第67話

「はい、と言うことで4日経ちました」

『多分動画を見てくれているみんなは数秒かな?』

「ちょっとメタいかな~」

『まあこうやってみんなの時間を節約しているわけ!』

「そうだね。じゃあ早速水槽の様子を見ていこう」


 普通に4日間はこのスタジオに水槽を放置していた。フィルター系統の故障もなく、ライトもしっかりとタイマー付きで動いていた。

 これで水も落ち着いたと思う。


 しばらく置いた水槽。水草とかが水に馴染んだような気がする。多分気がするだけなんだろうけど、何というかこの前よりもまとまりがあるような気がする。

 ついにこの水槽にあのお魚が入るんだなぁと思うと少しうれしくなるね。


「じゃあ早速ここに入れるお魚を紹介しようと思います!」


 そういうと、スタッフさんがお魚を持ってきてくれた。ちなみに今日の早い段階から水あわせとかを行っていて、既に入れられるような状態にしている。


「今回私たちが選んだのは、琉金という種類の金魚です」

『少し解説を入れると、琉金の中でも更紗琉金という品種で、紅白模様のおしゃれな金魚だそうですよ~。模様もしっかりと2人で選んで可愛い子にしてみました!』

「可愛いでしょ? カメラさん寄って~」

『ん? あ、もう寄りの映像とってるって』

「あ、ほんと?」


 どうやらこれの前にある程度紹介用の動画を撮っていたらしい。恥ずかしいことをしてしまった。


 まあ気を取り直していこう。


「入れる際は急に水質が変わってしまうと驚いちゃうので、水あわせって言う作業を行ってください。詳しくはスタッフさんが撮ってくれているらしいので、映像ポン!」


 多分動画ではここに映像が入っていると思う。私たちの解説だけじゃ絶対に足りないと思うので、細かい所に映像が入ると言っていた。これで間違えた知識を教えてしまってはダメだしね。


「キャリコ琉金って言う子もいて、そっちとも悩んだんだけど、今回はこっちにしてみました」


 キャリコ琉金は紅白にさらに黒が入った子で、これもまたゴージャスで可愛い。でも黒が入ると少し暗いかなと思ったので今回は無しにしてみた。










「いやぁ、一気に部屋が華やかになったね」

「そうだな。なんか視線を持って行かれるよ」


 案件の動画から数日が経ち、私たちも家に金魚がいるという生活に慣れてきている。

 やっぱり可愛い。私たちの家は何というか全体的に暗かった感じがする。家が広めなだけに日光が当たらないところはとことん当たらなくて、そういう所は暗い印象。

 でもそんなところに金魚が加わると一気に華やかになる。


 あれからまず初日は緊張していると言うことで餌をあげず、次の日から餌をあげ始めた。初めはもう2人とも金魚に張り付きで、仕事も手に付かなかったわけだけど、ようやく少しずつ普段の生活に戻ってきたよ。


「いやぁ、私たちも大分役得な仕事を受けたよね 

「うん。アレで良かったのかなって思ってるけど、本当に良い仕事」


 担当者の人も満足してくれていたし、私たちも大満足。


「んふふ~、かわいい」

「そんな張り付いてないで配信の準備とかもしててね、私もうオフィスの方行っちゃうから」

「は~い」


 案件が片付き、本格的に3期生採用に向けて動き出している。そろそろ募集開始の発表がある。そうなってくるともう忙しい。募集終了してから審査をするのではなく、募集をしながら審査していくから、もうそれで大忙しになるわけ。

 気合い入れないと。






 オフィスでカタカタと仕事中。

 私って結構集中するまでに時間が掛かってしまうタイプなんだけど、いざ集中すると一気にのめり込んでしまう。それがゲームでも仕事でも同じ。


「先輩、そろそろ時間じゃないですか?」


 神田さんにそう言われて腕時計をチェックする。

 今の時間は2時。香織の配信開始も2時。


「ああ、危ない危ない。ありがとう」


 とりあえずチェックするために配信サイトを開く。

 まだ始まってない。まあ多少の遅れはあるだろう。トイレとか行ってるのかな?




 10分後。


「浅海先輩……」

「うん、分かってる。ちょっと怒ってきて良い?」

「はい。お疲れ様です……」




「おいコラ香織」

「あ、汐ちゃんお帰り~」

「てめぇコラ今何時だと?」


 私がそう言うと、香織はちらっと時計を確認して、焦ったような、諦めたような表情を見せた後こっちに向き直した。


「……マズい?」

「マズくないとでも?」


 香織はようやく金魚の前から動き出して「くぅわぁあああ」とか言う謎の奇声を上げながら配信部屋に向かっていった。

 私はため息をついてオフィスに戻ろうとしたのだが、靴を履いているタイミングで配信部屋から大きな声が聞こえた。


「汐ちゃーん、サムネが!!」

「はぁぁああ!?」


 激務の始まりであった。

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