第20話 宣伝配信

「あ~、入ってますか?」


 こうして、ついに私の配信の日がやってきた。

 私はただただクリスマス配信の宣伝だけして終わろうと思っていたのに、社長のせいで普通に配信をすることになってしまった。

 どうも、SunLive.裏方の浅海汐です。


コメント

:SunLive.の公式サイト見たら、1期生にいたからみたいなと思ってたのに、1回も配信してくれてなかった……

:実質初配信草

:あれ、切り抜き師じゃないんですか?

:えぇぇ!? 茶葉さんってSunLive.のメンバーだったんですか!?!?

:よく玲音ちゃんが話してる茶葉ちゃんってこの人か

:あれ? 2期生デビュー配信の人だよね?


「ああああ、ホントに申し訳ない。

 ちょっとSunLive.の中でも私の立場がややこしくてね、こんな感じになっちゃいました……。

 もしかしたら私を切り抜き師として認識している人もいるかもしれないね。

 一応SunLive.の裏方やらせて貰ってます。茶葉です」


コメント

:裏方?

:1期生じゃないの?

:¥12000 裏方(キャラ設定)


「あのねぇ、私マジで裏方なんだよ。私が1期生の枠にいることがおかしいの」


コメント

:つぼちゃん0期生で、2期生が1期生じゃないのかなって思ってたけど、茶葉ちゃんがいるから1期生だったのか

:初配信とは思えないほどいじられてるな……

:推しの配信が見れてうれしい(;。;)

:【桜木つぼみ】茶葉ちゃん可愛い!


「あ、つぼみだ。

 配信部屋貸してくれてありがとー」


 スタジオでやっても良いかなって思っていたのだけれど、社長とかが茶化しに来そうだったのでやめた。

 私の部屋でも一応配信は出来るけれど、あまりに汚すぎて配信する気にならなかったので、香織に部屋を借りることにしたのだ。


「ということで、今日は何をすればいいんでしょうか」


コメント

:考えてなかったのかよ


「いや、私配信者じゃないから無理なんだよ! 

 マジでこの配信社長の無茶振りだから」


コメント

:さすが社畜

:¥2000 残業代

:¥30000 強く生きて

:【桜木つぼみ】¥50000 これで焼き肉行って……


「おいつぼみふざけんな。

 普通におごってくれればいいのに回りくどいんじゃ」


コメント

:てぇてぇ

:ナチュラルてぇてぇ来た

:一緒に行くのは確定ってことか……

:カップル

:¥12000 鼻血代


「あー、つぼみビール!!」


 少しでもそういうことがあると、隙を突いてはおちょくってくるリスナーには呆れる。

 思わずビールを注文してしまった。


 え? 防音室だから聞こえないだろって?

 配信見てるから聞こえるんだよなぁ、それが。


ガチャッ


「はーい、ビール持ってきたよ~」

「おお、ありがと」

「あとさきいか~」

「気が利くねぇ、ありがと」

「じゃ、配信頑張ってね」

「うん」


コメント

:え? てぇてぇんだが

:熟年夫婦?

:マジで同棲してるんだ……

:¥5000 つぼちゃん推しです。どうぞ持って行ってください

:“ガチ”なんだよなぁ


 プルタブを開けながらコメントに目をやると、先ほどの倍以上の速度で「てぇてぇ」の文字が流れていく。

 目が回りそうだ。


「あー、酒がないとやってらんねぇ」


プルルルッ


「ありゃ? 電話来た。だれだ?」


 酒を飲みながらコメントを眺めていたら、突然隣に置いてあったスマートフォンが鳴った。

 私のスマホをならしたのは社長のようだ。


「あ、もしもし社長?」

「もしもしじゃないわよ……。酒飲みながら配信するやつがおるか!」

「うるさいっ!」


コメント

:切ったwww

:社長……

:【桜木つぼみ】茶葉ちゃんお酒弱いから……

:【SunLive.公式】あとで説教

:公式www

:マジで草

:始まって5分もしないでここまでおもろいのチートだろwww

:裏方にしておくのがもったいない人材過ぎる

:あー、もうこのチャンネルの切り抜き今までのように見れないわ。わろてまう

:説教切るの草

:同接伸びすぎやろwwwwwwwwww


「ありゃ、5万も? 

 すみませんね、あ、私成人してるんで大丈夫です。

 んぐっんぐっ……、ぷはぁ。美味い!!!」


 やっぱりビールよね?

 それにさきいかが最強なんよ。

 他のつまみは一気に食べてしまって残らないけれど、さきいかは食べるのに時間が掛かるからちょうどいいのさ。


コメント

:【SunLive.公式】あの、そろそろちゃんと配信してくれますか?


「あ、はい。すみません。


 ……ということで! 茶葉の配信始まるよ~!」


 こりゃ怒られるな。

 いや、あの社長なら大丈夫だ。面白かったよって行ってくれるはず。

 ていうか、あくまでこれは最後の宣伝を目的にしているわけで、同接稼げれば何でもいいと思う。

 多分褒めてくれるだろ。公式の発言もおそらく配信を盛り上げるため、配信を円滑に進めるためのネタ。

 今は事務所のみんなが私の背中を押してくれている。


「じゃあね最近私がはまってるお酒を――」






 それから、20分ほど酒の話で盛り上がった。

 なかなかお目にかかれないSunLive.の裏番長の配信ということもあり、同接はみるみる伸びている。

 なぜか2期生でビュー配信よりも同接数があるし、私の登録者もどんどん増えている。


「あー、さすがにネタが切れたんで誰かメンバーに電話でも掛けてみよう!」


 えっと、スマホスマホ……、とつぶやきながらスマートフォンを取り出す。

 コメント欄は突然の逆凸宣言に大盛り上がりだ。


コメント

:【桔梗撫子】あれ? 私聞いてないんですけど、もしかしてハブられてますか?

:【柊玲音】我も聞いてないぞ!!

:【桜木つぼみ】ああ、誰にも言ってないとおもうよ~

:草

:え? マジで知らされてない感じ?

:エグすぎwww


「じゃ、掛けますよ~! さぁ、私が電話を掛けるのは誰でしょう!!」


 チャットアプリのアイコンを見ながら誰に電話を掛けるか決めていく。


「あ、電話の前にちょっとお願い。

 SNSに質問フォームがあるから、逆凸の後にそれから質問を取っていこうと思うよ。もし良かったら質問ちょうだい! じゃあ、早速掛けてくぞー」


 ふーむ、誰にしようかな?

 せっかくだから裏の声と表の声の差が激しい人がいいな~。



「ふぇ!? わ、私!?」

「うーす、突然電話すみません!」


コメント

:誰?

:誰だ?

:清楚っぽい?

:あずちゃんじゃない?


「じゃあ、自己紹介よろしく!」

「ぎゃあああああッ! (チューニング)」

「うぉッ、うるさ」

「あんたたちどうも~、SunLive.2期生の鬼灯朱里よ~」


 はい、鬼灯朱里さんでした!

 実は、この人は普段の配信ではダミ声だけど、裏では透き通ったきれいな声をしているお姉さんなんだよね。

 さっきのゾンビのうめき声みたいなやつは、ダミ声を出すためのちゃんとしたチューニングだ。


コメント

:は!?!?

:え???

:まじ?

:はぁ?

:¥5000 オフ声助かる

:まじか……

:は?

:さっきのアイツから出た声ってこと……?


「ということで、朱里ちゃんに来て貰ったよ~」

「ねぇ、突然電話掛けるのやめてもらえる~?」

「いやー、すまんすまん。朱里ちゃんオフだと可愛い声してるもんね~!

 ていうかさ、チューニングうるさすぎでしょ」

「あー、出た出た。茶葉ちゃん酔っ払うとこうなるのよね。

 噂には聞いてたけど……」


コメント

:あのエロばばあに勝つ茶葉ちゃんやばすぎだろ……

:エロばばあが押されてるだと!?

:こりゃSunLive.の勢力図変わったな


「おい、エロばばあ言うな!!」

「それを私の配信で口に出すな!!! 無視しろよ!!」

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