第64話

「ほう、案件ねぇ……」


 いつも通り出勤……、まあ出勤だろう。下の階に移動してオフィスの椅子に座り、そのまま流れでメールをチェックしていると、メールに案件の依頼が来ていた。

 もちろん香織がソロでやっていた時代から案件というものは多くきていた。でもその多くは実写でやらなければいけないもので、なかなかVTuberとしては受け入れ難いものが多かった。

 ゲームとかの依頼はやったりしたけど。


 まあ、あくまでこれはソロでやっていたときの話で、SunLive.として事務所化してからはまだ一度も案件を受けていない。これは香織を含め、私も含め事務所全員が受けていないのだ。

 まあ案件の多くは他の大きな事務所に流れて言っていたし、きたとしても報酬が少ないものが多かったから。少ないものでもコツコツ受けていけばいいでしょと言われたらそれはそうなのだが、なんて言ったって人手が足りない。

 今も人手は足りないのだが、そろそろやってみても良いかもしれない。


「ということなんです。どうしますか?」

「やろうじゃないか。逆に今まで何でやっていなかったのって言う感じ。じゃあ、汐ちゃんそれらは全部任せた!」

「は?」

「私は3期生の方で忙しいの~」


 ということで、案件を受けることになりました。






 私たちの元にきていたのはアクアリウムの案件。VTuberにしてはなかなか珍しいんじゃない?

 実写でやらなければいけないものは出来ないとかあったけど、既に私は梓ちゃんと一緒に実写配信をやっている。ということは、別に出来なくはないわけだ。

 でもここで新しく実写できる要員を増やすのもなかなかだし……。


 梓ちゃんを呼んでやっても良いと思うけど、あれはまだ梓ちゃんっていうか、2期生がまだ伸び途中で迷走していたからこそ出来たことだったので、今更やりたくはないなって言うのは思っている。

 いろいろ考えると、やっぱり実写で映るのは私一人の方が良いと思う。ここら辺は企業の人と話し合ってみよう。




 後日、私たちの会社に企業の人が訪ねてきた。


 軽い挨拶を交わし、会議室に場所を移した。こっちの担当は私と社員さん1人の2人体制で、相手も2人なので、2対2で話し合いを行うよ。


「アクアリウムってなるとやっぱり実写ですよね」

「はい、なかなか厳しいかもしれないんですが、是非ともやっていただきたく」


 今回話し合っている会社はアクアリウム用のグッズを製造、販売しているところで、依頼内容はその紹介をして欲しいというもの。で、なかなかの条件で、使用する機材はすべて提供してくれるそう。

 出来ることなら実写で実際に水槽をレイアウトして欲しいと言うことだった。


「あ、でも別に配信でやっていただきたいわけではないんです。出来ることなら動画の方が望ましいです」

「そうなんですか?」

「はい。レイアウトを考えて水槽を作ってから、生体を入れるまではしばらく時間を空けた方が良いので、配信でバババッてやるとなると少し……」

「あー、そういうことですか。それなら出来るかもしれないです。どうですか?」


 配信でやらなくても良いとなると楽だ。

 隣で一緒に話を聞いていた社員さんにも意見を聞いてみる。


「そうですね……、しっかりと映り込み等の編集作業がこちらで出来ますので、こちらからしてもうれしいですね」


 ということで、それで話し合いが進んでいった。






 結果、私たちはこの案件を受けることにした。

 内容は、提供されたパーツを使ってアクアリウムを組み立てるというもの。そこに敷く砂や、レイアウトに使う水草などはすべて提供してくれるらしい。

 私は既に実写配信もしていて、音楽を作る活動をしていたというのを明言していることや、所属前からVTuberではなく裏方として活動していたこともあって、実写がやりやすい。

 なので私が実写で組み立て、それともう1人か2人程度ご意見番として声だけで参加して貰うことになった。あくまで動画に実写で映るのは私だけ。

 しかも動画だから顔とかの映り込みは一切心配しなくて良い。まあ念のため例の馬のかぶり物をかぶって参加することにはなるけど。


 出来上がった水槽はこっちで好きにしていいらしいので、オフィスに置こうか私たちの家に置こうかは後で社長と話し合って決めようと思う。

 実はペット欲しいなって思っていたので、出来ることなら家に欲しいなって思っている。水槽の中に入れてあげる生体もこっちで考えて良いらしいので、オフィスに置くなら社員さんと、家に置くなら香織と相談してしっかり決めようと思うよ。

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