第29話 クリスマス配信直前③
「スケジュールに関しては、配信が始まってから公開されることになります。
なので、私も含めてここにいるみんなにはスケジュールはお渡しできません。
とりあえず今言えるのが、9時になったら配信が始まります。そこでスケジュール発表と、新衣装の公開になります」
私はスケジュールを知らない。そしてみんなも知らない。
視聴者と同じ目線に立って、同じようなわくわく感を持って配信して欲しいからだとか。
こういう配信があるから、こういう準備をしておこう。みたいなのが社長は嫌らしい。
「最初の配信はスタジオでですよね」
「そう。スタジオでやります。準備等は既に終わらせているので、何も持たずでいいので、配信前になったらスタジオに行きましょう。
配信が始まったら、企画ごとに出演する人が決まっているそうです。
みんなで配信するときもあれば、3人だったり2人だったりで配信するときもあります。
もちろん1人で配信するときもあります」
「配信は公式チャンネルで?」
「そうです。他に何か質問ありますか?」
結構端的に説明したけど、正直いつも通りに配信すればいいわけだ。
分からないことがあればその都度確認すれば良い。普通に事務所内コラボ配信って言うだけの話。
「質問なさそうなので、ひとまず配信に関することはおしまいにしましょう。
あとは寝泊まりをどこでやるかとか、そういうのを決めたいですね」
「私たちの寝室は?」
「私もそこが良いかなとは思っ――」
「ダメです!!! 聖域に足を踏み入れるには汚れすぎている!!」
「はぁ!?」
このまま流れで私たちがいつも寝ている部屋に呼ぼうと思ったのだけれど、なぜか食い気味で百合ちゃんが拒否ってきた。
他のみんなは? といった感じで他の2期生に目配せしてみるが、やはりみんなそろって首を振る。
聖域ってなんやねん……。
「えー、じゃあどこにしよう……」
「汐ちゃんのPC部屋は……、無理だね」
「ねぇ!!」
「え?! 茶葉ちゃん汚部屋ですか?!」
「悪いかっ!」
「そんなことないです! 私も汚部屋なんです!」
「奇遇ね。私もよ」
「私も部屋は汚いですね」
「まさか! 同士がたくさん!!」
私以外にも鷹治百合、鬼灯朱里、礼文梓の3名が汚部屋らしい。
うれしい。私は同士がたくさんで非常にうれしい。
いや、きれいにしようとは思っているよ。しかし自然と部屋って言うのは汚くなっていく物だし、汚くなってなんぼだと思っている。
「私部屋はきれいです」
「玲音ちゃん厨二病キャラ本当に消えるよね」
「今は関係ないだろっ!」
「私の部屋もきれいです。ままが掃除するので」
「あー、撫子ちゃんはそんなイメージかも」
「たしかになぁ。私も香織に掃除して貰おうかな?」
「え!? いいよ!!! 私に任せて!!」
「うそうそ。冗談だから」
玲音ちゃんとか炭酸も飲まなければスナック菓子も食べなさそう。
間食取りません。お茶しか飲みません。みたいなイメージ。
「な、なんで撫でる!?」
「玲音ちゃんはこのまま大きくなってね……」
「なんか同級生ていうか、先輩後輩みたいに見えてきた……」
「私もそう見える~」
ん? 何か聞き捨てならないことが聞こえてきた気がするんだけど。
一応ね、一応確認しておこう。
「それって、どっちが先輩?」
「玲音ちゃん」
「まあ、玲音ちゃんでしょうね」
「玲音ちゃんだな」
「玲音ちゃんだ」
「汐ちゃんは可愛いから大丈夫だよ~」
「ふんぬッ!」
ドカンッ!!
非常に馬鹿にされた。思わず机を思いっきり叩いてしまった。
「なんで私は身長が伸びないのか……」
「大丈夫だよ。可愛いから」
さっき玲音ちゃんの横に立った時に思ったよ?
あ、コイツ私より背高いなって。なんで私高校生に身長負けてるわけ?
「茶葉ちゃんがお酒飲んでるって、なんかイケナイ感じがするわね」
「……初めて脳内ピンクと意見が一致した」
「はい。鬼灯・礼文ともに事務所クビな」
私は日に日に私としてのアイデンティティが拡散して行っている気がする。
私も大人な女性になりたいなぁ……。
「あれ、どうしてこんな話になったんでしたっけ」
わちゃわちゃ騒いでいたら、撫子ちゃんがバシッとそのわちゃわちゃを切り裂いてくれた。
「そうだった。寝場所だね。どこが良いと思う?」
「うーん、寝室もPC部屋もダメならリビングかなぁ」
私たちの家のリビングは、ソファーがど真ん中にあるので結構狭く見えるが案外広い。
ソファーをどかせば布団くらいは敷けると思う。
「そうだね。じゃあリビングにしようか」
と言うことで、2期生の寝床はリビングで決定した。
「私たちは寝室で良いの?」
「はい! 是非!!」
「あぁ~、さすがに緊張してきましたね……」
「うぅ、うぅ~」
「どうしたの玲音ちゃん。どこか体調悪い?」
「いや、あとちょっとで厨二病を発動する必要があると考えると胃が、ていうか恥ずかしくて悶え死にそう……」
「あぁ~、もう気がついてしまったんだね」
「はい……。私は取り返しのつかないことをしてしまいました……」
顔を赤くしながらそういう玲音ちゃんの肩に、私はぽんと手を置く。
そして、しっかりと玲音ちゃんの目を見つめて一言こう発するのだ。
「頑張れ」
できるだけ、私の過去の後悔を言葉に込めながら、心の底からのエールを送る。
高校の体育祭で応援団長をやったけれど、そのときよりも応援する気持ちは強いと思う。
私は彼女の痛みを分かってあげられるのだ。
配信直前になり、私たちは全員でスタジオに移動する。
私は裏方なので、配信ブースでは無くてコントロールルームの方に待機する。
VTuberのみんなはそれぞれの席に座り、社員さんたちと最終確認を行っている。
時刻は午後8時57分。既に配信には待機の画面が表示されている。
「あー、緊張するね」
「はい。こっちまで緊張してきましたね」
社長が緊張しているのは初めて見たかもしれない。
そりゃあ寝る時間も削って、食事も削って頑張ってきたのだから。
ここにいる裏方含めたSunLive.全員でこの配信を成功させよう。
「えー、そろそろ配信始まります。
台本はそれぞれのパソコンに移してあるので、そちらを見ながら進行お願いします」
と、社員さんが言う。
配信はあと1分で始まる。
配信ブースのそれぞれの席の上にはパソコンがあって、一応ゲームなんかも出来るようになっている。
そのパソコンに台本が表示されているというわけだ。
「ほう、そういうことですか……」
台本に目を通すタレントたちは皆、なぜかニヤニヤしながらこちらを見ている。
な、なに?どうしたんだろう。
でももう配信が始まるために声を出すことが出来ず、私はこちらを見ながらニヤニヤしているVTuberたちを見つめることしか出来なかった。
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