第27話 クリスマス配信直前①

 緊張しながら迎えた当日の朝。社員で集まって最終チェック会議を行った。

 機材も大丈夫。サムネイルも大丈夫だし、企画に関してもしっかりと準備を済ませてくれているそう。


「ということで、そろそろタレントのみんなが到着してくる頃だと思います。汐ちゃんよろしく」

「分かりました」


 社長含めた4人の社員は、このまま配信の準備に移るそう。

 私はそこから外れて、やってきたタレントたちのおもてなしというか、対応というかそんな感じだ。

 なんて言ったって、タレントはみんな私と香織の家に泊まるわけだから、家主としてやるべきことがあると言うことだね。

 タレントの世話を同じくタレントである香織にやらせるわけには行かないだろう。私が頑張らないと……!


 この頃忙しくて、美容院に行く時間が無かった。肩に付くギリギリの辺りでいつも切りそろえていたのだけれど、いつの間にか鎖骨の辺りまで髪の毛が伸びてしまっている。

 ふわふわとしていて邪魔なので、頭の後ろの方で縛ってポニーテールのような形にする。


「おお、エロいね……」

「良いから社長は仕事をしてください」

「へーい」


 これが終わったら髪の毛切りに行く。






『柊玲音 12/24 11:34

 そろそろ駅に着きます』


『茶葉 12/24 11:35

 駅まで迎えに行きますか?』


『柊玲音 12/24 11:35

 大丈夫です』


 どうやら一番乗りは玲音ちゃんらしい。

 相変わらず配信では厨二病キャラでやっているらしいが、どうも内側が真面目でなりきれていないみたいだ。心配性っぽいところがあるらしく、いつも時間に余裕を持っているらしい。

 まったく。香織は見習ってほしいものだ。

 現役高校生なのにこんなにしっかりしていて私は涙が出そう。香織なんて常に10分後行動を取っているのに。


 残りのメンバーには不安が募るが、さすがに社会人なので大丈夫だろう。

 大丈夫だろう。

 特に私が心配なのが撫子ちゃん。時間にルーズなのだ。

 キャラと合っておっとりしている。最寄りが終点で良かった。もし終点の駅ではなかったら乗り過ごしていただろう。


『桔梗撫子 12/24 11:43

 あの、なんか余裕を持って出てきたんですが、海老名? とか言うところに来ちゃいました』


「はぁ?」


『茶葉 12/24 11:44

 海老名ですか!? 戻り方は分かりますか?』


『桔梗撫子 12/24 11:44

 行き先がたくさんあってどれに乗れば良いのか分かりません』


『茶葉 12/24 11:45

 迎えに行くので待っていてください。絶対にそこから動かないでくださいね!!』


「汐ちゃーん、玲音ちゃん来たよ~」

「分かった。香織後は任せた。私は撫子ちゃんを迎えに行ってくる!」

「どうしたの?」

「なんか海老名に居るらしい……」

「ああ、サービスエリアの所?」

「そう。ちょっと迎えに行く」

「分かった。気をつけてね」


 困ったものだ。おそらく電車の乗る方向を間違えたのだろう。まさかよりにもよって海老名に行ってしまうとは。ツイてないな。


「あ、茶葉さんこんにちは」

「玲音ちゃんどうも。私は少し出ますので、香織をよろしくお願いします」

「ちょっと! 私がよろしくするの!」

「……まあ、そういうことですので」

「分かりました。お気をつけて」


 玲音ちゃんは真面目で良い子だなぁ。






 ダッシュで最寄り駅まで向かい、すぐに電車に乗り込む。

 席についてスマートフォンを取り出して、ポチポチと弄っていく。電車の中で出来ることをやらないと。




「つ、ついた」


 2時間弱の時間が掛かり、ようやく到着した。

 すぐさま撫子ちゃんに電話を掛ける。


「もしもし、今どこに居ますか?」

『なんか、改札出たところです』

「えっと、どの改札ですか?」

『分かりません』


 えぇ~……。どうしたものか……。

 まあ歩きながら探すしか無い。撫子ちゃん何回か事務所来ているはずなのに、どうしてこういうときに限って迷うのだろうか。

 今までちゃんと来られてたじゃん……。




 構内を走り回りながら探していると、ようやく撫子ちゃんを発見できた。


「あ!」

「やっと見つけた……」

「すみません。お手数おかけしてしまって」

「大丈夫です。さぁ、みんな待っているので行きましょう」


 ひとまず安心だ。……香織は大丈夫かな?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る