第44話
「ただいま~!」
「お邪魔します」
みんなと別れた後、階段を上って私たちの家に帰ってきた。今日からSunLive.はこのまま冬休みに入る。そのため、社長やスタッフもみんな家に帰って業務は無し。
ただ、私は会社が家なので、このまま仕事を継続することになっている。私の冬休みは新しいマネージャーが入ってからということで、他の人が冬休みの間は一人でSunLive.プロダクションを回す。
とは言っても、大きな案件などはみんなが戻ってきてから行う。あくまでマネジメント業務だけ継続と言った形だ。
そのためすべて家から出来る仕事。オフィスへの出社は行わない。
ちなみに、玲音ちゃんは既に冬休みらしい。
「玲音ちゃん大丈夫なの? 一応こっちからも連絡は取ってるけど、親御さんとか心配していない?」
香織から順にお風呂に入っている。今はリビングで私と玲音ちゃんの2人きり。玲音ちゃんはどこか遠い目をしている。
「私の家族、みんな配信見てるんです……」
「うわぁ……」
思わず声が漏れてしまった。
玲音ちゃんは厨二病キャラで配信を行っていて、生意気な発言をしていたりすることが多い。もちろんネタとして、キャラとしてやっていると言うことは添えておく。
こういうものはリアルの知り合いには見られたくはない。特に家族には。
「……地獄だね」
「本当ですよ。まあしょうがないです。ここに応募するときに同意書とかありましたから」
「え? なんか配信に関して言ってきたりする?」
「はい。配信が終わってリビングに行くと、今日の配信良かったよー、とか、歌上手だねーとか。もう最悪です」
「……、マジで可愛そう」
「出来ることなら早く一人暮らしをしたいです。配信つける度、SNSに投稿をする度、私の黒歴史は増えていきます。でも、やっぱりVTuber楽しいので、やめようとは思わないですけどね」
「それはよかった。でも困ったことがあれば言ってね」
「はい」
家族に自らの配信を見られている。最悪すぎる。それがもし撫子ちゃんみたいなキャラだったらまだ良い物の、玲音ちゃんみたいな厨二病キャラになってくるとなかなか厳しいものがある。
こういうインターネット上の活動って、家族にばれると本気で恥ずかしい。インターネットはリアルでは出来ないようなことをする場所。それを覗かれるというのははっきり言って地獄だ。
「まあ、こんな感じで家族も私のファンなので、私がこうやって仕事でここに泊まることは応援してくれるんです。これはまあやりやすいですけどね」
「たしかに。高校生の娘が急に外泊するとか言い出したら親御さんも困っちゃうしね」
「……これ見てください」
話が一区切り付いたところで、玲音ちゃんがポケットからスマートフォンを取り出してこっちに見せてきた。
そこには“家族”と書かれたメッセージアプリのグループが表示されていた。
「配信良かったよ。かわいかったよ。ちゃんと見てるよ……。
……何この地獄」
「はい。どうやらオールでクリスマス配信見てくれていたらしいです。ちなみに、私が出てないところもしっかり見ていたらしい……」
「おぉ……。大分箱推しだね」
「私の配信に投げ銭もしてくれるんですよ。手渡しでくれ~! って思っちゃいます」
そう半笑いで言う玲音ちゃん。そりゃそうだ。
投げ銭をして、その投げ銭の満額が配信者のお金になるわけではないというのは誰もが知っている周知の事実だろう。
配信サイトにお金は一部持って行かれる。もちろんSunLive.もボランティアではないので、投げ銭の一部は貰っている。
ただ、これを投げ銭ではなく手渡しにすれば満額玲音ちゃんの物。視聴者ならそれは出来ないけど、家族なら出来るよねって言う話。
……ていうか、触れなかったけど家族が自分の配信に投げ銭してるのなんか嫌だな。
「玲音ちゃんどう? 疲れてたりする?」
「あー、アドレナリンが出ているので案外疲れてないですね」
「何食べたい?」
「うーん、なんでも大丈夫です」
「玲音ちゃ~ん、なんでもって困るんだよ~」
「あ~、すみません。えっと、パスタ?」
「いいね! じゃあ夕飯はパスタにするか!」
今時便利な物で、家で頼めばすぐにデリバリーで温かいご飯を持ってきてくれる。
まぁ、この家は少し構造があれだから、わざわざ1回まで取りに行かなくてはいけないというのは大分めんどくさいが、それでも実店舗に買いに行くよりはいいだろう。
「「「いただきまーす!」」」
大体30分ほどでパスタが届いた。私はカルボナーラで、香織が明太子。玲音ちゃんがペペロンチーノだ。
私のカルボナーラはチーズたっぷりのやつで、後のせようの粉チーズもいっぱい入っている。うれしい!
私はチーズが大好きだ。冷蔵庫にお徳用粉チーズがストックしてあるほどには。
「いやー、配信お疲れ!!」
「いえーい! カンパーイ!!」
さすがに玲音ちゃんがいる前でお酒は飲めないので、オレンジジュースを飲んでいる。
クリスマス配信の準備はとにかく大変だった。超忙しい。それでいていざ配信が始まれば仮眠程度しか眠れないし。本当に疲労困憊。
つい興奮してはしゃいでしまった。まあしょうがない。ようやくゆっくり出来るときが来たのだから。
「いやぁ、明日から忙しくなる! 切り抜き作らないと!」
「でた切り抜き師!」
「茶葉さんの切り抜き凄いですよね。編集が細かいし、見て欲しいところを抜き取ってくれます」
「そりゃあプロだからね~。SunLive.入る前から私の裏方だったから」
「もうね、嫌でも身につく」
「嫌って何!?」
とまあ、こんな感じでわちゃわちゃと楽しい夕飯だ。
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