第70話

「サーバー落ちてるよ! 復旧まだ?!」

「いまやってらぁ!!」


 配信が終わり、香織と一緒にご飯を食べてから下のフロアへ顔を出したところ、社員さん達が慌ただしく動いていた。どうやらアクセスが集中しすぎてとんでもないことになっているらしい。

 想定よりもはるかに多い人数を私は集めてしまったというわけだ。我ながら凄い実力。


 って、言ってられるような状況ではない。もちろん社長に言われて私はいま雑用にかり出されているわけだ。


 募集が始まってからまだ2時間も経っていないが、現段階で大量の応募があるらしい。個人勢も想定よりも速いペースで応募がきていて、ここからが大変だろうなぁと社長が嘆いていた。

 私も嘆きたい。


 SNSのトレンドにもうちの会社名が入っていて、不名誉なことに鯖落ちなんていうワードも入っている。サーバーにあまりお金を掛けていなかったことが仇になってしまったようだ。

 弱小企業でグッズ販売もしていないような会社のWebなんか誰も見ないだろうと、予算を削っていたわけ。やらかしだ。

 これからはグッズもあるし、サーバー強化は必須だろう。


 とりあえず今はこの修羅場を乗り越えよう。






「はぁ、疲れた」

「お疲れ様」

「ここからが大変だよ。だって明日から大量のメールに目を通さなきゃいけないわけだから」

「でも応募してきてくれるのはうれしいね」

「そりゃそうだよ。うれしい悲鳴」


 確かに面倒くさいという気持ちもあるけれど、私たちが作った事務所がこんなに知名度が出たことに対して、純粋に喜びを感じている。数ある企業の中から私たちを選んでくれている。きっといくつか出している人もいるだろうけどね。


「それにしても汐ちゃん配信慣れしてきたね」

「そう?」


 ちなみに今は2人でお風呂に入っているわけだけど、水をぽちゃぽちゃとしていたら香織が話しかけてきた。

 私としては未だに配信慣れせずに、自身のダメさを痛感しながら配信していたわけだけれども、香織から見れば慣れてきている方らしい。

 確かに初めほどの緊張は感じなくなっているなぁとは思っているけど、2期生のみんなや香織と比べれば大分ダメだ。比べてはいけないのかもしれない。だって彼女らはプロだから。


「はぁあ、ようやく慣れてきたらしい配信もしばらくはお預けかな……」

「配信と採用の仕事だったらどっちがしたい?」

「うーん、配信かも」

「なら仕事って言う名目で採用の仕事を社員さんに投げちゃおう!」


 ペシッと叩いてやる。


「何言ってんだ」

「ふへへ、ごめんごめん。まあ私も手伝うからね」

「うん。……って、私偉い? みたいに言ってるけど、普通にあんたも仕事だからね」

「それはそう」


 今回の件に関しては、香織も合間を縫って手伝うことになっている。香織は2期生に比べて配信頻度が少ない。別に何か仕事をしているというわけではないけど、だらだらとしている。

 ならば仕事を振ろうという話だ。


 仕事を振ろうと言うこともあるけど、実は香織自身もやりたいと言ってはいた。SunLive.の創設メンバーで、社員でもある自身が会社が忙しいときに手伝わないというのは嫌らしい。香織は真面目だから。


「はぁ、東京って疲れるね」

「そうだね~、仕事量が多いって言うのもあるだろうけど、私たちにとっては窮屈で、便利すぎるのかもしれないね」


 今の私たちが置かれている状況を改めて確認して、心の底からそう思った。別に東京が嫌なわけではないのだ。でも、前いた所の方が楽。


「私も香織もさ、方言を抑えてるでしょ?」

「そうだね。まあ私は配信してるときから抑えてたから比較的大丈夫だけど、汐ちゃんとか大変なんじゃないの?」

「大変だよ。でも東京の社会人だから」


 私は香織が配信活動を始めるまでは、方言が標準語だと思っていた。別に私は方言が嫌いというわけではなく、どちらかというと好きなのだ。


「汐ちゃんってさ、仕事全部リモートで出来るんだよね」

「そうだね」

「じゃあさ、ある程度落ち着いたら田舎に戻ろうよ」


 いつになったら落ち着くかは分からないけど、まあそれも1つの手だなぁと思う。

 ていうか元々東京に来る必要はなかったのだ。でも、せっかく東京にオフィスを構えるならばいっそのこと、私たちもそこに住んでしまおうということで来たわけ。

 いろいろと考えることは山積みだ。 

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