第21話 黒歴史配信
「で、茶葉ちゃん。なんで私は呼ばれたの?」
「んー、なんとなく?」
「マジですか……」
コメント
:茶葉ちゃん強過ぎん?
:朱里に勝てる女がいたとは……
:食物連鎖の頂点
:さすがつぼみの相方やな
:朱里が困ってるの草
:wwwww
:朱里に押し勝つのやべぇな
「朱里ちゃんお酒飲むの~?」
「飲む飲む!」
「え~? 何が好き?」
「私はね、日本酒なんだけど、ちょっと待ってね……」
何を待つのだろう。と思ってじっとしていたら、チャットアプリの通知が鳴った。
そこには、何かの商品のURLが付いていた。
「今送ったお酒が好き」
「ちょっとまって!? これ私も好き!!」
「ま?」
「ま! 飲みたくなってきた!」
ガチャッ!
「持ってきたよ~」
「さすが~」
「ほどほどにね~」
朱里さんの好きなお酒は私も好きなもので、ちょうど家に置いてあった日本酒だ。
少し高いけど、やや辛口で香り高くキレのあるお酒だ。
「いただきまーす」
おちょこに注ぎ入れ、ちょびっと口に含む。
「あぁ~」
「えっと、茶葉ちゃんホントに大丈夫?」
「大丈夫大丈夫~。あ、朱里ちゃんありがとね~」
「え!? あ、ありがとうございました……」
コメント
:完全に出来上がってるな
:あーあ
:こりゃ人気出るぞ
:まさかSunLive.にこんな人材が隠れていたとは……
:ていうかもうコメント読んでなくね?
「ふぇ? 読んでる読んでる」
ものすごい早さで流れるコメント欄に多少目が回っているが、なんとか追えはしている。
同接数はついに10万を突破した。正直10万は香織でも1回か2回合ったか程度のもので、相当やばい数字だ。
だが、酒が回った私にそんなものは関係ない。ただただ愉快。
「えっとね、じゃあ質問読んでくよ~。
えっと、『身長は何センチですか?』」
身長か。
そういえば最近測ってなかったな。
でも、最後に測ったときのが確か……。
「149センチとかだったかな……?
ちなみにつぼみは167センチだよ~。
実はVTuberの姿と通常の姿で身長は同じだよ」
コメント
:身長差18センチ!?
:茶葉ちゃん小さいね
:可愛い……
:¥14900
:【桜木つぼみ】ちょっと! ばらしちゃダメよ~
「え! ダメだった? ごめん……」
コメント
:【桜木つぼみ】いいよ~
:軽!
:¥16700 やさしい
:普通にてぇてぇな……
:確かに実写配信の時小さかったからな
:マジで中学生かと思った。でもお酒飲んでるんだもんな
:ギャップ萌え
「あー、流石に酔ってきた……。
コメントがいっぱいだぁ」
コメント
:それはそうなんよ
:酔ってなくてもいっぱいだなぁ
:誰か救援を……
:さすがにそろそろ酔いすぎ?
世界がぐるぐると回っていく。
私あんまりお酒得意じゃないんだけど、好きだから酔いが回る前にたくさん飲んでしまう。
気がついたときにはいつもダメなんだよねぇ……。
「あー、酔ってる。
えー? なになに? 『何か習い事やってましたか?』って?
あー、私水泳やってたよ。バタフライの前でやめちゃったから、平泳ぎまでね~」
コメント
:ふにゃってて可愛い……
:急に来たな
:水泳かぁ
:鼻血出た。
:もうだめそう?
:まだいけそうだけど、そろそろ……
:口調が崩れてる?
:あれ? こんなもんじゃなかったか?
酔った。もう酔ったね。
さすがに酔った。
でもまだ宣伝していないからもう少し配信続けないと……。
次が最後くらいの質問でいいかなぁ……。
「えっと? 『パンツの色はなんですか?』
ちょっと待ってね、今確認――」
バンッ!!
「だめ! 配信おしまい!」
「あ、つぼみ~、どうしたの? お酒あるよ~」
「もう、ほどほどにしてっていったのに。ごめんねリスナーのみんな。茶葉ちゃん回収します」
「えー? まだ宣伝してないよ」
「はい。今から私がします!
えっと、クリスマスにSunLive.のみんなで24時間の耐久オフコラボ配信をします。
テレビみたいに番組表を組んでお送りするので、気になる企画だけでも見に来てください!
もちろん茶葉ちゃんもいます!」
「え? 私聞いてないんだけど~」
「言ってないからね! 来てくれる?」
「いいよ~」
「ということで、お疲れ!」
こうして、ドタバタしながら配信は終了した。
そして翌朝。
「う゛っ、うわぁぁぁあ……!!」
ベッドの中で枕に頭を埋め込み、悶え苦しむ私。
「やらかした! 完全にやらかした! ねぇ、なんでもっと早く止めなかった!?」
「止めたよ~、でも大丈夫だって」
「私の大丈夫は大丈夫じゃないだろ!?」
「それ自分で言う!?」
目を開けて驚いた。
超絶気持ち悪いのだ。この時点でまず私が今二日酔いの状態であることを悟る。
ただ、どうもお酒を飲んだという記憶がほとんどない。
配信で日本酒を開けたところまでは覚えている。ただ、そこからの記憶がない。
そこから導き出されるのが、配信でガブ飲みした。
記憶がなくなるまで配信中に飲んだ。
急いで動画投稿サイトを探ったところ、私の切り抜きが大量に上がっていた。
『えっと? 「パンツの色はなんですか?」
ちょっと待ってね、今確認――』
「な、何やってんだ私……。あ~、頭痛いよぉ」
最悪だ。こんな感じの切り抜きがわんさか上がっていて、私のチャンネルの登録者もみるみる増加している。
SNSには一晩明けてもなおトレンドの隅っこに私の名前が挙がっているし、通知は常に99で張り付きだ。
終わった。完全に終わった。
「あー、仕事行かないと……」
終わっているのは、さらにこの後仕事があるということだ。
絶対何か言われる。さすがの社長もここまでやれば怒るだろう。
なんとか香織が最後に宣伝をしてくれたからいいものの、明らかに職務怠慢だ。
「あぁ、行ってきます」
「いてら~」
食事を取り、朝風呂を浴びて家を出る。
「おはようございます……」
「おはよう!! いやぁ、良かったよ汐ちゃん! 素晴らしい!」
「はい。大変申し訳ございませんでした」
「いやいや、なんで謝るのさ! 最高の宣伝効果だよ! だよねみんな?」
社長の声につられるように、社員のみんなが興奮したような声で私を褒めていく。
その褒め言葉たちが、私の二日酔いの頭にガンガン響き、胃酸が大量に分泌されていく。
「いやぁ、もう良すぎだよ。まさかここまでやってくれるとは!」
「は、はぁ……。それは、良かったです」
「ホントだよ! 配信直後にはクリスマス配信がトレンド入り、茶葉ちゃんというワードは今もトレンドだし、一瞬は世界トレンドで1位だったんだよ!
茶葉ちゃんのチャンネルだけじゃなく、公式や他のタレントのみんなの登録者も上がってるし、もう最高! 任せて良かった!」
「そうですか。上手くいったみたいで良かったです……」
辛い。
ここまで伸びてるということは、私の黒歴史はもう取り返しの付かないところまで広がってしまったということだ。
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