第80話

「では、よろしくお願いします」

『はい』

「では、失礼します~」




「どうでした?」

「大丈夫そうです」

「はぁ~、良かった……」


 ということで、今日も今日とて3期生に関する仕事をこなしているわけだ。

 現在マネージャー3人、うちの会社は例えば日曜日休みとかで全員揃えてしまうと仕事が回らなくなってしまうので、個人個人変わった休みの曜日が設けられている。ちなみに私の休みは水曜日と金曜日で、その水曜日の日に3期生の人が訪ねてきたために私の代わりに神田さんが担当してくれた。

 その内容を元に、私は今日イラストレーターさんにデザインの発注を行ったわけだ。

 幸いなことに、快く引き受けてくれたおかげで今のところは順調に進んでいる。


 だが、ここからしばらくは少し忙しくなるため、3期生の方に回せる時間は少なくなりそうな予感がしている。なぜなら、今日この後から新入社員さんがやってくるのだ。

 私たちはいつも通り個人個人で変わる始業時間から始まり、現在午前10時の状態で全員がオフィスに出勤している。普段は家で仕事をしている人も、今日はオフィスに来て貰っているわけだ。

 なぜ不規則な時間の始業かというと、VTuber達の生活リズムが不規則だからだ。そして、それに関わる仕事をしている私たちの生活リズムも不規則で、例えば9時始業とかに決めてしまうと確実に寝坊する人が出る。

 寝坊していなくても寝不足の人がいるかもしれなく、寝不足で作業効率が落ちたり、ミスをして貰ったりしては困るという社長の判断によって、始業時間に関しては結構ルーズだ。

 また、9時始業と決めてしまうと、それ以前の時間に配信をしているVTuber達の面倒を見られなくなる可能性がある。そういった様々な要因が重なり合って、うちの会社には明確な始業時間は存在しないってわけだ。


 さあ、少し話が逸れてしまったが、さすがに初日からわけの分からないうちの会社独自システムに放り込むわけにも行かないわけですので、新入社員さんには午後から出勤して貰うことになっている。

 それから、しばらくの間はちゃんと10時出勤18時定時で仕事をして貰うことにしているよ。ちゃんと休みは週休2日だし、比較的ホワイトじゃないかな?

 なお、入社式自体は場所の関係やこちらの忙しさ等の関係で、申し訳ないが4月1日にオンラインで行っている。しかもカメラ無しという声だけの。マジで無駄な時間だったなと思っている。

 でもまあ10分くらいで終わらせたから。

 なんか普通は企業理念とかそういうことをやるんだろうけど、それ実際に仕事始まってからで良いし、なんならPDF化して送れば良いよねと言うことでほとんど省略した。


 その日から昨日まで、新入社員の子達は『所属VTuberとサポートしているVTuberの配信を見る』という業務を出しているので、仕事自体はもう始まっている。

 さすがにここまで仕事をさせないというわけには行かないので、予習も仕事のうちと言うことで配信を見て貰っているわけだ。

 入社式の挨拶で社長が言っていたけど、“仕事という体の休日”だよね。「敵情視察も大事な仕事の1つだから、所属VTuberとかじゃなくても、好きなSNSとか見るのでも良い!」っていっていた。だからまあ仕事は無しだね。1日のうちに1秒でもSNSやら動画やら見れば良いんだから。


 そして今日、個人勢の子達含めてちょうど全員配信しない時間があって、それが午後1時。だからこの時間から顔合わせ始めますということで声を掛けている。

 会社での仕事は今日がスタート。


「いやぁ、ついに私たちも先輩ですよ~」

「わくわくだね!」

「変に先輩風吹かせないでよ~」

「それは浅海先輩では?」

「ブーメラン?」

「なんだと!?」


 とまあ、そんな感じでそのときを楽しく仕事をしながら待っているわけだ。


 研修大変そうだけど、これを乗り越えれば私は田舎に戻れるわけだ。そうしたらこちらの業務はすべて後輩達に任せて、私は田舎でのうのうと生活するわけ。

 本格的にVTuber、始めちゃおっかなぁ~! なんて!!


 そう遠くない未来に思いを馳せていると、チャットアプリの通知がなった。


「えっとなになに? 『突然すみません。12時半からゲリラライブします』」

「え? どうしたんですか?」

「個人勢の子が12時半からライブするらしい……」

「「はぁ!?」」

「え? 私たち13時から顔合わせあるって流したよね?!」


 私は西原さんに4月5日の13時から新入社員顔合わせがあるのでその時間帯の配信はずらして欲しいと個人勢のグループと所属の子のグループそれぞれに流して貰っていた。

 でも何で……。


「あ……、個人勢のグループに流すの忘れてました……」

「あ~……」


 なるほどね。






「もう、本当に申し訳ございませんでした」

「いやいや、別に大丈夫だから。サムネとかを緊急で依頼してくるようなことでもなかったし、モデレーターをするだけだからね。それに1時間くらいで終わらせる予定って言ってるし」

「わかりました。顔合わせにいけなくてすみません。終わってからちゃんと挨拶回りますので……」

「いやいや、西原さんは出席して。私がやっておくから」

「そんな! ご迷惑おかけできません!」


 どうせ私はすぐにこのオフィスから離れるわけだし、抜けるのは私の方が良いと思ったのだが、西原さんはどうも私が仕事をしますと言って聞かない。

 うーん、困ったものだ……。出来れば顔合わせにはこれから一緒に仕事をする時間が長いであろう西原さんに行って貰いたい。


「あ! そうだ!」


 ここで私は当初から顔合わせに出る予定のなかったとある人を思い浮かべた。絶対出た方が良いんだろうけど、「まあ私は関わらないから、いずれね~!」とかいって今もだらだら過ごしているはずな奴。


「よし、香織にやらせよっか」







 すぐさま家に戻り、だらだらとテレビを見ていた香織を働かせることにした。


「ということだから、モデレーターよろしくね」

「え!? どういうわけ!?」

「じゃ、あとはよろ~」

「どういうわけ~~~!!」






「ふぅ、一段落」

「えぇ、ほんとに良かったんですかね?」

「いいんだよ。あんなの実質タダ飯なんだからこういうときには働かせないと」

「タダ飯ではないのでは……」


 アイツは一応ここの役員。部下のミスは上司に拭ってほしいものだね。それに私が配信してるときに私のモデレーターやっているわけだし、もう実質マネージャーでしょ。


「じゃ、顔合わせ準備しよっか」

「ほんとに良かったのかなぁ……、まっ! 気にしても仕方ないか!」


 反省の色が一気に見えなくなったのがアレだけど、まあ別に良いよね。

 あ~、困惑している香織の表情が目に浮かぶわ。 

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