第84話
あの緊急会議から3日が経った。もしも凪ちゃんがあの会議に参加していなければ、きっと今頃朱里は普通に活動していただろう。
通常通り活動して、何事もなかったかのようにデビューさせる。私たちはきっとそうしていたはずだ。
しかし、今はSNS及び動画配信活動等をすべてストップさせている。あのリプライ以降一切音沙汰がなくなったと言うことで、リスナーのみんなもトラブルがあったというのを察しているようだ。
ただ、ここまでは想定内で、しかもこの反応も狙ったもの。
これもすべて、凪ちゃんが考えたという『初ライブを謝罪配信に』計画のためである。
あの会議の次の日、正午ちょうどに公式SNSにて3期生一発目のデビューが発表され、同時にSNSのアカウントも作成された。ただ、デザインや設定等の細かい情報というのは一切無し。『凪ちゃん』という名前と真っ黒なタピオカアイコン。
2日後にデビュー配信をしますという発表だけ。これをおかしく思ったリスナーのみんなは、これを朱里のトラブルと結びつけ、おそらくあのリプライが原因なのだろうという推測がされている。
もちろんその通り。ただ、それに関して私たちは今のところ一切触れていない。公式声明一切無し。所属V達もリプライに来ても反応はしない。配信コメントに来ても一切触れない。
ただ、サポート中の個人勢の子達は反応している。ただ、「一切知らない」とだけ。なぜなら本当に知らないから。
『ついにデビュー日かぁ』
「ここまでなんとか最善は尽くしました。後は凪ちゃん、任せましたよ」
『任せとき!』
彼女はまさかデビューがこんな形になるとは思っていなかったようだけれど、これはこれで面白いと楽しそうに準備をしている。なんとか良い感じに事態が収束しそうだ。
他の3期生のみんなも楽しそうなことになっているとこの件を見ている。ただ、いきなり人気を持って行かれそうで不安だとも言っていた。これに関してはデビュー後次第。今のままではよく分からない。
とまあ、こんな形でなんとか大事にならずに、いやなっているかな。まあこうやって進んでいるわけだけれど、朱里が情報漏洩をしたことは事実。厳重注意で、今回の件について全面協力するよう告げてある。
3日でここまで準備が出来たのも、朱里が配信等の活動をすべてやめて凪ちゃんの手伝いに回ったからだ。朱里に新しく付いたマネージャーには、就任早々こんな事態に巻き込んでしまって大変申し訳ないと思っている。
「で凪ちゃん。どうやって配信を組み立てていくのか、そろそろ教えて鞍手も良いんじゃないですか?」
『いや、ダメだね。でも安心して、絶対面白い配信になるから!』
「はぁ、まあそこまで言うなら……」
正直不安だ。だって初配信だよ? 凪ちゃんはSunLive.に所属するまで一切配信したことがなかったそうだ。なんならしようとも思っていなかったらしい。昔から香織のファンで、だから募集を見てなんとなくうちに応募して、なんとなく受かった。
だからこその形にとらわれない配信が出来るというのもあるだろうが、正直不安が募る。担当マネージャーである私にも一切情報を教えてくれないのだから。
ただ、私はこの配信、成功すると思っている。初配信で謝罪配信。イラストを描いたママはSunLive.のエース、桜木つぼみ。募集の際に提出された二転三転と切り替わる愉快なトーク。
既に面白い要素が詰まっていて、リスナーにはこの配信内容はデビュー配信としか伝えていない。ガワも明かされていない。名前も凪ちゃんしか。
私たちはこの状況をじっと見守るだけ。
ここからは凪ちゃんの力量に任せるしかない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます