第91話 雑誌の取材
「雑誌の取材?」
「そう。うちもなんやかんや軌道に乗ってきたでしょ? 取材したいって雑誌があってね。良かったら汐ちゃんにお願いしたいんだけど」
「はぁ、了解しました」
また突然仕事が増えた。今度は雑誌の取材らしい。
私たちの会社はまだ創業してから1年も経っていないような会社だけど、VTuberという事業自体が広がりを見せていることもあってか、相当業績は上向き。
2期生や香織の活躍もあってVTuberの事務所の中では結構名前がしれている程度まで成長してきた。ならば雑誌の取材が来るのもう頷ける。
「取材日はいつですかね」
「来週の半ばで調整を進めてたんだけど、都合悪かったりする?」
「来週ですか? いいですけど少しは当事者交えて話をして下さいね」
「うん、気をつける」
うちらの社長は相当有能だ。何でもかんでも一人で出来てしまうから、何でもかんでも一人でやってしまう。そこは少し悪いところかな。
今回も明らかに社長がやるような仕事ではないのにもかかわらず、雑誌の取材に関する打ち合わせを社長が行っていたらしい。どのようなことをするかというのは既に会議で決めてあるから、取材だけ答えればいいそうだ。
余談だが、私は今常に行っているような仕事に加えていくつか予定を貯めている。雑誌の取材もあるが、引っ越しもこなさなければならないタスクのひとつ。それに3期生あと1人のデビューが終わった後、しばらくしたら全員のコラボ配信をしないといけない。
全員のコラボ配信は私を含めた所属Vが全員この事務所に集合してやるのだが、ホテルの手配をしなくても良いというのは非常に楽だ。
私たちが引っ越しをした後の部屋に仮眠室が設けられるから、そこにみんな宿泊だそう。
時は流れ、本日は取材日当日。取材は私が雑誌の会社に出向くことになった。理由は今日の夜から3期生のラストがデビューをするからだ。タレントが朝から事務所で準備をしている。
私はあくまで裏方職を兼任しているからいいけど、3期生のこのプライバシーとかを考えるとあまり外部の人を入れたくはない。
それにこちらに機材を持って頂くよりも、こちらが出向いた方が出版社側からしても都合が良い。基本的にはどの取材対象の方にも出向いて貰っているのだとか。
電車に乗って訪れた。自動扉をくぐって受付で名前を言うと、少々待たされた後に担当の方がやってきた。
「ではよろしくお願いします」
「お願いします」
私も社会人としてそれなりのおしゃれをしてきたが、キャリアウーマンぽく見えているだろうか。
その担当さんに連れられ、私は取材を行うブースの方に案内された。こういった出版社というのはなかなか来る機会がないから少しあたりを見渡してしまう。
この会社はアニメ、ゲーム、動画配信などのインターネットコンテンツに関連したことをまとめている雑誌を出版している会社で、雑誌の他にもライトノベルや漫画と言った物も出版しているようだ。
廊下には最近アニメをやった作品のポスターがサイン付きで飾られていたりする。なかなか面白い。
本屋を含め、本を扱う場所ってなんとなく室温が低いように感じる。たしかに最近少し熱くなってきたと思ってはいるが、もう既に冷房が回っているのだろうか。
「では、こちらの部屋で取材をさせていただきます」
「わかりました」
案内された部屋の中に入ると、真っ白くて長細い机の上にぽつんと置かれたペットボトルのお茶があった。それにボイスレコーダーのような物とカメラに照明。
なるほど、これが取材ブースか。
荷物入れが用意されていたため、中に荷物を入れる。椅子に腰を掛け、椅子のそばに荷物入れを寄せておいておく。
「はい、えーっと、写真の方なんですが、普段VTuberとしても活動していらっしゃると言うことで、今回は無しにさせていただきたいと思いますがよろしいですか?」
「ああ、ありがとうございます。私としてもそちらの方がうれしいです」
雑誌の会社は私に気を遣ってくれているらしい。確かに実写の写真を雑誌に載せられるのはあまり好ましくない。まあ私のチャンネルに実写上がっているけどね。
「でしたら後日掲載用の写真の方を10枚程度送って頂ければと思います。配信中の画面等で構いませんので」
「わかりました。事務所に戻り次第対応しますね」
10枚は少し多いと思ったのだが、おそらく送られてきた写真の中から良い物を厳選するのだろう。少しでもいい物を作りたいというのは私も思っていることだし、それくらいは協力をしよう。
「ありがとうございます。では早速取材に入らせていただきます」
「よろしくお願いします」
私がそう言うと、ボイスレコーダーのスイッチを入れて早速取材が始まった。
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