第71話

「しゃあ、気合い入れていくぞ!」

「おお、随分やる気だね」

「はい! 私、これが終わったら東京とおさらばしようと思っているんです!」


 翌日、気合いを入れていたら社長がやってきて話しかけてきた。

 私がフラグみたいな構文を発すると、何言っているんだコイツと言った目で見られた。まあ田舎に帰ること言ってないからね。

 3期生が採用されて、4月になってマネージャーの大量追加の後、私は田舎に帰ります。


「あ、社長」

「ん?」

「質問なんですけど、サポート事業っていつから始めますか?」

「そうね……、とりあえず現段階のマネージャー3人って言う状態では回せる人数的な面で足りないだろうから、とりあえずは4月かなと考えているけど」

「分かりました。4月って時間があるのかないのか分からないですね」

「そうだね。とりあえず2ヶ月。新人教育とかも考えると少し早まるかも」


 新しくマネージャーがきたら仕事の内容を教えないといけない。教えるためには私たちが慣れていなければならないわけで、3月のうちから初めても良いかもと言うことらしい。

 所属のVTuberは大丈夫だけれど、サポート事業でヘマをやらかすわけにはいかないので、新しくきた子はしばらくうちの子達で練習させてから回さないといけない。

 サポート事業はしばらく私と西原さん、神田さんの3人で回すことになるかも。


 まあ後のことを気にするよりも先にやるべきことがある。今、目の前のモニターに映っている大量のメッセージを消化していかないといけないわけ。

 フォーム形式だから状態が整っていて楽ではあるけど、それでも数が多い。


 サーバー関連でバタバタしている社内。2期生も配信があって西原さんと神田さんはこのメッセージを見る時間はない。ていうか採用担当ではないのでほとんど関わらない。

 今回採用を担当しているのは私、社長、香織ともう2人社員さんで計5人。社長は急がしそうにしているから、メッセージ消化できるのは4人。

 社員さん2人には3期生のものを。私と香織にはサポート事業のものが任されている。


「……香織ちゃんとやってるかな」


 上の階。私たちの家では香織が同様の作業をしているのだが、ちゃんとやっているのか不安になる。


「はぁ、私も上でやろうかな」


 同じところで作業をしていた方が情報共有とかも出来て楽だろう。こっちに降りてきたけど家に戻りますかね。


「社長、自分家で作業しますね」

「おお、わかった。何かあったらメールか電話で聞いて」

「はい。では失礼します」








「あれ、汐ちゃんどうしたの?」

「いや、集中してるかなって」


 そういうと、香織は私を怪しむような目で見てきた。

 はい、そうです。先ほどまでの物は建前で、こっちに上がってきた理由は他にあります。


「どうせどこから手をつけて良いか分からなくて作業できない。とかじゃない?」

「うん、正解。よく分かってるね」

「だって私も同じだからね~。上から手をつければ良いんだろうけど、私たちってバカだね。分担範囲決めてなかったから」

「うん。だからさ、一緒に作業しよ」

「いいよ~、どこでやる?」

「リビング」

「おっけ~」


 普通は分担をするときに、ここからここまでを私が、ここからここまでを香織がとか決めるのが良いのだろうけど、私たちはそれをやらなかった。

 香織が上からやるとみて下からやろうかなとも思ったけど、リアルタイムで送られてくるので下が存在しないみたいになっている。


 その結果、どこから手をつけて良いのか分からず、まったく集中できなくなったからこっちに戻ってきたのだ。


 リビングにノートパソコンを持ってきて、それを2人で見ながら一緒にあーだこーだ言っていく。

 効率は落ちるだろうけど、3期生の方に比べて数自体は少ないし、私はいまはこれと、香織のマネージャー以外の仕事がないから、時間だけはあるし少しくらいゆっくりやっても良いだろう。

 あと2ヶ月。サポート事業の対象者になった人と内容のすりあわせをしたりとかしてたら案外すぐかもしれないなぁ。

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