第108話 全員集合配信②

茶葉「じゃあね、早速企画に移っていこうと思います。最初の企画は――」

朱里「ちょっと待ったー!!」

茶葉「え!? な、なに!?」


 打ち合わせ通り、最初の企画は個人対抗クイズですというのを言おうと思ったのだが、突然朱里から横やりが入った。

 完全に打ち合わせになかったことなので戸惑ったのだが、スタッフが悪巧みをしているような顔でニヤニヤしているのを確認したので、おそらく私に伝えないで行っている一種のパフォーマンスのようなものだろう。


朱里「ここからは私のターンッ! お~い、スタッフ~、スタッッフ~~。あ、うんそれ。よろしく~」

茶葉「なにこれ……」


 まるでどこぞのイケメンを彷彿とさせるような声の出し方でスタッフを呼ぶ朱里。何やら裏で準備していたものがあるようで、段ボールの箱に入れられていたステッキのようなものをスタッフが朱里に手渡した。


 そうしてその瞬間、一瞬配信の映像が乱れると、先ほどまでイベント会場のような背景であった配信画面が、一気にバラエティーに富んだジャングルの古代遺跡のような背景に切り替わった。

 横一列に並んでいた私たちの席順も、いつの間にか横2列になっている。

 そして朱里の手に握られている白い棒には、赤く“Q”と象られたものが先っちょに着いている。


茶葉「まさか……」

美波「ぎゃははははっ!!」


 私と同様に何をしようと企んでいるのかわかった凪ちゃんの、大きなゲラ笑いがスタジオに響き渡る。それにつられて気がついている組やスタッフ達の笑い声が大きくなってきた。


朱里「じゃあ百合ちゃんよろしく」

百合「はい。続いてはこちら」


 朱里に振られた百合ちゃんがそういうと、私たちを映していた画面が、どこかで聞いたことのあるような効果音を鳴らしながら突然動き出し、私たちから見ると左側、リスナーから見て右側にあるモニターを大きく映し出した。

 そして、百合ちゃんがその画面に表示された文字を読み上げた。


百合「SunLive.一番教養があるのは誰だグランプリ!」


 そういうと、スタッフ達から「よいしょ~」と言った野次が飛んでくる。


百合「ということでですね、今から皆さんには教養を競い合って貰います」

茶葉「あれ、それ私のセリ――」

百合「社長、よろしく」


 まさかまさかの司会横取りで、百合ちゃんが仕切り始めたと思ったら、社長を呼び出した。たしかにここからは社長が読み上げ担当だけど……。


社長「はい。ここからは私がお送りさせていただきます。世界の果てまで~、イッ――」

茶葉「いやまてまて、マズいから、ちょっと待って。もう大混乱だから……」


 明らかに某テレビ番組のパロディー。この社長のことだ。絶対に許可を取っていない。


茶葉「ダメだから、スタッフどうして止めない!」


 周りのメンバー達はなんか笑っていて止めないし、VTuberという形上、リスナー達にバッチリ伝わっていないし、もう大混乱。


茶葉「ああ、もういいや。続けて下さい」

社長「は~い、じゃあ画面戻してね」


 今日ほど自分にツッコミ力が欠如していることを憂いたことはない。今ので一気に自信をなくしたような気がする。

 そう少し落ち込んでいると、香織が私の肩をトントンと叩いた後、耳元でこういった。


「大丈夫。よかったよ」


イラッ……!


つぼみ「ぎゃぁあ! なんで叩くの!」

美波「ぎゃはははははッ!!」


 なぜか無性にイラついた。八つ当たりなのはわかっていたが、思いっきり叩いてしまった。

 もうあっという間にこの場はカオスへ。ストッパー役であるという認識だった私がその役目を放棄してしまったことにより、止めるものがいなくなってしまった。

 大抵はみんなゲラゲラしているが、玲音ちゃんなんかはかわいらしくあわあわしている。


 そう大混乱になったスタジオの中を、突如として小さな叫び声が響き渡った。


柄爲「ちょっと皆様! もう少し落ち着いてくださいませ!」

美波「ませ……、ンヒヒヒッ」


 柄爲ちゃんが丁寧語で叫んだのだ。


コメント

:何が起きているの?

:とりあえずカオスってことだけはわかった

:どういうこと?

:茶葉ちゃん動きやばくて草

:反応的にスタッフが仕込んだってことかな?

:インスパイアが凄い……

:???

:実写で見たい……

:凪ちゃんさっきから爆笑で草

:えなっちの大きな声初めて聞いた


柄爲「社長、どうぞ」

社長「え? あ、どうも……」

撫子「社長が押し負けてるの珍しい。さすがは柄爲ちゃん」

律「我が社にもついに優秀な人材が……」

梓「りっちゃん同期ですよね」

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