第99話
「あれ? ETCカードって入ってたっけ」
「入れといたよ」
「ほんと? ありがと~」
てな感じで、私たちは今高速を目指して国道を走っている。長らくここに住んでいるというわけじゃないけど、東京に比べて出身地が近いために謎の地元感がある。
しばらくの活動休止期間は、香織がVTuberとしてデビューしてからでは最も長い休み期間となった。今までは長くても1週間ほどで、個人勢の頃なんかは特に休みなく配信をしていた。
それほどまでにやっぱり厳しい戦いで、一定数固定ファンが付くまではとにかく苦労したものだ。そんな私たちが人気になって学生の頃夢見た東京で仕事をしていたわけだ。
驚きすぎる。そうして今も私たちは東京に向かう旅をしている。旅って言うほどでもないが。
「お菓子いる?」
「あ~!」
私がスナック菓子の袋を開けてそう言うと、香織がここに入れろとばかりに大きく口を開けた。なので運転の邪魔にならないように口の中にお菓子を放り込んでおいた。
「そういえば高速道路の混雑どうなってる?」
「とりあえず静岡内は大丈夫そう。神奈川辺りからは渋滞すると思う。今のところは渋滞はほぼないよ」
東京の高速道路は基本的に常に混んでいる。12時に着きたいと行っているが、12時に着けるとは思っていない。まあゆっくりいきますよ。
車を運転してからしばらく経った。途中休憩を挟みながら私たちは今海老名サービスエリアの付近にいる。
「こりゃ大変だ」
「うー、疲れる……」
海老名の付近と言ったら渋滞の名所。絶賛私たちも渋滞の中にいるわけだ。
現在時刻は11時。出発から既に3時間ほど経過している。途中サービスエリアでだらだらしたりしていたらこんな時間になったわけだ。
「疲れてない?」
「うーん、話し相手がいるからそれほどね。でも渋滞は辛いよ~……」
やっぱり車は動いていた方が爽快感があって気持ちいい。迂回する手もあるのだろうけど、私たちは高速道路初心者なのでナビ通りに行くことにする。
「そういえばさ、明日ってどんな配信するの? 実は私何も知らないんだけど」
「ダメだよ。言ったら面白みはないじゃん」
「え~? そういう内容!?」
「いやいや冗談だよ。普通にクイズとか質問系とか。でもメインが3期生だから、やっぱり自己紹介系の奴で行く予定」
「準備してあるって言うこと~?」
「そうだね。東京と連絡取り合いながら準備して貰ってあるよ。私もクイズとか参加したいからあまり詳しくは関わらないようにしてるの。楽しみにしてる」
「楽しみだね!」
「初めて全員集合だよね。ていうか凪ちゃん初めて会うよね」
オフィスの改造も結構進んでいるらしく、1ヶ月ほどしか東京を離れてはいないけど、戻るのが凄く楽しみである。配信も凄く楽しみで、オフィスにいるスタッフのみんなが本気で準備をしてくれている。
マネージャーのみんなにも協力して貰っていて、ひっそりとタレントから情報を集めて貰ったりとかね。リスナーのみんなにみんなを知ってもらう良い機会になると思う。
凪ちゃんは全員初めて会う。ビデオ通話したのも数回で、基本的には声のみのやりとりだ。なので非常に楽しみ。
活動を休止している今も、凪ちゃんとはよく連絡を取っている。私が一時的にマネジメントの業務から外れているために、別の人が別の人に交代でマネージャーとかをやって貰っている。
凪ちゃんは私が戻ってきたときにどんなことをしていたのかわかりやすいようにということで、して貰ったことを私に報告してくれていたりする。
明日会ったら引越祝い上げるね~! とか言われていて、正直何が来るのか心配で心配で仕方がない。祝い品を心配に思うのもどうかと思うが。
以前凪ちゃんが送ってくれたマルアジは消化するのに結構時間を掛けた。しばらくは事務所でお昼ご飯のおかずを無償提供していた。凄くおいしかったけど、しばらくアジは良いかなと思った。
そんなこんなで、私たち2人は非常に今回の配信を楽しみにしていたわけだ。配信したい欲も高まっているので、ここ最近でトップクラスにモチベーションが高い。
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