第19話
「てぇてぇ」
「てぇてぇ、じゃねえ!! あ、じゃないんですよ!!」
「えー? いいじゃんいいじゃん。せっかくつぼみちゃんが描いてくれたわけでしょ?
使わないのも失礼だよねぇ」
描き上げられた私たちの新衣装を社長に見せると、平坦な感情のこもっていない“てぇてぇ”が返ってきた。
感情はこもっているんだろうけど、なんか社長のてぇてぇの言い方は平坦だ。
私たちの新衣装は、下は同じ色のジーンズで、上のセーターが色違いだ。
つぼみの衣装が茶色で、茶葉の衣装が黒色だ。
その上から、またもや色違いのカーディガンを羽織っていて、同じ白と水色のマフラーを巻いている。
あからさますぎるペアルックだ。
違いがセーターくらいしかないレベルのペアルックだ。
「あ、他の人の衣装もそろったから、最終チェックよろしく~」
「はい。分かりました」
私は発注に関わっていないので、初めてタレントの新衣装を見る。
初期の服は気に入ってはもらえているけど、彼女らの意見をしっかりと聞けなかった。だが、今回の新衣装はしっかりと意見を聞いたらしい。
それぞれの好みがしっかりと反映されているはずだ。
「よいしょっと」
椅子に腰を掛け、パソコンを起動する。
デザインのデータはUSBの中に入っているらしく、そのUSBを差し込んでチェックする。
後でこのUSBの中に私たちのやつも追加する。
……ちなみに、「めんどくさい~」と嘆いているため、私たちの新衣装のモデルは動かない。まだ動かせないのだ。
早くモデリングして貰わないと困る。
「どれどれ、どんなのかな~」
送られてきている衣装たちをざっと見てみる。
「うん。うん。いい感じだけど……」
みんなのデザインは素晴らしい。
いや、香織のやつも素晴らしいんだけど、2期生のみんなの衣装は私たちのものよりも少し豪華だ。
香織はシンプルな物が好きなので、あまり派手派手した装飾をつけない。
ただ、2期生のやつはイヤリングをつけていたり、明るい色使いのものだったり、リアルだったら絶対重くて大変だろ! といった感じの服装だ。
まあばーちゃるなんで、ばーちゃるだからそこら辺は気にしなくていい。
凄く見応えがあっていいデザインなんだが……。
「これ、私たち浮くね」
そう。その中にシンプルなペアルックの衣装が混じると浮くのだ。
別にデザインが見劣りするというわけではない。
決してデザインが悪いわけじゃない。なんなら私はすべてのデザインの中で私たちのものが一番好きだ。
私以外にも、そう言ってくれる人は多いと思う。
ここで言う浮くというのは、他のイラストレーターさんのデザインが凄すぎて、香織のデザインじゃ見劣りすると言った意味では決してないのだ。
もう何回も言わせて貰う。見劣りするわけではないのだ!
もし、ここでみんなと同じ比較的派手な衣装にしていれば、“VTuberの冬用衣装だ”となるの。
ただ、ここに香織のデザインをぶち込むと、それは“ガチ”な服になるのだ。
しかも、それが同棲していて普段から仲よさそうにしていて、ガチだと騒がれている私たちがやると、それはもうガチなんだ。
ガチですよって認めているようなものなのだ。
まあ、ガチなんですけどね。
しかし、私はそのガチなことを隠している。
……まあ、香織は普通に話してるんですけどね。
「うん。心配ないね」
もう手遅れだ。
いいや、とことんアピールしてこ。
「あ、そういえば汐ちゃん」
「はい、なんでしょうか」
「クリスマス配信の宣伝なんだけど、是非汐ちゃんにやって貰いたいの」
「え? どういうことですか?」
また頭を抱えながら仕事をしていたら、突然社長に声を掛けられた。
社長が言うには、こうやってタレント全員で配信をするとき、誰か一人のチャンネルで宣伝をしてしまうと、その人を
私からすれば、なにいってんの? といった感じなのだが、やはりそういう人は居るらしいのだ。
そういうのを避けるため、普段は裏方として活動している私が配信するのがいいとのことだ。
そして、それぞれの配信で「茶葉ちゃんの配信見てくれた?」と言った感じで宣伝するというのがいいらしい。
なお、私が配信している間は、他の人の配信はないらしい。
全員が私の配信の前の配信で私の配信を宣伝するとか。
なぜかSunLive.のファンの中では、茶葉というキャラクターが人気らしい。
香織を含め、みんながいろいろ話しているからだろう。
つぼみの相方として、SunLive.のマネージャーとして、社畜として、後なぜか柊玲音とともにSunLive.のロリ枠として、なぜかいろいろな方向のファンがいるらしい。
まじでロリ枠に関しては許せないんだけど。
「あ、でも宣伝だけだと面白くないから、雑談配信をして最後に発表という感じでいこうね」
「……は? 別に私面白さとか求めてないんですけど」
「えー? そんな堅いこと言わないでよ~。みんな望んでるよ? 需要と供給考えよ?」
「ちょっと考えさせてください」
「わかった。明日返答してくれればいいよ」
「と、いうことがありました」
「へー、いいんじゃない? 楽しそうだね!」
「香織~、手伝って~」
「えー、私配信楽しみにしてるからあんまり関わりたくないかも……」
「じゃあ無理矢理関わらせるわ。
確か配信してないんだよね? どうせみんな見てるんだよね?
じゃあいきなり電話掛けたりとかしても大丈夫だよね?」
「あ、それ面白そうだね!」
「まあ、配信内容とかはいろいろ自分で考えてみる」
「うん。楽しみにしてるね!」
仕事が終わって、今日社長から言われたことを話してみた。
楽しみにしてくれるらしいね。
配信内容だけど、メインは雑談で行きたいと思う。
けど、私はほとんど香織と生活を共にしているから、私の身の回りのおもしろい話はすべて香織が話してしまっている。
香織は変なことしか話さないから、私は香織の視聴者の中では結構ポンコツ認識だとか。
私はポンコツではない!
香織の配信で話されていると言うことは、雑談は途中でネタが切れてしまう可能性がある。
あと、マネージャーだけど忙しくてすべての配信を追えているわけではない。
もしかしたらネタかぶりがあるかもしれない。
まあ、そうやってネタが切れたときや円滑に配信が進まないときは、突然タレントの誰かに電話を掛けると言うわけです。
あとは、視聴者の人から質問とか募集するのがスタンダードでいいかな?
ちなみに、既に私のチャンネルはなぜか収益化に成功している。
香織の切り抜きをいくつか上げただけなのだが、やはり香織の人気は凄まじいようで、私を知らない人からすれば切り抜きチャンネルの人という認識になっていそうだ。
私がSunLive.所属として配信したら驚く人も居るかもね。
多分、切り抜き上げる前に居た8.6万人の登録者は私をSunLive.の茶葉として認識しているはずだ。
ただ、今の登録者は15万人を突破している。
香織や2期生のみんなが宣伝していると言うことももちろんあるだろうが、半分以上は私を切り抜き師の茶葉として認識していると思う。
……私裏方なのに、裏方なのに、正直配信が今から楽しみでならない。
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