第28話 クリスマス配信直前②

「でさー、そのときに汐ちゃんがね――」

「香織!? 何話してるの!?」

「あ、お帰り~」


 長い道のりを戻りようやく家に着いた。扉を開けるとなぜかわいわいと私のことを話している香織、それで盛り上がる2期生の4人。

 後ろには何が起きているのか分からない様子のもう1人の2期生、桔梗撫子が居る。


「ちょっとまって、何話した?」

「いや、なにも?」

「いやぁ、茶葉ちゃんも随分大胆ですね~」

「はわわ……」

「まって、まって、ホントに待って!? え!?」


 恍惚の表情を浮かべる2期生のアダルト枠朱里、なぜか顔を真っ赤にして手で覆っているロリ担当玲音ちゃん。ニヤニヤを抑えきれない様子で、今にも神に感謝をし出しそうなGL担当の鷹治百合。

 そして、満足そうにニコニコしている香織。

 その時点で私はコイツが、このアホタレが何を話したのかを察した。

 頭の中に浮かんできた様々な感情と様々な思考。

 それらを総合し判断した結果、私の口から出てきた言葉はこれだ。


「香織嫌い!!」


 一言そう叫んで寝室へと猛ダッシュを決める私であった。






「ねぇ、機嫌直して?」

「嫌だ」

「うーむ……」


 ベッドの上で体育座りを決め込む私。もう嫌すぎる。

 私あんなに頑張ってVTuberのみんなを支えてきて、ようやく頼りにされるようになったのに。どうやってみんなの前に出れば良いのか分からない。

 恥ずかしすぎるでしょ。


「香織はね、デリカシーという物が無いの。そこが嫌」


 香織の手を掴み、顔を伏せながらそういう。

 なにか愛しい物を見る様に優しい表情を浮かべながら、ゆっくりと私の背中をさする香織。

 先ほどまでのひどく落ち込んだような哀れな顔はどこに行ったのだろうか。

 完全に“がーん!! ”っていう効果音が入っていたのに。


「ごめんね。もうやらないから」

「ホントに?」

「うーん……」

「そこは即答しろよ!!」


 コイツ本当に反省してるのか?


 さすがに突っ込みたくて思わず顔を上げてしまった。

 顔を上げた先には香織の顔があり、見事香織のあごに私の頭が猛烈アタックを食らわせてしまった。

 いてぇー、とか良いながらのけぞる香織。

 私も痛かった。


「もうね、あんたは自分勝手すぎるの! 私にもプライバシーという物があってだな、社会人として生きる上での大人な女性というか、そういうアダルティーな雰囲気が大事なわけ!」

「アダルティーな雰囲気……」


 どうやらその言い回しがつぼだったらしい。

 笑ってはいけないと言うことは香織も分かっているらしく、なんとか口を塞いで笑いをこらえようとしているが、その動作を取っている時点でおもしろがっているのがバレバレである。

 笑っちゃダメという状況に置かれると、逆に面白く感じるとかそういうのがあると思う。


「お前笑うなよ、私は真面目な話してんの!」

「アダルティーな雰囲気って何! くへへ……、お、おもろすぎる!」

「お前ガチか……、本当に慰める気ある? いい? 分かった? 私のイメージダウンを図らないで! いい?」

「分かったよ。ごめんね」


 全くもう。






「うーん、私たちは何を見せられているのでしょうか」

「あれは演技では無かったと。ガチ百合!」

「あぁ、鷹治さん鼻血が!」


 僅かな隙間から寝室をのぞく2期生メンバーの皆様方。

 “2人の空間♥”に入り込む2人に気がつかれないよう、ひそひそと話している。

 その目線の先には仲直りしたらしく、思いっきり汐に抱きつく香織と、恥ずかしそうに少しだけ香織の背中に手を当てる汐が居た。


 思わず「おぉ……」と声を漏らす一同。


「あの、さっきからプライバシーが……」

「そういう梓だって見てるじゃ無い」

「……てぇてぇですわ、てぇてぇですわ!!」

「ああ、鷹治うるせぇ!」


 普段は絶対にしないような口調で叫ぶ鷹治百合に、思わずツッコミを入れてしまう玲音ちゃん。


 その直後、大きな声を出したことに気がついた。急いで口を覆うがもう遅い。


「……あんたら何しとんじゃ!!」

「「「「「すみませんでした!!」」」」」


 さすがにバレます。






「いやぁ、配信前から良い物を見れました。眼福眼福♥

 百合パワーフル充電! うひょーーーッ!! ああ、SunLive.に入って良かった!」


 口早にそう話す百合ちゃんをみて少し後ずさりする玲音ちゃん。

 普段は厨二病キャラでやっているくせに、狂人を目にするとうろたえてしまう純粋で可愛い玲音ちゃん。


「やっぱり鷹治おかしいやつなんだ……」

「百合ちゃん、玲音ちゃんが引いてるよ」

「失敬失敬。あまりにも高濃度で上質な百合百合アタックを食らってしまったので……」

「百合百合アタックってなんだよ。お前ら私らの話で盛り上がるのやめろ」

「えーぇ? 私はいいよ?」

「香織は黙れ」


 はぁ、ツンデレ尊い……。とかつぶやいてるアホタレ百合オタクは放っておいて、さすがにそろそろ配信に関する話を始める。

 こんなことをしていたら時刻は午後5時を回ってしまった。配信開始は午後9時。

 配信までは残り4時間である。

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