第17話 鬼灯朱里のトラブル

 なぜか出演した梓ちゃんの収益化配信も終わり、またいつも通りの日々が始まって数日。


 今日も元気にお仕事頑張るぞい!

 って出来たら良かったなぁ……。




 先ほどから私はひたすらに天井の隅を眺めています。

 そりゃあもう憂鬱な気持ちで。

 私の目の前には多少心配そうな、でも案外余裕そうな表情をしている鬼灯朱里が座っています。

 なぜだ? ……いや、原因分かってるんだけどね。原因まみれだから。


「茶葉ちゃん、私の収益化戻ってくると思う?」

「……」

「何か言えよ~!」


 収益化配信からまだ1週間も経っていないのにもかかわらず、SunLive.のエッチ担当、鬼灯朱里の収益化が飛んだ。

 エッチ担当って謎だけどね? でもやっぱりこういう需要も拾っていこうって社長が。


「最短なんじゃないですか? おめでとうございます」

「ありがとー」

「いや、ありがとーじゃないんだよ……」


 鬼灯朱里はまずエッチ担当ということで服装が際どい。胸元は大きく開いてるし、所々透けている薄手の服だ。

 だが、隠すべき所はしっかりと隠しているし、社内でしっかりとチェックして問題ないことは確認している。

 ……動画投稿サイトのAIが思春期だったのだろうか。


 まあそれはないだろう。


 となると原因は配信だと思う。


「最近引っかかりそうな配信しましたか?」

「しました」

「知ってます……」

「え~、じゃあ何で聞いたの?」

「……それほど頭を悩ませているっていうことですよ」


 鬼灯朱里の配信内容は下ネタが多い。

 でもやっているゲームとかは下ネタではないと思う。普通にゲームをしているだけ。

 RPGだったり、FPSだったり、そういった普通のよくあるゲームをしているだけ。


 では、なにが下ネタなのか。

 それは、彼女の頭の中だ。


 ここで少し彼女の配信から一部抜粋したところをお見せしようと思う。






『今日はこのVorTexというゲームをやるわよ~』


 VorTexとは、FPS視点のバトルロワイアルゲームで、3人のチームで戦う人気のゲームだ。


『え!? ジャンプマスター私じゃん。えっと、どこに行こうかな~』


 そう言ってマップを見渡す朱里。

 このマップは海に浮かぶ島のようになっていて、所々に火山があり、廃れた町などがある見ていても楽しい人気マップだ。

 そんなマップを見渡している彼女。そして何やらひらめいたかのようにこう発した。


『なんかこの火口の形、アナ――』






 事務所として、これ以上先はNGを出させていただきます。

 一応そういうのは社内の方針から外れているので。外れているので……。


 まあ、こんな感じの発言があったり、何かあるたびにいちいち卑猥な声を出したりと、AIくんがピンクになっちゃう理由も分かるってもんです。


 極めつけには……、まあとりあえず最近やった配信のタイトルをお見せいたしましょう。


『【ASMR】あんたたちの可愛いお耳、舐めてあげる♥』


 はい、アウトー!

 しかもサムネイルには謎に恍惚の表情を浮かべる朱里の写真。なぜか目の中にハートが書いてある。

 謎の白いモヤモヤに、謎の液体。

 アウトだよね。うん。完全にアウトだよね。


 さーて、誰がこの配信の許可を出したのだろう。

 毎度配信をするときは、内容をマネージャーに報告して許可を貰うようにと言う仕組みになっている。

 なぜなら、今回のようにアウトな配信をしないようにするためだ。


 では、この配信があったのはいつだろう。

 そう、私のお休み中だ。


「社長ッ! どうして許可出したんですか!!」

「えぇ? だって面白そうだったんだもん」

「面白そうだった、とか言う理由でアウトな配信をさせないでください!! 

 あのですね、いいですか? こういう際どいラインをチェックして、世に出回る前に止めるのが私たちの仕事なんですよ? 分かってますか??」

「はい。すみませんでした……」

「あら、茶葉ちゃん怒ると怖いね」

「朱里さん?? 矛先をそちらに向けても?」

「あはは~……、遠慮しときます。ハイ」






「百歩譲ってね、配信中に下ネタだったり卑猥な言動を取るのは良いんですよ。

 それを求めて視聴している紳士諸君もいるわけですから。

 でも、今回は社長とグルですよね?」


 地面に正座する社長と朱里に向かって指を指しながらお叱りを入れる。

 どうして社長とグルなのか。

 これは至って簡単に推理できる。


 朱里としては、是非ともASMRの配信をやりたかった。

 実際私にその相談は来ていて、『耳舐めたいです!』というDMをすべて『ダメ』と返していたわけだ。

 別の、例えばスライムとかそう言うのなら良いけど、耳舐めとかそう言うのはダメだよと言っていたわけです。


 そんな朱里の下にとある情報が入ってきた。


『マネージャの休暇。一時的にマネージャー交代』


 やるしかないよねと。

 そして事務所に電話を掛け、出たのが社長。

 耳舐めASMR、通りました。


 多分社長はウッキウキで許可を出したんだと思う。


 そこからは早い。

 なんとか私が帰ってくる前にと言うことで、与えられた猶予は許可を取った日も含めて2日だけ。

 しかし、彼女はもう耳舐めASMRの準備を整えていた。

 いつでも出来るようにとちょっと良いマイクを準備し、普段はエッチな絵を描いている絵師さんに依頼をしてイラストを描いて貰っていた。

 準備は万端。


 その日の夜には配信を始めたというわけだ。

 私はその日の夜は次の日に買い物ということで、さっさと寝てしまっていた。

 もし寝ていなかったら、配信の情報を入手してすぐに止めていたはずだ。

 だが、少しでもバレる可能性を減らすため、朱里はこの配信の宣伝を30分前に行った。

 ほぼゲリラ配信だったのだ。




「良いですか? 私たちが主に活動しているプラットフォームは子供も見るものなんです。

 だから厳しめにAI等も設定されているのは分かりますよね? 

 もう、そんなに耳舐めだとか卑猥な配信をしたいならば、いっそのこと大人向けの投稿サイトにでも行ったらどうですか?」


 そう呆れ半分に、ちょっとふざけていったのだが、私は後にこの発言を公開することになる。


「……いいね、それ良いね!!」

「しゃちょおお! やりましょう!」

「え? ちょっとまって? さすがに冗談ですよ???」

「大人は有言実行? 分かる?」

「待って、ホントにダメだから」


 説得するのに小一時間を要した。






「まあ、そういった卑猥な配信はもう控えてください」

「すみませんでした」

「とりあえず、この前の卑猥な配信のアーカイブは削除します」

「むふふ~、ねぇねぇ茶葉ちゃん? 卑猥な配信って何??」

「え?」

「はっきり言ってくれないと分からないよ。卑猥な配信って何? 何を消して欲しいの??」

「耳舐めASMRです」

「ねぇ、そこはもっと恥ずかしがってさ、『み、みみ、みみなめ……(ボソッ)』とかじゃないの!?」

「叩きますよ? 耳舐めなんて下ネタには入りませんし。別にそんくらい何回でも言ってやりますよ! 

 耳舐め耳舐め耳舐め耳舐め耳舐め耳舐め耳舐め……」


ガチャッ。


「こんにち……、って、汐ちゃんどうしたの!?!?」


 終わった。


「か、香織!? 違う、違うの!?」

「えぇ? 何が違うの? ちゃんと言ってくれないと分からないよ」

「お前もか!!」 

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