第36話 クリスマス配信⑦

茶葉「あぁーーーー……」


 ぽかんと口を開け、弱々しく息を吐き出す。

 疲れた。とにかく疲れた。私の精神力がさようならするレベルで疲れた。もうだめだ。


つぼみ「楽しかったね!」


 今にも灰になって消え去りそうな私。香織はそんなのお構いなしと言った形で満面の笑みを浮かべながら私を見ている。

 慈悲だったのだろうか。何回かやろうかな~と言っていたのにもかかわらず1回でやめてくれた香織に感謝を。


つぼみ「いやぁ、それにしてもみんな上手だったね!」

茶葉「ほんとだよ! 私みたいな画伯(笑)が来るかな~と思ってたのに!!」


コメント

:あれは画伯だったわ

:まじで茶葉ちゃん視点面白すぎたwww

:こいつなんで裏方やってんだ?

:たしかに。VTuber向いてるぞ

:マジで面白かった


つぼみ「たしかに。なんで茶葉ちゃんってそんなに裏方でいたいわけ?」

茶葉「そうだなぁ……、私は才能が無いから。ゲーム下手だし、つぼみみたいにイラストも描けない。玲音ちゃんみたいに厨二病で押し出せないし、朱里みたいに下ネタで人を笑わせることも出来ないから」

つぼみ「おぉ、重い。いや、でも茶葉ちゃんあれ得意じゃん。私あれに関しては天才的な才能だと思うんだけど」

茶葉「あれ? なにそれ」


 私に才能が無いという話をしていると、なぜか香織が何言ってんだコイツと言った目で見てきた。

 私に才能がある? なんの才能だろう……。


つぼみ「作曲できるじゃん」

茶葉「おまッ!?!? それ超機密情報!!!」

つぼみ「あ、そうだった。……あれ? 私やらかし?」

茶葉「お前まじか……」


コメント

:え? 作曲?

:茶葉ちゃん作曲できるの?

:機密情報ってどゆこと?


つぼみ「もうこの際いいんじゃない? どうしてそこまで隠そうとするわけ?」

茶葉「だって、……恥ずかしいから」


 つぼみが言っているとおり、私は作曲が出来る。

 中学生の頃、動画配信サイトを漁っていて見つけた曲。当時趣味が無く何もすることの無かった私は、「これだ!!」と作曲を始めたのだ。

 今思えば何やってんだって言う感じなのだが、本当にそういう感じで始めたわけ。

 それから中学、高校と作曲をして、それを投稿したりもしていた。それがなかなか伸びたのだが、自分の創作物を公開するというのはやっぱり恥ずかしくて、それにちょうどこの時期に香織がVTuberの準備を始めたと言うこともあって、私は作曲をやめたのだ。

 作詞はちょっと触った。でもやっぱり恥ずかしくて出来なかった。


つぼみ「恥ずかしいって……、でも私がVTuberなるってなって忙しくなったからやめたって言うのもあるんでしょ?」

茶葉「まあね。それはあるよ」

つぼみ「そろそろ新しいスタッフも入るだろうからさ、再開してみたら?」

茶葉「ちょちょちょ、ちょっとまって、そっちはマジで社外秘なんだけど!!!」

つぼみ「あ……、まずい???」

茶葉「はぁ……、後でどうにかするよ」

つぼみ「ありがとおお!」


 そういいながら大げさに手を合わせる香織。

 そうかぁ、もう1回始めてみようかなぁ……。


 そう心の中でぼんやりと考えながら、流れるコメントを見る。

 みんな曲を聴いてみたいだとか、どういうジャンルなのかなとか、そういう話で盛り上がっている。


つぼみ「じゃあさ、話すこともないから茶葉ちゃんの曲について話そうよ」

茶葉「えぇ……」


 正直あまり乗り気ではない。

 そんな私を見て、香織はおもむろに立ち上がったかと思うと、配信部屋から出て行った。


茶葉「つぼみ! どこいくの?」


 扉を閉めて数十秒が経過した頃、両手にある物を抱えてやってきた。


つぼみ「じゃじゃーん! 日本酒~~」

茶葉「げっ! でた!」


 これは口を裂いてしまうかもしれない……。と思っていたが、口角が上がっていくのが自分でも分かった。






つぼみ「で、ジャンルはなんだったけ?」

茶葉「あ~、いろいろ手を出したんだけど、結局FutureBassに落ち着いたよ。私ああいう跳ねる感じの曲が結構好きだからね」

つぼみ「可愛かったよね。私も好き」


コメント

:KawaiiFutureBassみたいな感じ?


茶葉「そうそう。マジでそんな感じ。基本打ち込みで作るんだけど、どこにどの音を入れるかを考えているときが楽しかったんだよ」

つぼみ「いやー、高校はじめの頃は凄かったよね。作曲どっぷり期みたいな感じ?」

茶葉「そうだね。寝る時間を削ってやってたかも」


 酒が入るとやっぱり話が盛り上がっていく。

 ここで、後から思えばやってしまったと思うような最悪なことのきっかけとなるコメントが香織の目に映ってしまった。


つぼみ「アカウント名は? だって。さすがにそれは伏せ――」

茶葉「TeaCloudだね」

つぼみ「あ……、言っちゃうんだ……」


コメント

:は? TeaCloud!??!

:知ってるんだが!

:まじか!!

:はい。俺がはまったきっかけです。ありがとうございます。

:消えたと思ったら!!

:ほんとに!?!? マジで好きなんだけど!!

:早う新曲作れ!

:冗談抜きに死んだかと思ってた

:音沙汰無かったから待ってた

:え? そんなに凄い人?

:↑一回聞け。マジで凄いから


茶葉「あれ? みんな知ってる感じ?」

つぼみ「ほらほら、やっぱり凄いんだよ」

茶葉「いやぁ、懐かしいね! この茶葉って言う名前もつぼみがTeaCloudっていう所から取ったんだよね」

つぼみ「そういえば、事務所作る前の私のオリ曲茶葉ちゃんに作って貰ったとき、似てるってコメントあったよね」

茶葉「そうだね。やっぱり癖はなかなか抜けないからね」


 以前、香織のオリ曲をTeaCloud、茶葉どちらの名前も伏せて作ったことがある。

 作詞作曲編曲すべて私で、それらをすべて公開しない形で出したオリジナルソング。あのときは伸び悩んでいた時期で、私もなんとか協力しようと香織からの依頼を快諾したのだ。

 作詞とかはほとんどやってこなかったから、先述の通り恥ずかしかったからなんだけど、なんとか脳みそをフル回転させてやっと出来た渾身の1曲。

 そのときのコメント欄で『どことなくTeaCloudに似てる』というコメントがあって、一人冷や汗をかいたのが懐かしい。


 そういう思い出話をしていたところ、チャットの通知がなった。


茶葉「あれ? なんか朱里からチャット来た」


 そのチャットにはこんなことが書いてあった。


『鬼灯朱里 12/25 02:14

 配信中にすみません。マジでファンだったのでビックリしてます……』


つぼみ「だって」

茶葉「うわー、思いもしなかったところにファンがいた!」


 案外みんな覚えていてくれる物だね。

 普通にもう5年くらい放置していたからね。久しぶりに動かしてみても良いかもしれない。


つぼみ「じゃああれしたら? 次のソロ配信作曲配信にしたら?」

茶葉「1時間じゃ作曲できないなぁ……。ブランクもあるから。リハビリ配信みたいな感じなら出来るかも」

つぼみ「まあまだこの配信40分あるから、その話題に行くのは早かったね」

茶葉「ホントだよ! 晩酌配信晩酌配信」


 お絵かき伝言ゲームのはずが、なぜか私の話になり、そのまま流れで晩酌配信。これは多分私と香織の仲良しペアだから出来た配信だと思う。そう思いたいかも。

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