第96話 車

「ていうかお昼どうしようかな……」


 香織はどうやら実家で昼食を取ってから車で帰ってくるらしく、こっちで食事を済ませても良いようだ。

 比較的田舎と言っても、ここは田舎の中では都会なのかもしれない。少なくとも東京に行く前私たちがいたところよりは都会だ。

 そのため、近くにはコンビニがあるし、駅前には食事屋さんもいくつかある。少し道を出た国道沿いにはいくつかチェーン店なんかが建ち並ぶエリアもあるし、正直外食しようと思えばいくらでもできはする。

 まあ車がないから歩いて行かなきゃいけなくて面倒だけど。


「だからといって買い物に行くとなるとそれもまた車がないとダメなんだよな……」


 結局買い出しには行かないといけない。そうしないと今晩の食事がない。昨日は駅で駅弁を買ってきていたからなんとかなったものの、実は今朝から何も食べていない。

 徒歩で買いに行っても良いけれど、食料品を買える店までは徒歩でしばらく掛かる。帰りに歩いて帰ってくるのが億劫だ。


「よし、コンビニで済まそう」


 コンビニなら徒歩で行ける。買い出しは車が来てからだな。








 ハンバーグ弁当を買って帰ってきた。電子レンジで温めている間、ぼーっと椅子に座って温め終わるのを待っていたところ、香織から連絡が届いた。


『右と左、どっちの車がいい?』

「???」


 右と左どっちがいいっていわれても、写真も何もないから選びようがない。


『写真送ってくれないと困るんだけど……』

『写真送ったら面白くない!』


「はぁ? いやいや、どうやって選べと……」


 私らの生活を左右するかもしれない車を、どうしてこうやって運で選ばせようとするのか。ていうか親御さんは2台の車を用意していたのか。


「ああ、もうどっちでもいいや。私が右利きだから左で」


『左で』

『おっけ~! ご飯食べ終わったら帰ります!』

『ん。安全運転でね』









 この間に部屋の片付けを進めようと片付けをしていたところ、道路を車が通る音が聞こえてきた。

 そりゃあ車の通る音くらい先ほどから聞こえてきているのだが、私らの家の駐車場に面する小さな道は、ここら辺に住んでいる人しか使わない道。

 だからそこから音が聞こえてきたと言うことは香織か、はたまた超ご近所さんのどちらかが帰ってきたか合図なのだ。


「帰ってきたかな?」


 違うかもしれないが、一度片付けを中断して玄関の方に向かうことにした。






「あ、車がある……、って、ん???」


 明らかなフラグが立っていたから普通の車が来ないというのは私も察しが付いていたさ。でもちょっと思っていたのとは違ったかも。


「私とんでもない高級車が来るとかそういうのを考えていたんだけどなぁ……」


 いや、高級車が来て欲しいというわけじゃなくてね。でも香織の実家はとてつもないお金持ちだったりするし、正直どうやってフラグを回収するかわくわくしていたのだが、まあ別に嫌な車じゃないよ。結構わくわくはするけど、ちょっと想像とは違ったなぁって言う話。


「いや、捉え方によっては高級車か? あぁ、まあいいや」


 いろいろ考えてたら私まで頭がおかしくなりそう。香織の両親なんだから頭がおかしくて当然だった。


「ただいま!」

「うんおかえり。で、この車は?」

「ふっふっふ……! Wi-Fi・キッチン・トイレにお風呂完備。最大5人まで寝られるベッド付きで、テレビにソファーに冷蔵庫までついた我が家自慢の特注車! キャンピングカーだよ!!」


 私らの家の素敵な駐車場に止まっていたのは明らかに普通ではない車。背丈は高いし、妙に角張っているし、運転席の上の方に出っ張っている奴が着いているし。

 そりゃ普通の車が来るなんて思ってなかったけど、まさかキャンピングカーが来るとは……。


「いや、私のママとパパってキャンプ好きでしょ?」

「そうだね」

「で、私VTuberでしょ?」

「そうだね」

「だからだよ」

「なんで?」


 明らかに説明が足りていないのでいろいろ聞いてみた。


 まず第一に、香織の御両親はとてつもないアウトドア派。どうしてこの両親から香織が生まれたんだろうと思ってしまうほどの超絶アウトドア派。

 休日は絶対にどこかに出かけているし、長期休暇ともあれば基本的には家にいない。

 子供の頃は香織もよくついて行っていたけど、高校生になってオタ活に目覚めてからは着いていかなくなったんだよね。


 そしてそんな御両親、特にキャンプと釣りが大好き。車の荷台に必要物資を詰めて、「サバイバルキャンプしてくる!」とかいって飛び出す始末。きっと娘にもキャンプを楽しんで欲しかったのだろう。


 ちなみに、そんな御両親は香織がVTuberをやっていることをもちろん知っている。香織が以前どこでも仕事が出来るよと言っていたので、Wi-Fiを完備したキャンピングカーを買ったのだろう。

 移動しながらVTuberやれって? さすがに機材関連が厳しいんですけどね。でも正直出来なくはない。


 でも正直うれしいなって思っちゃう私がいる。キャンピングカーで日本一周とか正直憧れてた。後輩ちゃん達を呼んでみんなでキャンプとかしても楽しそうだ。

 ただ、キャンピングカーでショッピングモールはちょっと目立つなぁ。


「あれじゃない? 企画で使えそうじゃない?」

「あぁ、たしかにそれはそうだね……。そういえば、私に右左で質問してたけど、右はなんだったの?」

「もう右側? あぁ軽トラックだよ~」

「ああ、どっちも普通じゃなかったんだ」 

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