第60話

「汐ちゃん! 結局いつになったらワタクラやるの?」

「わからない……」


 あの決意の日からまたしばらく経った。私は未だにワタクラをプレイできていない。なぜならえげつなく忙しいからだ。

 私の体はどうやら燃費が悪いようで、しっかり睡眠をとらないと日中バテてしまう。仕事終わって、ご飯とか食べたりいろいろやって、寝てしまったらもうワタクラなんかやる時間ないわけ。

 個人勢のマネジメント業務に関して、とりあえず事業名を個人勢Vサポート事業という名前にし、そのサポート事業が非常に忙しいわけ。思ったよりやることがたくさんある。

 というか、決めることが多いのだ。


 3期生の募集に関しても同時進行で行われていて、3期生が入ってサポート事業が始まってしまえば、今よりもさらに忙しくなるだろう。

 春までなんとか持ちこたえれば新卒の子が来る。あとちょっと! ファイティン私!


 でもせっかくやる気があるのに配信が全然出来ないというのは少し残念。別に配信できるような時間は取れはするけど、ギリギリすぎてあんまり……っていう感覚。分かって欲しい。


 まあ、次の休みくらいに出来ると思うよ。






「休み来たぁ!」


 こうしてやってきたお休みの日。でも配信するからお休みじゃないかも?


「今日こそはワタクラやるよ!」

「本当!? じゃあ私が案内するよ~」

「じゃあコラボ配信だな」

「うん!」


 と言うことで、今日はコラボ配信です。




「あれ? パスワード分かる?」

「あー、ちょっとまってね」


 早速配信の準備。今日は香織の配信部屋で2人で隣り合ってゲームをすることにした。チャンネルは私のチャンネルで、SunLive.鯖ぶらつき配信となる。

 私はパソコンゲームをあまりしないので、リスナーがイライラしてしまったらどうしようという不安はある。でもなんとか香織がカバーしてくれると思う。


 いろいろなサイトでパスワードを分けていると、どのパスワードがどのサイトの物か分からなくなる。だからといってすべて揃えるとセキュリティー的な面であまりよろしくないらしい。

 面倒くさい世界だ。


「よし、おっけ~」

「ありがと」


 ひとまずログインできた。ほんとは少し試して練習したいんだけど、生の初見プレイを配信したいから何もせずに配信まで待っておく。


「サムネとか大丈夫?」

「うん。私を誰だと思ってる?」

「うんうん。マネージャーだよね。プロだね!」

「プロかはわからないけど……、まあ香織の配信のサムネ全部私だからね」

「いつもありがと!」

「どういたしまして」


 香織が「私オレンジジュースとってくる~」と言って部屋を出て行った。私の分も頼んでおいた。


 私のチャンネルで配信をするのは相当久しぶりだと思う。でも曲とか切り抜きは上げてるから、チャンネル自体の伸びはそこそこって言う感じ。

 チャンネル登録者の数もそこそこいる。既にSunLive.の中だと中くらいの人数。配信自体はあまりしてないけど、曲を投稿しているためにVTuber界隈以外からも登録されていることが主な要因だと思う。


「よし、頑張ろう」


 私はエンターテイナー。せっかく時間を割いて見に来てくれたリスナーのみんなを飽きさせたくはない。見て良かったなと思えるような配信が出来るように頑張ろう。


「OJ持ってきたよ~」

「??? おーじぇーってなに?」

「オレンジジュースの略だけど」


 そうわけの分からないことを言って、はいといいながら私にオレンジジュースがなみなみと注がれたグラスを渡してきた。


「ありがと」

「うん」


 そう香織が返事を返すと、数拍開けてまた言葉を続けた。


「配信楽しみだね! 私は汐ちゃんと配信が出来てうれしいよ」

「私もね。この前梓ちゃんとも配信したけど、やっぱり私の隣にいるのは香織の方が合っている気がするよ」

「そりゃそうだよ~! 歴が違うからね、歴が!」


 そう緊張をほぐしてからモニターに向き合う。


「よし、始めようか」

「はーい」 

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