第100話 久しぶりの事務所

 長い渋滞を抜け、まもなく事務所に到着すると言ったところ。既に高速道路は降りていて、事務所付近の住宅街の中をすり抜けながら向かっている。


「もう着くね」

「うん。連絡入れてあるから」

「ありがと~」


 角を曲がってかくかくとしたコンクリートの事務所が見えた。既に連絡を入れてあったが為に、社長が下へ降りてきて手を振っている。なぜだか懐かしいような感じがした。


「こんにちは」

「久しぶり! 元気してた?」

「そりゃあ元気もりもりですよ」


 窓を開けると、東京の空気が一気に室内を駆け巡る。明らかに自然に近い浜松の空気とは異なっているのを感じる。この空気を吸うと東京に来たという感じがする。


 駐車場は場所をしっかりと空けてあるみたいで三角コーンが置いてあった。その三角コーンを社長が退かしてくれて、退かされたそこにキャンピングカーを停める。


 どうやら一番広い所を準備してくれていたみたいで、キャンピングカーでもすんなり停められたみたいだ。香織が運転が上手なお陰かもしれないけどね。


「長旅ご苦労」

「運転ありがとうね」

「は~い」


 さぁさぁ入って、疲れているでしょうと社長に促されながら事務所の中に入る。とにかく懐かしい。まだ数ヶ月しか離れていないのに。


 階段を上り、いつも私が仕事をしていたオフィスエリアに入る。そこでは以前と変わらずに社員さん達が頑張って仕事をしている最中だった。

 そりゃあ明日公式配信があるわけだし、みんな気合いを入れているよねと言った感じ。


「お久しぶりです」


 私たちが社内に入ると手を少し止めて皆こちらを見てきたので、一言挨拶をして軽く会釈をしておいた。


「先輩!! お久しぶりです!!」


 すると、マネージャーエリアから1人の人がこちらに向かって歩いてきた。


「おお、西原さんお疲れ~。どう? 仕事は順調?」

「はい! 滞りなく進んでいますよ~!」


 と、西原さんは言っているが、マネージャーエリアは皆疲れたような顔をしている。


「うん。西原さんのことじゃなくてマネージャー部門のことはどう?」

「あ~……、みんな明日ちゃんと揃うのか不安みたいですね~」


 VTuberは朝弱い人が多い。なぜならゴールデンタイムが夜のみんなが仕事や学業を終えたタイミングであるからだ。そのため、大抵はその時間に合わせた生活サイクルを取る。

 ただ、今回はしっかりとこのオフィスに来るという仕事があるわけで、そのためには早く寝たり、遅刻しそうな場合は鬼電を掛けたりと結構気合いを入れているみたいだ。

 何人かの遠い人は今日この後オフィス入りして仮眠室で眠るらしいが……。


「あ! そういえば仮眠室出来たんですよね!」

「そうそう、出来たよ。みる?」

「見たい~!」


 もともとは私たちが住んでいたエリアが改修されたということで、香織も興味津々みたいだ。

 キッチンとかお風呂とかの泊まるのに必要な施設をしっかり残し、たくさんのベッドを置いたらしい。ちゃんとカーテンが閉まるカプセルホテルみたいな奴だ。

 なお、タレント用のベッドは少し豪華な作りになっているのだとか。


「じゃあ早速案内するわ」

「お願いします。じゃあ西原さん、仕事頑張ってね」

「はい!」







 階段を上がると以前私たちが住んでいた家へと入る扉がある。はずだったのだが、どうやらその扉すら取っ払われてしまったみたいだ。

 中からはオレンジ掛かった温かみのある光。元々フローリングだった廊下には絨毯のような物が敷き詰められている。


「すごい……」

「凄いでしょう。これをやるためにちょっと奮発しちゃった!」


 ん、まって? 奮発しちゃった?


「社長……、もしかして……」

「あ、あはは~、事業は上向きだから……」


 ……まあ詳しくは言わないことにしよう。




「まあ気を取り直して、ここが我々の仮眠室。合計で最大20人まで寝られるようになっている。タレント用の部屋は6つしかないけど、そこは少し広めにとってあるよ。使っていないときは社員も使える」

「すごい……」


 思っていたよりもちゃんとカプセルホテル風でビックリした。寝るスペースは寝返りがギリギリ打てるほどいった感じ。まあカーテンなどで仕切られていてプライバシーが守られると言うことを考えれば十分だろう。

 また、引き出し式の机が完備されていて、充電ケーブルまである。しっかりと荷物を収納できる棚まであって、鏡なんかも置かれている。豪華だ。

 さらにVTuber用の仮眠室の場合はカーテンが扉になっていて鍵を閉めることが出来るようになっていたり、少しベッドが広かったりと少し変わっているらしい。

 これなら快適に過ごせそうだ。


「汐ちゃん達は今日はキャンピングカー?」

「えっと、ちなみに今日ってこれ空いてたり……」


 そういいながら私はタレント用のベッドを指さす。さすがにこれを見させられたら泊まりたくなってしまうのも頷けるだろう?


「わかったよ。そう言うと思ってた」

「「やった!」」   

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る