何言ってんだ。だから1年くらい休んでも良いって。勉強に身を入れたくなったらお休みすれば良い。リスナーもわかってくれるよ」


 私はどうしてこんなに賢いお嬢様がSunLive.に在籍しているのか、わけがわからなくなった。


「私はさ、あんまり頭が良くないからアドバイスとかはできないけど、梓ちゃんは旧帝で頭良いしさ、あんまり見えないけど、朱里も海外大出てるからさ、そういった人にアドバイス頼むのも良いと思うよ」

「え、朱里頭良いんですか?!」

「そうなんだよ……。私たまに朱里と1対1で話すんだけどね、朱里はエリートだよ……。英語ペラペラだよ……」

「はえぇ……、こういうのはひどいですけど、信じられません……」

「うん。私も……。今でも騙されてるんじゃないかなって思ってる」


 実は、所属VTuberで、なんならSunLive.全社員含めて、経歴だけ見れば朱里が一番エリートだったりするのだ。

 見えなさすぎてハゲそう。


「まあ、幸か不幸か、玲音ちゃんの周りには大人が多いからさ、困ったことがあればいつでも相談してよ。私ももちろん相談に乗るし、朱里も梓ちゃんも相談に乗ってくれるはずだから」

「幸か不幸かって……、幸過ぎて困るくらいですよ」

「そうか? まあいいけど。あ、そうそう。私と香織はあと1週間くらいこっちにいるから、オフコラボしたいとかあったらいつでも連絡いれてね」

「わかりました! 絶対やりたいです!」  

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