第50話 年越し

「あー、もう今年も終わりかぁ~」

「今年はいろいろあったね。事務所作ったし」

「そうだな。いろいろ環境が変わったよ。去年の今頃なんてド田舎でこたつに入ってたでしょうに」


 クリスマスからあっという間に時は流れ、今は大晦日。

 明日は初詣に行こうという話を香織としている。日本人はクリスマスのすぐ後に神社に行くのだから不思議な生き物だ。

 私たちが去年までいた所は近くに比較的上りやすくて高い山があって、その山頂で初詣をしてそのまま初日の出を見ていた。だが、東京だとそういうのもなかなかハードルが高い。

 いくら東京とは言ったって、電車が夜中ずっと動いているわけでもない。私たちは車を持っていないので、今年はおとなしく家でゴロゴロすることにしたわけだ。

 初詣も近くの神社に行くだけ。どこか有名なところに行くわけではない。でもそれでいいと思う。やっぱり年越しはゆったりしたいよね。


「私たちって年明け配信したことないよね」

「うん、達でくくられてるのが少し気になるけど、まあそうだね。まあ私としては新年まで仕事しないとなの? っていう感じだけどね」

「まぁ、配信って仕事感ないからねぇ。あ、でも今年汐ちゃん仕事あるじゃん」

「そ、それは……」


 どうやら2期生大人組は年越しオフコラボをするらしく、この後午後9時から翌年1日の1時まで配信をするらしい。私はもちろんそれのモデレーターというわけですよ。

 まあでも3人もいるからずっと張り付いていなくても良いと言うことだったし、配信に出演しない梓ちゃんがモデレーターを少しやってくれるらしいから、このまま香織とだらだらしようかなって思っているよ。

 テレビで配信を映しながらわいわいとね。


 現在の時刻は午後6時。静かな町中は年越しのムードになっている。みんな家で休んでいて、お店も大体お休み。


「雪が積もっていない大晦日なんてなかなか無いよな」

「確かにね~。東京は冬でも暖かいから過ごしやすいよね」

「そだね」


 そう雑談をしながらだらだらとソファーに座っている。




「そういえばやっぱり汐ちゃんも実家に帰ったりとかはしない?」

「うん。この時期はなかなかね」


 私たち2人も実家は雪国で、この時期に帰省をすると大抵交通機関が麻痺していて家にいる以外何も出来ないのだ。だから私たちは家に帰らない。

 代わりに春や夏に1度帰省したりする。


「ていうか、まだ年越しまで6時間もあるんだな」

「思ったより長いね。2期生のみんなの配信までもしばらく時間あるし、まあだらだらしてよう」

「それもそうだね」


 私たちは家にいるとき、大体2人で行動している。配信部屋や私のPC部屋はあるが、ちゃんとした個人の部屋というのが存在していない。

 そのため基本はリビングのソファーか寝室のベッドでゴロゴロしながら過ごしている。スマホを弄ったり、本を読んだり、同じ空間にいながらやっていることはそれぞれ違う。

 まあそういう微妙な距離感。そういうのがここまで上手くやってこられた理由なのかなって思っている。確かにずっと一緒に行動しているけど、ずっと同じことをしていたら疲れてしまう。


「ミカン食べる?」

「食べる!」


 机の上、ざるにどさっとのせられた小さめのミカンをとる。やっぱりだらだらしながら食べるミカンは絶品だよね。






「「あけおめ~!」」


 それからひたすらだらだらと過ごし、あっという間に年を越した。

 大人組の配信は大体デビューしてからここまでの振り返りと、来る年やりたいことを話すという内容だった。あと1時間は配信をしているらしい。


「ていうか汐ちゃんよく耐えられたね!」

「そうだね。もう既に結構眠いよ」


 私は燃費が悪いのだろうか。すぐ眠くなる。まあ別に時間にとらわれてするような仕事に就いているわけではないから、眠くなったら寝て、起きたときに活動を始めるという生活を送っているわけ。

 ただ、それをし続けると生活リズムが崩れるから、普通に時間通りに出社しているんだよね。別に仕事は家からでも出来るし、出社もこれと言って時間が決まっているわけではないので、私は時間に制限を受けていない。

 ただ、やっぱりこういう年越しとかのおめでたい日くらいは眠気を我慢して起きていたいよねって言う欲望。


「香織はさ、今年どんなことをやりたい?」

「うーん、結構難しいなぁ……。

 でも、今みたいに幸せなら何でも良いかな」

「そうだね。私もそうかも」


 今私が置かれている状況はなかなか特殊で、変だと思う。

 仕事はブラックだし、正直投げ出したくなるようなめんどくさいこともたくさんある。

 でも、なんやかんやでそれが楽しいし、幸せなんだよなぁ。

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