第51話
年越しからしばらく日が経った。だらだらしていただけだけど、実際時が過ぎてみると年明けからここまでは短かったように感じる。初詣に行って、またいつも通り仕事をしていただけ。
年末年始はみんな家にいるため、VTuberにとっては稼ぎ時だ。
マネージャー1人体制での最後の仕事になるので、結構必死こいで頑張った。とは言っても、タレントが1人で対処できないような問題というのはそう多発するものでも無く、私はただ楽しく配信を眺めていただけだ。
そうして今日、ようやく他の社員さんの冬休みが明けた。
「汐ちゃん、まずはしばらくの間1人でありがとう。何か問題とかは無かったかい?」
「そこら辺は大丈夫です」
「おーけー、と、いうことで、冬休みも明けたので一気にSunLive.は変わります。早速来週から新入社員が10人来ます」
「10人ですか?」
「そう。ちなみに、現在は社員が7人。そのうち私と汐ちゃん、そして香織君の3人を残して4人は退社する形になった」
現在の社員のうちの7人は、別の会社から派遣できているという感じで、元々早いうちにSunLive.をやめるというのは決まっていたわけだ。
そして、新しく入ってくる10人。事業も良い感じに乗ってきたので、これくらいは大丈夫だ。正直少ないくらいだと思う。
まあ春に新卒の人が何人か来るので、それまでっていう感じだろう。
退社する4人は、引き継ぎが完了次第有休を取って退社という感じらしい。
「じゃあ次に――」
「よし、じゃあ他に何かあるかな?」
今後の会社の流れを話し合い、会議は終わりに向かっている。
ここで私は新しい事業を2つ思いついているので、話してみることにした。
まずはグッズから。
「社長、そろそろグッズ展開しませんか?」
「ほう。たしかにね、良い感じに知名度も伸びてきたし、そろそろ考える時期だね」
圧倒的な香織人気、つぼみ人気というのはまだ変わっていない物の、クリスマス配信以降2期生が一気に伸び始めている。明らかにつぼみよりも伸びるペースが速い。それに伴ってSunLive.自体の知名度も上がっている。
グッズというのはほぼ確実に売れるだろう。VTuberの事務所が配信の収益だけでやっていくというのはなかなか厳しい。そういう展開も大事だね。
一応今回軽く話した感じ、缶バッチやアクリルフィギュア辺りが良いだろうという話になった。今後グッズを作成する会社も交えて協議を重ねていく。
「で、もう1つなのですが、そろそろ3期生の募集が始まると思います。社長はおそらく既にデビューしている人はそのガワのままでSunLive.に所属させるというのは考えていないですよね?」
「そうだね。権利関係を考えても、こっちでガワを準備した方が楽だ」
言い換えると、このSunLive.という事務所は、既に個人勢としてデビューしているVTuberを新たにSunLive.の所属VTuberとすることは考えていないと言うことだ。
初めからSunLive.の所属Vとしてデビューさせる。
なので、もし今後、既に個人勢として活動しているVTuberが応募してきて受かった場合、今までのガワは使えない。いままでのVTuberとしての体はSunLive.のVTuberとしては使わず、新たにガワを用意するという形になる。
いわゆる転生だね。
「ですが、個人勢の中にも企業に入ってマネジメントを受けながら配信活動をしたいと思っている人もいると思うんですよ」
「確かにね。それはそうだろう」
「多分そういう人って、今までリスナーに愛されて、自分でも愛してきたキャラクターを捨てるのは抵抗があると思うんですね」
「私は汐ちゃんがいたからまだ良かったけど、やっぱり個人勢ってすべてを1人でやらないといけないから、なかなか大変なんだよね」
ここで今まで口を閉じていた香織が口を開く。
彼女は元々個人勢だったが、SunLive.に所属したVTuberだ。彼女がそうできたのは自分でこの事務所を作ったから。
個人と企業どちらも経験している貴重な人材。
「じゃあ、汐ちゃんが言いたいのはその方針をやめて3期生からは転生なしで所属させようと言うことかい?」
と社長が顎に手を当てて考えながら言う。
「そういうわけではありません。あくまで今後SunLive.の所属VTuberとして活動させるのは、2期生と同じように、完全にこちらでガワを準備したVTuber達です。
私はそれらとは別に、“SunLive.プロダクションにマネジメントを依頼した個人勢VTuber”と言う枠を作りたいんです」
「ん? それはつまりどういうこと?」
私が言っているのは、あくまで個人勢のVTuberであると言うことは変わらないながらも、うちの事務所と契約をすることで、SunLive.の所属と似たようなマネジメントを受けることが出来るよっていうシステムだ。とは言っても、SunLive.に所属しているVTuberに比べると、受けられる物は変わってくるが。
ただ、あくまでマネジメントをこの会社に依頼しているだけなので、企業所属とはならない。
「ああ、説明が難しい……!」
とにかく、企業所属の一歩前、企業所属とまでは行かないけど、個人Vと契約して、個人Vが契約して、SunLive.がマネジメントをしてますよっていうVを誕生させるわけ。
企業Vじゃないから、公式配信に呼ばれることもほとんど無いし、SunLive.に来た企業案件を任せることは無い。
あくまで私たちはマネジメントの業務依頼を受けるだけ。マネジメント以外ではほとんど干渉しない。
だからこそ、別の個人勢や企業VTuberとコラボが出来る。個人勢のメリットを残しながらマネジメントを受けられる。
ただ、同時にデメリットも残されていて、新衣装などのお金はもちろん自分で出さないといけない。こちらでグッズを用意とかもしない。あくまで個人勢VTuberであると言うことは変わらないのだ。
現在SunLive.所属のVからは収益のいくらかを貰っているが、SunLive.と契約した個人勢VTuberは、それよりも少ない割合で貰う形になる。
「うーん、なんとなくは分かった。契約しているだけで企業所属では無いわけだ」
「そういうことです」
「そうだね……、良いかもしれない。それは少し検討してみることにするよ」
1人でVTuberとしての活動を維持できなくなってやめるよりは、うちと契約してマネジメントを受けながら、今のガワを維持した状態で活動できた方が、その人にとっては良いのかなって。
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