第77話 旅行②
「うぉお! 広いね~!」
「ほんとだね。海もきれいだ」
早速露天風呂にやってきた私たち、フルオーシャンビューの景色を堪能しながらゆっくりと温泉に浸かっている。
私たちは基本的に座って仕事をしている。それにずっとパソコンの画面を見ていたりと、力作業ではないものの体を酷使する仕事だと思う。特に目と腰。最近のオフィスワーカーはきっと皆そうだ。
はやり時折自身の体をいたわる期間を設けるというのも大事なことだと思う。私たちはそれが今日なわけだ。
「こうやって浸かってみると、自分がどれだけ疲れていたのか分かるよね」
「そうだね~。家のお風呂じゃ癒やせないものもあるわなぁ」
家の風呂に2人ではいるとやっぱり少し狭くて思うようにくつろげなかったりするのだけれど、こういう場所ならばいくらでもくつろげる。やっぱり温泉って最高だね。
「あらあら、お嬢さん方はどこからきたんです?」
ゆっくりくつろいでいると、優しそうなおばあさんが声を掛けてくれた。
「東京ですよ」
「あら、じゃあ出身もそちら?」
「いや、出身は浜松なんですよ」
「あら! 私も浜松ですよ。私浜北の方なんです」
「あー! 私らは天竜ですね」
「いやぁ、まさかこんなところにご近所さんが!」
「そういえば、今度東に引っ越しますよ」
「そうけ? 浜北いいわよ~」
「そういえば今度再編で浜名区になりますよね」
「そうなのよ~!」
私らが生まれ育った静岡県浜松市は、東西南北と中、そして天竜区に浜北区と分けられている。おばあさんは浜北区の方の生まれらしい。まさかまさかの同郷。
そんな7つに分けられていた行政区も、今度の再編で3つになるそうだ。中央区浜名区天竜区。
分かる人にしか分からないトークをしてしまって大変申し訳ないのだが、こうやっていろいろな人とコミュニケーションも取れるのが旅行の良いところだ。
「ねー、香織?」
「あ、はい。そうですね……」
「あはは……、すみません、この人人見知りなんですよ」
「あらあら! いいじゃないいいじゃない。可愛いわね」
「ええ、そりゃあもう」
ここに来て発動香織の人見知り。実際に顔を合わせていなければ大丈夫だそうなのだが、こうやって顔を合わせると1歩退いてしまうそうだ。
まあ別に良い。私がサポートすればいいだけの話だから。
「やっぱり汐ちゃん凄いね。私言葉が出なかったよ」
「大丈夫だよ。慣れ慣れ」
「うん。それにしても気持ちよかったね~」
「そうだね。景色も良かったし」
じっくりとお風呂を堪能してお部屋に戻った私たち。しばらくすれば食事が届くそうだ。
食堂に行って食べても良かったのだが、2人でゆっくり食べたいと言うことでお部屋に運んできて貰うことにした。食堂は眺めが非常に良いらしいのだが、この部屋でも十分きれいなのでここで食べても良いだろう。
「やっぱり温泉は最高だね」
「そうだね」
「私家に温泉引きたいな~」
「それはちょっと大変かも」
そう内容の薄っぺらい雑談をしていると部屋の扉がノックされた。どうやらお食事が運ばれてきたらしい。
そうして次から次へと並べられていく食事の数々。
「うぉお、凄い……」
「写真撮らないと!」
「すぐSNS上げないでね」
「わかってるわかってる~」
私たちの机の上に運ばれてきた食事の数々。一番目を引くのは刺し盛りだろう。相模湾で取れたおいしいお魚たちがお刺身になって並べられている。
「金目鯛! おいしそう!」
他にも金目鯛の煮付けであったり、伊勢エビを使った味噌汁だったりとここ数年でも類を見ないほどの料理の数々に思わずひっくり返りそうになる。
ちょっと奮発して良かった。
「あ、汐ちゃんあとで写真のチェックよろしく」
「あいよ」
私たちVTuberは旅行に行ってもすぐにSNSに写真を上げたりはしない。してる人もいるだろうが、少なくとも私たちはそれをしない。
なぜならば、旅行中に写真を上げてしまってファンの人が来てしまったら大変だからだ。一拍開けて「○○に旅行に行ってきました」と過去形で投稿するのがいい。
それはVTuberとかじゃなくてもみんなやった方が良いと思う。
「でも写真上げないのも良いかも~」
「ん? なんで?」
「旅行の思い出を2人だけにしておくんだよ~」
「……そっかぁ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます