第75話 何か届いた
香織にはまだ行き先を伝えていないし、実際につくまで行き先を伝える気もない。準備もこちらでしておくからと言うことで、香織にはいつものようにだらけて貰っている。
今日は3月18日で、ここから19、20、21と4日にわたって休みを貰っている。長いかもしれないが、社長が良いと言っているのだからいいのだ。
一泊二日と言うこともあって、荷物自体はそこまで多くない。なのでパパッと支度をしてしまおうと部屋で作業をしていたらインターホンが鳴った。
「私出まーす!」
リビングの方からそう声が聞こえてきたので、よろしくと大きな声で返事した。
しばらくして玄関の方から香織の楽しそうな声が聞こえてきたので、おそらく何か良い物がきたのだろう。バタバタと足音が聞こえてきたので、部屋の扉を開けて私もリビングの方へ向かった。
「じゃじゃ~ん! これなんでしょう!」
そういう香織が見せてきたのは、何やら大きめの段ボール。さては家族からの誕生日プレゼントだろうか。
「誕生日プレゼント?」
「あー! 捉え方によってはそうかもしれないけど、まあそういう意図があったわけではないかも~」
「え? じゃあなに?」
そういうと、ふっふっふっと得意気な笑みを浮かべながら段ボールを開け始めた。
中から顔を出してきたのは、なにやらプラスチック製の何かだったり、布のような何かだったり。
「じゃじゃーん! 私たちのグッズ~!」
そう言って数あるものの中から選んで取り出した香織の手には、茶葉とつぼみが手を取り合っているようなイラストが描かれたアクリルフィギュアがあった。
「おお!! これは凄い!」
私も思わず大きな声を上げてしまった。そしてそのアクリルフィギュアをまじまじと……。
あれ? この絵柄どこかで見たことがあるような……。
「えっへん! そうなのです!」
私が何かに気がついた様子なのをみて、香織が私と違ってある胸を張りながら偉そうにこっちを見てきた。
「そう! 一見仕事をしていないと思われていた私でしたが、なんと! これは私が描いたイラストなのです!」
「え? あ、ほんとだ」
よく見たら見慣れた香織の絵。だから見たことがあったわけだ。
「へぇ、香織もお仕事してたんだね」
「そうだよ~! いろいろ描いたんだから!」
香織が言うには、他のメンバーのアクリルフィギュアの絵はもちろん、缶バッチやタペストリーなんかも描いたらしい。配信してないのに配信部屋に籠もっていると思ったら、まさか仕事をしていたとは。少し見直したかもしれない。
「いやぁー、久々のイラストレーターの仕事頑張っちゃったよ!」
「社長も賢いね。これで予算を少し削れるわけだ」
「ねぇ! 素直に褒めようよ!」
「ごめんごめん。いや~、驚いたよ。でも香織やっぱり絵が上手だから良い物になってるね」
「おぉ……、本当に褒めてきた。ま、まぁ、私も頑張ったから!」
「うんうん」
そう照れる香織を横目に、私は段ボールの中からいろいろなグッズを漁り始めた。
おそらくすべてのグッズが入っているのだろう。大手じゃないからものすごい数は多くないにしても、それでも数がある。
「どこに並べようかな」
「棚とか買わないとダメかな?」
「でもあれだね。引っ越してからやった方が良いかも」
「確かに! でも飾っておかないのも悲しいかなぁ~」
うーむ、せっかく届いたのにそれはそうだ。
「じゃあちりめんの横にでも飾っておけば?」
「ああ! いいねそれ!」
リビングに大きな水槽台をおいて、その上にちりめんの水槽をのせていたのだが、水槽台のサイズが思ったより大きくて左右が大きく空いていた。
そのスペースに臨時で飾っておくことにした。
「私たちの会社もここまできたんだね」
「そうだね~、構想当時から本気だったんだけどさ、まさかこうやって実際の物に出来るとは正直思っていなかったよ」
「私も初めに香織が会社を作るとか言い出したとき頭がおかしくなったかと思っていたよ。まあこうして形に出来て、いい仲間にも恵まれて良かったね」
「そうだね」
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