第34話 クリスマス配信⑤
「茶葉ちゃん、起きてー」
そんな声と大きな揺れによって目が覚めた。
目を開けるとそこには朱里が居た。どうやら起こしてくれたらしい。
「……時間は?」
「配信まであと10分ですよ」
「10分? じゃあ準備しないとね」
隣では玲音ちゃんがぐっすり夢の中なので、少し声を小さくしている。
なるべく玲音ちゃんを起こさないようにゆっくりとベッドから起き上がり、ゆっくりと部屋から出る。
リビングには玲音ちゃんを除く2期生メンバーがそろっていて、布団を敷いて寝る準備をしている。
玲音ちゃんほど長くは睡眠時間を取れないけれど、一応仮眠程度には時間が取れるからだ。
見ればお風呂も既に入り終わったらしい。家の主なのに気がつかなくて申し訳ないな。
「香織は?」
「今はそこの配信部屋で配信してますよ」
「あぁ、スタジオじゃ無いんだ」
「私たちの配信が終わってすぐに切り替えるためにはこっちの方が良かったんだと思います」
「それは確かに」
ぐぐぐっと伸びをして気合いを入れる。
ちょっと寝癖があるけど、まあ配信するだけだから別に気にしない。
常に箱で買っているペットボトルのお茶を取り出し、髪を結んで準備はよし!
「ショートの茶葉ちゃんも可愛いけど、ポニテも可愛いね」
「あぁ、髪切りに行く時間が無くてな。微妙に伸びちゃったんだよ」
「なんか体育会系の活発女子って感じな雰囲気~」
「それは褒めてる?」
「褒めてるよ~」
「朱里~、朱里も早く寝る支度してね!」
「あーい」
やっぱり髪を結んでいるのはあまり好きでは無い。
なんか付随物がついている感じがして嫌だ。私はショートで下ろしている状態が好き。
今年中には切りに行きたい。
「じゃあ、私たちはもう寝ちゃうので、配信頑張ってください」
「ありがとう。少ししか寝られ無いと思うけど、なるだけゆっくり休んでね」
多分アドレナリンとかで寝付けないんだろうな~、とか思いながら時間になったのを確認して配信部屋に入る。
配信と配信の切り替わりには5分程度のインターバルのような物があって、今はその時間だ。
なんと私はまだ起きてから10分と経っていない。なんとか気合いを入れて眠気を覚ます。
「お疲れ~」
「あ! 汐ちゃんお疲れ!! 大分眠そうだね」
「まあね。少ししか寝られなかったよ……」
「汐ちゃんのスケジュールかわいそうだよね。ドカンとした長い休みはなさそう」
「そんなこと言ったら香織もでしょ。少しでも2期生が多く休めるように私たちで頑張らないと」
「そうだね~」
よいしょっとつぶやきながら椅子に座る。
イヤフォンやヘッドフォンは今回は使わない。後でソロ配信の時にはイヤフォンを使おうと思っているのだが、2人で配信している間はスピーカーで大丈夫だ。
ちなみに、香織はヘッドフォンで配信や作業を行っているが、私はイヤフォンを主に使う。
ヘッドフォンだとクビが痛くなっちゃうので、基本はワイヤレスのイヤフォンを使っている。
「準備は良い?」
「大丈夫」
マイクは1つだけ。
いくつか用意されているのだが、別に私と香織の2人の配信なら1つのマイクをシェアで大丈夫だ。
感度を上げてしっかりと音を拾えるようにしてある。
音が小さくてもアプリの自動設定で音を調節してくれるのでそこまで気にしなくても大丈夫だと思う。
「じゃあ配信つけるね」
つぼみ「はい! と言うことでお待たせしました!」
茶葉「どうも~」
そう言いながらカメラに向かって手を振ると、配信内のアバターも連動して手を振る。
待機所の段階から結構の人数が見てくれていて、同接は既に万に届きそうなほどだ。
こんな夜中なのにたくさんの人が見てくれていてうれしい。
つぼみ「これから2時間ほどは、私と茶葉ちゃんの2人でお送りしますよ~」
茶葉「よろしく~」
コメント
:きたぁああああッ!!!!
:公式カップリングのお二方ですか!?
:ここから3時間連続で茶葉ちゃんが見れるとは……
:茶葉ちゃんレアすぎる……!
:可愛い!
:つぼちゃん一気に雰囲気変わって可愛い
:茶葉ちゃん居るとウキウキしてるな
:さっきの配信の終わりかけからちょっとわくわくしてたもんねw
つぼみ「茶葉ちゃんと配信できてうれしい!」
そういうと、配信内でつぼみのアバターが大きく動く。
それと同時に、茶葉のアバターも振動する。
リアルで何が起きたかというと、突然香織が私に抱きついてきたのだ。
茶葉「はなせーー!」
つぼみ「すんすんっ……、あ~! 良い香り……」
茶葉「きっしょ! きもいよマジで」
一応きつい言葉を投げておくが、先ほどまで1人で配信していて、しかもこんなに夜中なわけだ。
きっと疲れているだろうから払いのけるのはやめた。
諦めた様な表情でじっとカメラを眺めている。
茶葉「……もういい?」
つぼみ「ん~、あと10分!」
茶葉「長いわ! ほら、早く配信続けるぞ」
つぼみ「わかったぁ」
すぐに離れるかなぁと思っていたのだが、数分抱きついて匂いを嗅いできたので、さすがに私も口を開いた。
多分先ほどの喧嘩と言うには大分生ぬるい何かの影響だと思う。
つぼみ「よし、チャージも出来たことだし、早速やりますかねぇ」
茶葉「何するの?」
つぼみ「ふっふっふ! 私もいろいろ考えたんだよ!」
番組表と言っても、すべての番組が決まっているわけではない。
まあ大抵のものは決まっているのだが、ソロとかはその出演者が自由に考えてねという感じだ。
しっかりと企画が決まっている物もある。なんならそっちの方が多いけどね。
つぼみ「やっぱりね、せっかくこんな真夜中まで見てくれている人が居るわけだし、リスナーのみんなも参加できるようなものが良いかなって思ったの!」
茶葉「と、いいますと?」
つぼみ「ということで、今回はお絵かき伝言ゲームをやっていきたいと思います!」
茶葉「でた……」
つぼみ「ねぇ! 露骨にテンション下げるのやめて~!」
私は絵が下手だ。
東洋のピカソを自称しているが、あのキュビズムは決して下手なわけでは無いのだ。しっかりと考えられた構図や色使い。真似ようと思って出来るものでは無い。
東洋のピカソという自称は私には似合わない。
ということで、私は東洋のピカソでも何でも無い、東洋の画伯(笑)なわけ。
コメント
:参加型来ちゃあああ!
:起きてて良かった!
:あれ? 今朝じゃ無いの?
:今起きたんだよなぁ
:眠いなぁ(すっとぼけ)
:お絵かき伝言来た
:茶葉ちゃん絵下手なのか
つぼみ「いや、下手じゃ無いと思うよ!」
茶葉「なにそれ、煽り?」
つぼみ「下手じゃないよ。独特なセンスなだけ」
茶葉「煽りだよねぇ!? それ煽りだよねぇ!?」
横を見ればニヤニヤとしながらこっちを見ている香織がいる。
コイツは百パーセント、いや、百億万パーセント私を煽っている!
つぼみ「痛い! 痛い痛い! 叩かないで~!」
茶葉「このやろっ! このやろ~!!」
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