第72話 書類選考

「えー! この人も応募してくれてる!」


 2人でパソコンを見ている。効率ガン無視で、楽しんだもん勝ちの精神で楽しみながら応募者を選考している。

 やっぱり1人でやるより面白いなって思うことがあって、1人だと無言でやる作業も、2人であーだこーだ言いながらやれるのがいい。私も少し見ていたVTuberが応募してくれていたりする。あとバ美肉って本当にバ美肉なんだって思ったりとか。


「やっぱり女性が多いね」

「確かに。個人勢は女性の方が強いイメージあるからね~」

「でも男性女性問わずやっぱり人気だね」

「そうだね~、どちらにも需要があるから」


 応募してくれている人の7割くらいが女性。でもだからといって男性が人気ないというわけではない。あくまでイメージがあるだけでどちらとも人気が高いわけだ。

 だから選考が難しい。


 3期生の募集の方は数ある応募の中から才能を発掘する。ただ、個人勢の場合は違って、すでにデビューしている状態で、ある程度人気が出ている出ていないの中から選考しないといけないわけ。

 一見簡単そうに見えてこれがなかなか難しい。

 ファンが多い順にとっても別に良いのだが、それが最適な方法かと言われるとそうではない。

 才能があるのに埋もれている場合だってもちろんあるわけで、今までVTuberを個人と企業どちらともやってきた香織の知識と、それをマネージャーとして支えている私の知識を併せて選考しないといけない。


 例えば、登録者が20万人の人と1万人の人がいるとする。ファンが多い順にとると20万人の人をとることになるのだろうが、ここに新たに条件を加えるとそう言い切ることが出来なくなる。

 20万人の人は、4年間掛けてコツコツ積み上げてきたもので、1万人の人はまだデビューしてから1週間しか経っていない。

 確かにデビューしたては登録者の伸びが大きいと言うこともあるが、時間あたり伸びを見れば後者の方も素晴らしいわけ。


 この場合、前者の人の才能は、コツコツと努力が出来ると言うこと。途中で挫折してももう1度前を向いて4年もやってこられた。

 後者の場合は爆発力が大きい。これも立派な才能で、優劣がつけられない。だからこそ難しいのだ。


「何人くらいまで絞るの?」

「そうだね……。社長や社員さんと話し合いをしてから細かく決めるだろうから、とりあえず現段階では50人くらいじゃないかな」

「大分絞るね」

「そうだね。私たちだけでは気がつけない才能もあるから」


 やっぱり難しい。

 でもこれを見ていると自然と時間が過ぎていくんだよね。時々知っているVTuberの人も出てくるし、経歴が面白い人もいるし。

 応募フォームには、一番自信のある動画や配信(切り抜きでも可)をURLでのせるようなところがあるのだが、そこにつけられているものを見ているとそれぞれ個性があって面白い。

 それをここがこうだとかいいながら見ていく。


「ふむふむ、この編集の仕方勉強になるな……」

「ちょっとまって、いま私たちのメインはVTuberの子であって、切り抜きの編集ではないよ!」

「あぁ、ごめんごめん。ちょっと職業病が……」


 たまにこういうこともある。この切り抜き師さんうちで雇いたいわ~。




「あ! この子私コラボしたことある!」

「ほんとだ。あれから凄い人気出たよね」

「うんうん! この子はね、めちゃくちゃ親切な子でね、私がメールを1週間未読無視しても怒らなかった!」

「うん、代わりに私が説教してあげる」

「あ、あとでね~、ははは……」


 コイツ、私が知らないところで迷惑を……。

 今度個人的に謝っておこうかな。


「でもね、本当に凄くて、私が変なことを言っても良い感じに拾ってくれるしね、それでいてボケも出来るわけ。空気も読めるし、ゲームはそこまで上手って言うわけじゃないんだけど、上手ではないからこそのプレイって言うのが面白いんだよね」

「ふむ、この子確かに視聴者との交流も素晴らしいね。これは候補かも」

「いや~、確かに1人じゃ厳しくなってきたから企業に入りたくて探してると入っていたけど、まだ探してたんだ。やめてなくて良かった。もしもやめてたら業界の損失だよ」

「そんなに?」

「うん。私はこの子押していきたいかも」


 こんな感じで、過去のコラボ経験や横のつながりで聞くようなことを付加情報として添えてくれるから、より捗るわけだ。

 普段はだらけまくっているけど、やはりやるときにはやるというのが香織。

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