第35話 クリスマス配信⑥

つぼみ「じゃあ部屋のコード張るから早い者勝ちで入ってね~」

茶葉「あ~、やりたくねぇ~」

つぼみ「そんなこと言わないの! ほら、がんばろ?」


 非常にやりたくないのだが、今は配信者としてなんとかこの窮地を乗り越えるしかない。

 大丈夫。きっと私以外にも絵の下手な人が入ってくれるはずだ。頼んだぞリスナー……!


 心の中でそう祈っていると、手に持っているタブレットの画面が変わった。

 伝言ゲームというゲーム性を損ねないため、私たちはそれぞれタブレットにペンという形で向かい合いながら配信をしている。

 マイクは斜め前に置いてあるが、音がしっかり入ることは確認済みだ。


つぼみ「一応伝言ゲームなので、絵を描いている間はコメントを隠します。私たち2人の画面を見ながら楽しんでね~」


 ネタバレなんか食らった日にはもうゲームの意味が無くなってしまうので、私たちはコメントが見えないようにしてある。

 うんとかすんとか良いながら絵を描いてリスナーを飽きさせないようにしないといけない。

 今回リスナーは9人参加していて、私たち含めて11人でゲームを行う。絵、文字、絵、文字という風になっていくので、ちょうど良い数だと思う。

 では早速やっていこう。




茶葉「お題何がいいかな」

つぼみ「ちょっとひねった感じの方が面白いかも?」

茶葉「いやいや、簡単なので頼む」


 難しいのを書かれても描けるわけがないので、できるだけ簡単なお題を望む。

 まあ、お題出題者はそのお題の絵を描くことはないので、私のお題は結構ハードで行かせて貰う。

 すまんなみんな!

 ということで、私のお題は『高身長イケメン』で行こう。

 あれ? そこまでハードじゃ無いかも……。


茶葉「お題できたよ」

つぼみ「こっちも出来た~」


 おそらく全員出来たみたいで、早速試合が始まった。


茶葉「えっ、むずくね?」


 お題、『野球場』。


つぼみ「おぉ、良いお題だね~」


 前を見れば、つぼみがニコニコしながら凄い勢いでペンを走らせている。

 そんなつぼみを見ながら、私はちっぽけな脳みそをフル活用しながら考えていく。


 野球場ってどうやって描くんだろう……?




 野球場と言えば、私は東京ドームを思い浮かべる。

 あれ? 東京ドームって野球やってるよね? 多分やってたと思う。

 確か東京ドームのドーム部分って空気で膨らませているらしい。確かだけど。


 まずはその上の部分を描いてみる。

 半円状に線を書いて、半月を横に倒したみたいな感じにしたら、そこにメロンパンみたいな線を入れていく。




 ……まって、クロワッサン?

 なんかクロワッサンみたいになっちゃった。でも大丈夫。後で色をつけられるから、その時になんとかなるはず。

 次は下の部分。私東京ドームってイメージとかでしか見たことないから分からないんだけど、なんか建物みたいなのの上にさっきの半月状のやつが乗っかってるんだよね?

 だからちょっと箱みたいなやつを描いていく。


 あれ? これじゃあただの東京ドーム? 野球場にはならないかな……。

 まあ大丈夫だと思う。野球場ってどれもそんなもんでしょ。しらんけど。


 縦に線を入れて、横に線を入れて、カキカキしていく。




茶葉「できた!」


 そうして出来たのは、えー、寿司ですね。

 何が出来たじゃッ!! 全然出来てないじゃん!!!

 えーー、どうしよう……。私マジで絵心ないのよ……。

 まあいいや。適当に色でも塗ろ。




つぼみ「いやー、結構むずかったね。案外時間なかったかも」

茶葉「えぇ? そう? 私結構早く終わったよ?」

つぼみ「確かに結構早かったよね。楽勝だった?」

茶葉「うん! 楽勝楽勝!!」


 嘘です。楽勝ではありません。


 お題『野球場』。理想『東京ドーム』。出来たもの『寿司』です。

 しょうがない。ごめんリスナー。私絵心無いんだ。


 まあいい。さっさと次に進めよう。


つぼみ「じゃあここからは他の人が描いた物を見て、何を描いているか考えてね」

茶葉「おっけ」


 そうして軽快な効果音と共に表示されたのは。誰がどう見ても明らかに分かる美しい和風の城であった。


茶葉「え……? ちょっとまって上手すぎん??」

つぼみ「えー? なにこれ……。えぇ?」


 背景までしっかり書き込まれ、美しい色使いで描かれたきれいな城。

 私はそんな上手すぎる絵に言葉を失ってしまった。


 そんな私の前、うなりながらこれが何かを考えている香織の姿がある。

 先ほどから「えぇ? 寿司……?」だったり、「何これ……、白いクロワッサン……?」とかマイクに拾わない、私も耳を澄ませないと聞こえないくらいの小さな声でつぶやいている。


 ……ごめん香織。それたぶん私のだ。


つぼみ「これ描いてくれた人に悪いけど、茶葉ちゃん安心して良いかも!」


 そうニッコリと言う香織。多分私のことをフォローしてくれているのだろうけど、それはフォローに見えた必殺攻撃なんだ。


茶葉「そ、そっかぁ、ありがと~……」


 額に汗を浮かべながらそう返事をする。


 きっとコメント欄は私を慰めるような文字で埋まっているんだろうなぁ……。






コメント(2人には見えていません)

:茶葉ちゃんwww

:寿司で草

:下手すぎwww

:つぼみちゃんフォローになってないよ!

:これはしょうがない、下手すぎるもんwww

:ま、まぁ、茶葉ちゃんはょぅじょだから……。

:確かに! 幼稚園児が描いた絵だと考えれば萌えるかも

:ギャップ萌え!

:絵が下手でも可愛い

:いや、それにしても下手すぎだろw

:それはそう

:下手すぎw 

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