第87話 凪塚美波デビュー配信③

『じゃあ、みんなが気になっているであろうママパパ紹介行くね!』


 はい、どん! というかけ声と共に変わった画面には、凪ちゃんのパパとママの名前とSNSのアイコンが表示されていた。

 それが映し出されると同時に素早く流れ出すコメント欄。そりゃそうだ。


『そうそう、私のママはつぼみ先輩!』


「うへへぇ、私が描きましたっ!」


 凪ちゃんがそういった瞬間、香織が語尾にハートをつけながらそう発言した。なかなかの気持ち悪さだと思う。

 でも満足そうにニタニタ笑っているからまあ良いかな。


『これ可愛いでしょ! シンプルなんだけどこれが良いんだよね』


コメント

:わかる

:マジで可愛いな

:癖が詰め込まれていると思ったら……

:さすが、茶葉ちゃんに癖を詰め込んだだけはある

:マジで絵が上手い

:声と合いすぎ

:モデリングも丁寧だね


『そう! パパも丁寧にモデリングやってくれてね、私は今こうしてここにいるわけ』


「この人仕事早くて助かるんだよね」

「でもヌルヌル動くよね~! 技術すごい!」


『でも女性なのにパパって言うVTuberの文化少し変かも……』


「確かにそれはそう」

「パパとママが一緒の人の時もあるし、まあいいんじゃないかな……」


 いやぁ、こうやって2人して2人でデビューまで関わったVTuberの配信を見るというのは幸せだ。


 ソファーの肘掛けに肘を掛け、手の上に顎をのせながら偉そうにテレビを見る。ローテーブルの上にはモデレート用のパソコンがあって、コメントもしっかりチェックしながら視聴している。

 さすがに仕事はちゃんとするよ。


「オレンジジュースでいい?」

「うん。ありがと」


 なんか仲間が仕事をしているというのに、こうやってだらけていても良いのだろうかという気になる。

 あ、私も仕事してるね! じゃあ大丈夫だ。




「それにしても、大分生き生きと配信するね~」

「でしょ? 応募動画見たときにちょっとびびっときたわけ」

「さすがだね~」


 うちの会社にVTuberとして応募するためには、動画を提出する必要がある。そのときに凪ちゃんはただひたすらに楽しく動画を撮っていたというのが伝わってきた。

 内容はそこまで良いわけではなかったけど、自分の“好き”をひたすらに語る。良いじゃないか。


「やっぱり凪ちゃんのマネージャーは続けるの?」

「そうだね。私たちも凪ちゃんも地方になるわけでしょ? なら続けても良いかなとは思ってる。一応私は裏方なわけだし、香織のマネージャーだけって言うのもね」

「でも個人勢の奴はやるでしょ?」

「それはやるよ。でも集中して長期的にサポートできる人も欲しいよ」

「私みたいな?」

「そゆこと」


 画面内の凪ちゃんは、一通りの紹介や決めることなどを決め、後は時間までのびのびと雑談をしている。正確には予定時間を過ぎているのだが、別に上限ここまででっていう指示は出していないので、止めなくて良いかなって言う感じ。

 初めての配信だから緊張するかなと思っていたけど、案外そうではなかったよう。自分が失敗する前に先輩が大失敗をしたから、それが良い感じに緊張の緩和につながったのかもしれない。

 今は朱里を混ぜてひたすらにコメント欄と雑談をしている。雑談って言うより、一方的なものだけど、リスナーって言うのは配信者が楽しんでいるところを見ると楽しくなる物だし、これでいいのだとは思っている。


「凪ちゃんは伸びそうだね~」

「うん」 

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