第103話 凪ちゃん到着
「ここがオフィス?」
「そうだよ」
「はえぇ~……」
あれから電車に揺られてしばらく、駅を出て今はオフィスの目の前にいる。
凪ちゃんはなぜかオフィスの前で立ち尽くしてオフィスを見上げている。こんな灰色っぽい建物だが、思うところがあるのだろう。
「なんか、社会人って感じ」
「そう?」
「そうだよ。島にはこういう事務所みたいなのってないからね」
「じゃあ早速入ってみようか。みんな待ってるし荷物置きたいでしょ?」
「うい~」
「ただいま戻りました」
「初めまして~……」
オフィスに入ると、みんなが一気にこちらを見てきた。そりゃあ誰も一度も会ったことのない唯一のVTuberが参上したわけだからね。気になるよね。
凪ちゃんはなぜか先ほどまでの堂々とした態度とは違い、怯えるような感じで挨拶を返している。
「どうした?」
「い、いや、だって島の人口100人もいないから……」
「理解」
どうやら人が多くてビックリしているようだ。しかも普段は高齢の方とお話しすることが多いみたいで、東京の社会人の溜まり場が恐怖らしい。
そう半身を私の後ろに隠しながら(私が小さいせいで隠れていない)きょどきょどしていると、社長が大きな声でこちらへとやってきた。
「汐ちゃんお帰り~!」
「ひぇ」
「ちょっと社長! ビックリしちゃいますよ!」
「え!? 凪ちゃんってそんなキャラだったっけ?」
「人が多くてビックリだとか。空港ではそこまでだったのに」
「いや、空港ではみんな私に興味関心を持っていないから……」
「あ、そういう感じなんだ」
凪ちゃんの性格上1時間もしないで慣れるとは思うが、念のため会議室に場所を移すことにした。軽く会議室で話した後に上の仮眠スペースへと荷物を持っていく。
「改めまして、SunLive.プロダクション株式会社代表取締役社長の三条実です。本日はどうもよろしく」
「よろしくお願いします」
軽く挨拶の後、社長が軽く凪ちゃんの全身に目を通した後、一言。
「エロいね」
「は?」
バコォンッ!
衝撃、空を舞うペットボトル、社長の顔面にクリティカルヒット。
「ちょっと汐ちゃん! なにするのさ!」
「何するのさじゃない! セクハラババア!」
「だってエロいでしょ! 日焼けタンクトップの上に他人の上着羽織ってるんだよ!?」
そう社長が絶叫。
凪ちゃんはふと思い出したようにこっちを見て言う。
「あ、返すの忘れてた」
「はえー、今の仕草良いねぇ……」
と、上着を脱ごうとする凪ちゃんを見て一言。
「コラババア! ああもう、凪ちゃんとりあえず返さなくて良いから。社長、うちのタレントにセクハラしないで下さい!」
「私ってセクシーですか?」
「うーん、セクシーじゃないんだけどね、なんていうか」
「いいですから、とりあえずこの話は終わりましょう。凪ちゃんも乗らないで」
やはり凪ちゃんは香織タイプであった。社長はよくこれで社長をやれているもんだ。
結果、凪ちゃんはアレで緊張がほぐれたらしく、そこから軽い雑談をして、私たちは荷物を置くために階段を上がって仮眠室の方へ向かっている。
「ごめんね、うちの社長が」
「大丈夫。あんな感じって聞いてたから」
「ならよかったよ」
「荷物ここでいい?」
「ありがとう。それにしても凄いね。本当にホテルみたいだね」
「そうだね。社長が借金してまで作ったらしい。回収できるから良いんだとよ」
「おぅっ、なかなかアグレッシブっ」
凪ちゃんはいろいろやることがあるということで、3週間ほど東京に滞在するらしい。
今までオフィスに一度も来ていなかったので、オフィスででなければできないことをやるそうだ。東京の観光もしたいらしいし。
凪ちゃんは農業や林業、畜産に水産など、いろいろな仕事をやっているそうだ。それの傍らVTuberとして活動もしている。
島では協力して1つの仕事をするというのが一般的なようで、時期によっていろいろしているんだとか。だからそういった仕事がないこの3週間は実質休みみたいなものなんだとか。
少し遅めの春休みだーって言っていた。
だからこのカプセルホテル風仮眠室には長期滞在。
「あとで必需品の買い出しとか行かないとね」
「東京のお店楽しみ~」
「ああ、静岡在住の私が言うことでもないだろうけど、そんな期待するほどのものでもないよ。島とあんまり変わらないんじゃない?」
「え? うちの島売店ないよ」
「え~! そうなの!?」
「そうそう。なんか今度できるらしいけど」
「すごいね……」
じゃあ凪ちゃんってコンビニとかもあまり行かないんだろうな。
「おお、中思ったより広いね」
「ここで鍵閉められるから。電気はこっち」
「あーい」
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