第39話 クリスマス配信⑩

「曲作るのは楽しい? 

 うん。楽しいよ。難しいけど、自分が頭の中で思い浮かべているのがどんどんと出来ていく感じが楽しい。それでみんなが喜んでくれたらもっと楽しいよ」


 コメントに質問が来ていたので、それに返答をした。

 こうやってどしどし質問が来てくれるのはうれしい。作業しながらだから時々コメントを見ていないときがあるけど。ていうか大体見てないけどね。

 鍵盤を叩き、マウスを巧みに操る。こうやって少しずつ曲が出来ていく。


コメント

:結構形になってる

:もう神曲

:さっきからニヤニヤしているから本当に楽しいんだな


「あれ!? 私ニヤニヤしてる!?」


 そういえば忘れていたのだが、もちろん私は今VTuberとして配信しているので、浅海汐(VTuberの姿)は配信に乗っている。

 無駄に精度の良いカメラは、私の細かい感情を読み取ってくれる。まったく。何してくれてんだ。


 どうやら無意識にも笑みを浮かべていたらしく、少し恥ずかしくなってしまう。


「やべ、打ち間違え。やべぇ、動揺が……」


 普通に恥ずかしいわ。

 多分笑みって言うよりニヤニヤの方が正しいだろう。こうやって自分の感覚外の表情を言葉にされると、思っていたより恥ずかしい。


 この動揺を引き摺っていてはダメだ。調子を取り戻さないと。

 そう思いながらタンブラーに入ったお茶をゴクリと飲む。今までは緑茶をメインで飲んでいたのだけれど、最近さんぴん茶なる物にハマっている。

 爽やかでおいしいからおすすめだ。


コメント

:水飲んだな

:水飲み助かる

:水分補給は大事

:かわいい

:助かる


「――――ッ!! (言葉にならない羞恥心)」


 こいつら、マジで私のことを妨害してくるな。もうこのカメラたたき割ってやろうか……。






「ふう、ある程度形になったと思う。まだ荒いけど聞ける程度にはなった」


 あの後なんとか持ち直して、配信開始から50分と言った所だ。

 相当駆け足なので、細かい点は省いている。ここから仕上げようと思ったらさらに時間が掛かる。とりあえず人様に聞かせられる程度には作った。


「ちょっと試しに通しで流してみるぞい」


 そう言って余計な音が入らないよう、マイクをオフにして今作られた音楽を再生していく。


 ポップで跳ねるようなリズムな音楽は、比較的単純ながらも飽きさせないように出来ていると思う。

 後はここにその他の細かい音響を追加していけばいい。




「どう?」


コメント

:良すぎる……

:起きてて良かった

:マジで良い

:ちゃんとTeaCloudだ

:まじいいいいいいい

:最高すぎ

:天才だろマジで

:エグい

:ホントに良い

:最高

:\12000 これが無料!?

:マジで良い

:最高だぁ

:好き

:プレイリスト行き


「おぉ、怒濤のコメント……」


 どうやらお気に召していただけたらしく、音楽再生中に静かになったコメント欄も、4分も満たない短い音楽が終わるとすぐに感想であふれるコメント欄になった。


「後はこれにさらに修正を入れて完成です。TeaCloudのアカウントを再稼働させるのでは無く、茶葉のアカウントにTeaCloud名義で上げます。曲名は……、まあ適当に決めとく」


コメント

:了解!

:マジでありがとう

:神曲キタコレ

:最高だわ

:ありがとうございます


「ということで、こんな遅い時間? 早い時間までありがとう」


 現在時刻はそろそろ4時。冬と言うこともあってまだ太陽は顔を出す気配すら無いけど、夏ならばもそろそろ空が明るくなってきている時間だろう。

 こんな時間まで付き合ってくれた視聴者のみんなに感謝を示す。きっとここから寝るリスナーもいるんだろう。

 あ、私も仮眠くらいは取ろうかな……?


「まあ、ということでこれで配信は終わります。ここからは撫子ちゃんの朝活かな? 多分あっていると思います。ではこれから多少のインターバルがあるので、この隙にトイレとか行ってね~、じゃ、お疲れ」


 結構あっさりした終わり方だったと思うけど、これで配信が終わった。

 私も3時間ぶっ続けで配信したし、作曲も最後の方はガチ集中モードに入っていたから、相当疲れが溜まっている。

 正直寝たい。




「ふわぁぁあ~……」


 大きくあくびをし、伸びをしながら私の部屋を出る。

 すると、ちょうど香織の配信部屋に入ろうとしていた撫子ちゃんとばったり。

 この期間中、香織の配信部屋は誰でも自由に利用できるようになっている。

 スタジオで配信しても良いし、香織の配信部屋でやってもいい。そこはライバー判断になっている。

 さすがに出演者が多いときはスタジオでやるけどね。


「あ、配信お疲れ様です!」

「ありがとう。撫子ちゃんも頑張ってね」

「ありがとうございます! ていうか聞きましたよ曲! 本当に最高でした!!」

「え? あ、聞いてくれたんだ。ありがとう」

「私、昔にFutureBassに少しハマっていたときがあって、そのときに聞いていたんです。ビックリしました! まさかTeaCloudさんが茶葉さんだなんて」

「なんか恥ずかしい……」


 先ほどのコメントはあくまでコメントで、文だった。だから正直底まで照れたりは無かったんだけど、こうやって顔を合わせて言われると照れると言うより恥ずかしいの方が勝る。

 顔を真っ赤にして、少し俯きながらなんとか返事をする。

 私は今拷問を受けているのでしょうか……。




「よし、気合いチャージできました。頑張ってきます!」

「頑張れ。何か困ったこととかあれば遠慮無くチャット送ってな」

「はい!」


 こうやって移り変わりで配信を行っていく。撫子ちゃんは普段から超早朝の朝活をしているので、きっとこの時間からの配信でもしっかりやるのだろう。

 1時間のソロ配信の後、そこに朱里が加わる。そうして2人でもう1時間。

 ここからはそんな感じで配信が始まる。私の出番まではまだちょっとある。

 やばい。安心したら眠気が……。


 てくてくといつものように寝室へ向かい、いつものように香織の隣に侵入。

 そこからは早かった。あっという間に私の意識は夢の中へと吸い込まれていった。 

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