第88話 3期生のマネージャー陣
「神田さん、そっちの子はどうですかね」
「そうですね……、正直不安です」
「あ、不安なんですね」
「はい。不安です……」
自分が担当している凪ちゃんのデビューが上手くいったと言うことで、私には心の余裕が生まれた。そのため、こうして他の3期生の方に目を配っているわけだが……。
「この子、あまりにもコミュ障過ぎて、まず私との会話すらも……」
「あらら、それはなかなかやっかいそうですね……」
「はい。学生時代を思い出して正直嫌な記憶が出てきます」
「あ、そっちね。あ、うん。頑張って」
神田さんが担当している子、面接で相当なテンプレートでの受け答えをしたらしい。うちを希望した理由を聞いたら、『御社の企業理念に関心を抱きまして』とか、そういうことを答えたとか。
一般企業だったら良いけど、VTuberの募集でそれはあまり合っていないような気がする。社長的には逆にこのテンプレ会話が面白かったらしい。
ちなみに、少し意地悪で2日前の夕食を聞いてみたところ、1分近く黙ってしまって非常に申し訳ない気持ちになったとか。社長もなかなかひどいことをする。
とまぁ、その鱗片は既に現れているわけで、このテンプレっ子がどう来るか。正直私としてはそれが楽しみで仕方がない。
私は1度も話したことがなくて、社内の噂や伝聞でしか聞いたことがないのでよくは知らないので、そのデビューをじっと待つことにする。
「じゃあ、何か困ったこととかあったら相談してね」
「はい。ありがとうございます」
そういうと、神田さんはベージュの回る椅子をくるっと半回転させてパソコンに向かい直した。
(その動作ちょっとかっこいいかも。仕事人って感じ)
「やぁ西原さん。調子はどう?」
「もう超絶好調です! 私と性格が合うみたいで、楽しくて楽しくて仕方ないです! あ、聞いて下さい! りっちゃんったら私のことうーちゃんって呼ぶんですよ! 不思議です不思議!」
「あ~、はいはい。なるほどなるほど」
ちなみに、西原さんの下の名前は
ちなみにりっちゃんは、3期生の
大瀬音は歌がうまくて、面白いことに面接で歌ったらしい。その歌が相当上手で、歌唱方面をメインで活動していく予定で計画が進んでいるらしい。
計画が進んでいるというとまだ形になっていないみたいな言い方だけど、もうもちろんガワは完成していて、設定だって完成していて、後はデビューするだけという段階。デビュー配信で歌ってみたの配信をしたいらしく、今は音響関連の準備中だとか。
「デビュー配信はオフィスで?」
「はい! 音響関連考えたらここでやった方が良いですからね~」
「確かに確かに」
家にオーディオ機器を送ってやるよりも、こっちに出向いて貰った方がこちらとしても楽だ。それに家では使えないような大がかりな物も使えるし、配信の管理も任せて貰えるし。
オフィスに出向いて貰うのは両者にとってもメリットが多いと思う。
「いやぁ、りっちゃんったら本当に歌が上手いんです! この前一緒にカラオケに行ったんですけど、私なんかもう吹き飛ばされそうなくらいで……、あ! そういえばりっちゃんって今二十歳らしくて、もちろん最新の曲はカバーしてるんですよ。でも私が知らないような古い曲から海外の曲まで幅広くカバーしてて、もう配信したら老若男女――」
「あ~! はいはい! 良い感じに進んでいるって言うことはわかりましたっ!!」
これはダメだ。西原さんの悪いところが出ている。まあこれほどまでに相性が良かったと言うことだろう。
3期生もなかなか個性が強そうだけど、マネージャー陣もなかなか個性が強くて困っちゃうかも……。マネージャーだけで配信をしたら面白そうだと思っている。
この考えが出る時点で私は配信に囚われ始めているのかもしれない。まあやるとしたらどこかの節目かなぁ。
場面は変わり、翌日。
私は今オフィスでカタカタとキーボードを打っている。グッズ関連のSNS投稿の内容を書いているところだ。このSNS投稿というのが突き詰めるとなかなか面白くて、特にこの文字数制限という機能。これが面白いといいますか、頭を悩ませると言いますか……。
確かに返信欄につなげるというのもありではあるが、出来ることならば1つの投稿で完結させたいわけ。だから伝えたい情報を端的に書く必要がある。
これが面白い。
「あ、汐ちゃん今ちょっと良い?」
「はーい、何でしょう~」
必死になって画面と向き合っていたら、斜め右後方から社長の声がした。この前神田さんがやっていてかっこいいと思った動作を実践してみる。
右足で地面を蹴って、良い感じに椅子を蹴ってみる。
すると、目的であった斜め右後方を通り過ぎ、プラス半回転で斜め左前方まで椅子が回った。
「……何やってるの」
「あはは、すみません……」
呆れるような目つきで社長が私のことを見てくる。
見事な失敗である。慣れないことはするべきではない。ああいうのはさっとやるからこそかっこいいのであって、狙ってやってしかも失敗するというのはとにかくダサい。反省しよう。
「で、何の御用でしょうか」
「あのね、3期生が全員デビューしてしばらく経ったらSunLive.全員でコラボをしようと思っていて、それの司会をお願いしたい」
「ああ、おっけーです」
「あと、その内容も考えて欲しいわけ」
「あ~、内容もですか……」
「そうなの。お願いしてもいいかな」
「わかりました。まぁ、なんとかやってみます」
「本当! ありがと~!」
なるほど、新しい仕事って言うわけですか。
確かに3期生みんなデビューし終わったら一回企業全員でコラボしたいとは思っていた。何が良いだろうか。
ゲームしてもいいけど、今回の場合はVTuberをメインに楽しんで欲しいわけで、場合によってはゲームメインになってしまうかもしれない。そうなってくるとできるだけゲームは使わない。使うとしても対戦ゲームとかそういうのはやめた方が良いかも。
それこそワタクラとか、そっち系ならありかな。
まあいろいろ考えてみましょうかねぇ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます