第106話 直前
正午を回り、続々とタレント達が事務所に到着し始めた。私たちはそれをキャンピングカーの窓の隙間から時々チラチラと見ていると言った感じだ。
事務所に来たらいろいろとやることがあるので、ここで話しかけてしまうと邪魔になってしまうこともあるだろうという配慮ではある。必要な配慮なのかはわからない。
用意していたお菓子はあらかた食べ終え、私たちのお昼ご飯はこれで終わりと言うことになった。お昼ご飯がお菓子というのもどうかと思うが、たまになら別に良いでしょということで。
私たちが活動をお休みしている間、事務所に顔を出せる組の人たちは定期的にオフコラボをやっていたりしたらしい。やはり事務所は機材が揃っていてやりやすいのだとか。
事務所に顔を出せない組、凪ちゃんや北海道在住の3期生、尾鳥柄爲ちゃんは今回が初めてのオフコラボと言った形になる。少し緊張しているみたいで、柄爲ちゃんのマネージャーである神田さんはそれの対応に当たっているみたいだ。
スタジオ入りしている人たちの中で、個人的に面白いなと思ったのが大瀬音律と鬼灯朱里の2名。
前者はスタイルが良くて美人なためか、全身真っ黒にサングラスとマスクという、有名人の変装のような見た目でやってきた。多分普通の服できた方が良いと思う。
逆に何かしらのタレントなのか有名人なのかと疑われるような見た目だ。
それが銀座だとか、新宿だとかならわかるのだが、オフィスの周りは一面住宅街。明らかにタレントが変装してくるような所ではないわけだ。それが余計彼女の存在を浮かせていた。
それで、後者である朱里はなぜかとてつもなく体調が悪そうな顔をして、手にエチケット袋を抱えながら、マネージャーさんに介抱されて事務所へ入っていった。
まあ理由はわかる。
朱里の昨晩の配信は晩酌配信。しかも、スーパーチャットでリスナー達に散々煽られ、マネージャーさんのストップを無視して飲み続けていたそうだ。
だからおそらく二日酔い。明日は公式配信だからとかでセーブして欲しかった。ただ過ぎたことを悔やむのは無しだ。
例の一件以降SunLive.の問題児として注目を浴びるようになった彼女は、吹っ切れたかのように好き放題配信やSNS活動を行っている。彼女のマネージャーさんは相当な真面目で、なかなか頭を抱えているみたいと言うのを西原さんから聞いている。
そういえば、大分話が変わるが西原さんから聞いた話。個人勢のサポート事業がなかなか成功しているみたい。
一気に増員されたマネージャー達と協力して、第2弾募集を掛けたそうな。そうしたら1回目と同様に相当数の応募があったみたい。だが、前回に比べてマネージャーが増員されたと言うことでたくさん受け入れができたみたいだ。
中には個人勢としてなかなか有名な人もいるみたいで、その人がうちの所属Vとのコラボに興味津々なのだとか。今後はそういったコラボもたくさんしていく予定だと。
場面は変わり午後4時。全体会議が始まった。
会議室にぎっしりとタレント、社員さんが集まり、今回の大規模公式配信の最終打ち合わせを行う。
司会進行はイベント関連を統括しているスタッフの人。
「今回、配信中の主な進行は茶葉さんにお任せしています。ただ、茶葉さんが進行に当たれないところは、社長が司会進行としてはいることになりました」
スタッフさんが後半嫌そうにそういうと、同様に3期生を除くタレント達がブーブー言い出した。もちろん1期生も含め。
3期生の凪ちゃんを除く2人はなぜだろうと言った形で頭にクエスチョンマークを浮かべていたが、凪ちゃんは流れに乗って一緒にブーブー言っていた。
それを見ていた社長も不服そうだが、ノリは良いのでなんだか楽しそうだ。
「私だってちゃんとできるから!」
「まあ、ほどほどにお願いします……」
「配信内容ですが、いくつか用意してあります。適当なタイミングで区切ってテンポ良くやっていきましょう。
初めに自己紹介をした後、まずはクイズをします。クイズの読み上げ担当は茶葉さんです。
クイズは個人戦と団体戦に分かれていて、団体戦では読み上げ担当が社長になります。
クイズ前半はみなさんの知識などを競うものに。後半になってきてある程度視聴者の数が増えてきたところで、SunLive.関連のクイズになります」
前半は普通にクイズ大会。視聴者が増えてからSunLive.関連のクイズを入れることで、SunLive.をあまり見ていない人にどのような事務所なのかというのを知ってもらうことができると言うことで、この順番だ。
知識を競うものは学校の授業でやるような奴から、変なもの、マニアックなものまでいろいろ用意しているみたいだ。私は団体でしか参加しないのでみんなの回答を面白おかしく裁いていく担当だ。
私ツッコミってあまり得意じゃないのだが、そこが少し心配ではある。
とまあ、こんな感じで会議がどんどん進行していった。
会議が進行して行くにつれ、私たちもついに配信が始まるという気持ちになってきた。
ついに配信が始まる。
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