第58話

「本当にありがとうございました!」

「いやいや、大丈夫だよ。まあ一応気をつけるように言っておいてね」

「それはもちろんです!」


 事務所に戻るなり、西原さんに思い切り頭を下げられた。

 確かに今回は西原さんが担当のライバーがやらかしたんだけど、さすがに西原さんが悪くなさ過ぎるのでかわいそうだなって思っているよ。


 まあでも結果良かったかな。リスナーも盛り上がっていたし、予想外の方法でトレンド入りを果たしてくれたおかげで彼女の登録者数もいくつか増えているようだ。正直3期生募集を始めるまでにできるだけ会社知名度を上げておきたい。

 今回の件はラッキーだったと言える。


 やらかしはやらかしだけど。


 あれから私はなんやかんやで配信に付き合わされた。元々お昼に配信をしたかった理由というのがお昼ご飯を作る配信をやりたかったからなんだけど、時間が時間なので配信内容は変更した。

 ていうか昼食を作るって言っておいて配信開始が1時なのは突っ込まない方が良いのだろうか。自分でもあまり早いと起きられないというのは自覚していたのだろう。案の定ダメだったわけで、思ったよりも遙かにダメだったわけだ。


 昼食配信はまた今度やるとして、今回は反省会をしようということでひたすらに雑談をしたよ。配信自体は結構すぐ終わらせた。

 そして配信終わってすぐに私は帰路についたわけだ。






 ようやく帰ってきて時間はもう遅い。頼まれた書類作成をできるだけ早いこと終わらせようと思っていたのだけれども、この時間から始めようとは思えない。

 完全に空は真っ暗だし、ここからみんな配信を見るゴールデンタイムに突入。ゴールデンタイムなのに仕事をするとかちょっと体が拒絶反応。

 しかも今日は香織が配信をする。なので書類なんかは後回し。


「お帰り~」

「ただいま」

「なんか汐ちゃん大変だったね。わざわざ梓ちゃんの家まで行ったんだって?」

「そうだよ。ほんとにひどいよね」

「あはは~、私は寝坊しても同居人がいるから安心だ!」

「ふんっ!」

「いてっ!」


 あまりにも調子こいた発言をしていたので、脳天にチョップを食らわせてやった。

 私の香織に対する清楚なイメージは同居を始めてから消え失せたよ。


 ていうか、香織はこれ以前にも何回も寝坊をしているので、もう怒り通り越して呆れフェーズに突入している。それでいながら寝坊を私のせいにすることもあるので、少し痛い目を見せる必要があるのかもしれない。

 でもコイツポジティブシンキンガーだからなぁ。寝坊して登録者増えた! やったぁ!

 みたいなことを平気で私の前で言って来るわけ。正直ピキッとくるのでやめておく。


 普段は良いんだよね。天然もチャームポイントだから。でもそういう所イラッとくるんだよ。

 まあいいけどね。慣れたし。


「今日の配信は何するんだっけ?」

「えぇー、昨日も言ったのに~。今日はワタクラだよ」

「あぁー、そういえば鯖立てたって言ってたね」


 ワタクラとは、WATASHICRAFTの略だ。

 内容は察して欲しい。


 鯖とはサーバーとイコールの意味で、ワタクラにはマルチプレイ機能があるのだけど、それをするためにはサーバーを立てる必要がある。

 最近SunLive.のサーバーを立てたらしい。最近はそれでわちゃわちゃ遊んでいるとか。

 ライバーはなんちゃってライバーの私以外を除いてみんな入ったことがあるとか。私はまだログインしたことない。ていうかワタクラ自体未プレイだから、是非とも機会があればやってみたい。


「そういえば家作ったよ」

「そうなの? じゃあワタクラ入れたら見に行くね」

「???」


 私が見に行くね、というと香織は何言ってんだコイツみたいな表情でこちらを見てきた。

 あれ? また何かやっちゃいましたか?


「見に行くねって、2人の家でしょ?」

「……ん?」


 どうやら自分の家なのに見に行くねって言う言い回しがおかしかったらしい。

 いや、内見とか見に行くって言うじゃない? だから別におかしくないと思う……んだけど……。


 いや、おかしいか。自分の家には“帰る”っていう言い回しが正しいね。


「そっか。じゃあ今度家に帰るね」

「ん? 帰るって言い方も変じゃない? だって初めて来るんでしょ?」

「……めんどくせえな」

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