第93話 引っ越し
「いやー、寂しくなるね」
「何言ってるんですか。別にオンラインで仕事は一緒にするわけですし、結構な頻度でこっち来ますから」
「それもそうだね。でも心の持ちようという物があるんだよ、わかる?」
「はあ……」
今日はついに引っ越しの日。既に荷物は引っ越し先に送っていて、私たちは体だけ移動することになる。香織はここ数日配信活動をお休みしている。引っ越しが終わって落ち着いたら配信で引っ越したことを明かそうと思っている。
まあ隠すほどたいそうなことでもないけど。
引っ越してもこのオフィスへは頻繁にやってくることになると思う。新幹線の交通費はバカにならないけど、東京の家賃と静岡の家賃を比べれば月1往復くらいならそこまで痛手ではない。しかもどうせ経費で落ちるし。
東京生まれ東京育ちの人からしたら一気に不便になるように感じるかもしれないが、私たちはこれから引っ越すところよりもっと田舎の土地にしばらく暮らしていたわけで、それから比べれば進化。
しかもVTuberという仕事はどこにいても出来るから。香織はスタジオを頻繁に使うような活動の仕方をしていないし。
「みんなも、困ったことがあったらいつでも連絡してね。あとは西原さんと神田さんの2人をしっかり頼ること!」
マネージャーのみんなにもしっかりと挨拶をしておく。
「個人勢のサポート事業に関しては私も遠隔で参加する時があると思うので、そのときはよろしくお願いします。じゃあ、後は任せます!」
「うす! 気合い入れて頑張ります!」
私がいなくなり、オフィスでのマネジメントの統括は西原さんに移った。マネジメントの最高責任者は私だけど、オフィスでの事業は西原さんにお任せと言うことになる。
「香織、何かある?」
「うーん、みんな頑張って!」
はい、じゃあ行きますかね。
「いやぁ、新幹線も久しぶりだね~」
「そうだね。思ったより早く戻ることになったな」
東京駅から新幹線に乗って引っ越し先へ向かう。新幹線を降りてから1回乗り換えがあるのだが、前住んでいたところとは違って電車の本数は比較的多い。
時刻表を調べない癖が付いてきているから、それはありがたいかもしれない。
「駅弁駅弁~!」
「もう、まるで旅行だな」
「旅行でしょ! 新幹線は旅行だよ!」
香織はどうやら新幹線の中で食べる駅弁に心を躍らせているらしい。東京駅から浜松駅までは新幹線でだいたい1時間半。お弁当を食べて少しだらだらしていたらあっという間に着いてしまう。
「乗ったらすぐ食べ始めだね」
「そうだね~、汐ちゃんは何食べる?」
「私? そうだなぁ……、牛タン弁当とか?」
「いいね! 私はカツサンドかな~?」
東京駅は全国各地から駅弁が集まるから楽しい。正直旅行先でお土産買うの忘れても東京駅で買えちゃうからね。風情がないけど。
さすがは日本経済の中心地というだけはある。
「ついた!」
「ここから乗り換えだよ」
「そうだったそうだった!」
私たちが住む場所までは、浜松駅から少し離れている。そこまでは電車ですぐだからいい。
浜松はウナギが有名で、有名な楽器会社もある音楽の町でもある。うなぎのパイなんかはいろいろなところで売っていたりするから有名じゃないかな?
方言は遠州弁。私たちは元々この方言が着いていたんだけど、VTuberを始めるに当たって矯正したんだよね。伊豆に行ったときに方言をつける大作戦を決行したけど、いつの間にか標準語に戻ってしまった。
浜松は良いところだ。東京にも大阪にもすぐ行けて、適度な都会と適度な自然。近くには海も山もあって、車がなくてもある程度は生活できるほどには交通網も整っている。
でもせっかくだから車は買おうかなと思っている。
これからの新生活正直楽しみで仕方がない。
「うーん、アニメショップと離れてしまったのが寂しい……」
香織も楽しみではある物の、秋葉原に行きにくくなってしまったことをすこし残念がっているらしい。
「別に秋葉原じゃなくてもアニメグッズは買えるでしょ……、今はネットショッピングとかあるし。ていうかこっちにもアニメショップくらいはあるよ」
「うーん、まあ確かにね……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます