第13話 ファンな休日の過ごし方

「丸々休みなんていつ振りだ……」


 最近は忙しすぎて休めていなかった。

 事務作業の合間にタレントたちからの相談に乗ったり、依頼を受けたり。

 配信が始まればその配信のモデレーターをしながら作業をしていた。


 2日だけだけれど、そんな多忙な日々からおさらばだ。

 私が居ない間の業務はすべて社長がやってくれるそうだ。

 最近大きな仕事が1つ片付いたらしく、今なら変われるからと2日間休みをくれた。

 私はこの会社で一応管理職のため、残業や休日は無視されている。

 確かに休日はないけれど、安全管理義務という物が存在しているのだよ。

 これで体調崩したらどうしてくれるんだ全く。


 あ、ちなみに有休はあるらしい。

 マネージャーが増えたら連休とりたいなぁって夢見てます。

 まだマネージャーの募集は掛けていないらしい。

 おそらく2期生の収益化がそろそろだろうから、収益化達成次第マネージャーの募集を始めるらしい。

 まあ大体2ヶ月行かないくらいで新しい子が来ると思う。それまでの辛抱だ。


「香織は今日配信ある?」

「今日あるよ。一応3時からの予定。明日は丸々お休み取ってあるよ~」

「じゃあさ、どっか行こう」

「いいね~! どこがいいかな」

「そういえばさ、私たちここに引っ越してきたけど家具とか日用品とか前のままだろ? 

 これを機に買い換えないか?」

「いいね! 買いに行こう!」


 ということで、明日は買い物に行くことになった。

 でも今日一日は暇だ。


 動画編集でもしようかなぁ……。


 実は私、完全に業務外でつぼみの切り抜きチャンネルをやっている。

 近頃は忙しくて出来ていなかったのだが、せっかく時間があるのだから再稼働させてもいいかもなあと思っている。

 うちの事務所は切り抜きガイドラインを作成していて、それに則って切り抜きを作成してくれている人たちがたくさん居る。

 配信はサクッと見られない量なので、切り抜きで面白いところを抜き出してくれているのは非常にありがたい。


 配信を始めてからしばらくは、一切切り抜き動画がなく伸び悩んでいた。

 デビューしたては動画投稿でやっていたのだが、コストが掛かるというのと、他の既に人気のVTuberに負けてしまうという理由で配信に切り替えた。

 ただ、配信は長いという意見が多く、入りづらいと言われたのだ。

 だから私が切り抜きを始めた。

 はじめはその切り抜きさえも見てもらえなかったのだが、徐々に見てもらえるようになり、つぼみの人気も上がってきたのだ。


「さーて、どの切り抜きを投稿しようかな~」


 私は日頃から切り抜きの素材は集めている。

 ただ編集する時間がないから上げられていないだけで、編集すればいくらでも上げられる。


 数ある素材の中から今回作る物は、つぼみの叫びの寄せ集めだ。

 以前から私が運営している『桜木つぼみ切り抜きチャンネル』のコメントにもたくさん要望があったのだ。

 久しぶりの投稿だし、せっかくだからインパクトのある物にしたいと言うことでこれを採用した。


「よし、やるかー!」


 私のパソコン部屋はいつもカーテンが閉め切られていて、昼間だというのに薄暗くジメジメしている。

 散乱するお菓子のゴミ。あふれそうなゴミ箱。

 めんどくさいから片付けていないのではない。時間がないから片付けないのだ。


 カット編集くらいは隙間時間でも出来るため、すでに叫んでいる部分の切り抜きは済んでいる。

 あとはそれらをつなげて字幕をつけて効果音を着ける。

 軽く下の方に解説とかあれば、どうして叫んでいるのか分かるから良いだろうか。


 少し手間だけどそれもやろう。

 香織には切り抜きチャンネルをやっていることは言っていない。 

 やはり陰から相方を応援するというのは楽しい。




 香織の叫び声は結構独特だ。

 なんというか、腹から声が出ているのだ。

 「ギャッ」と短く言う場合もあれば、「うわぁああああッ!!」と長めに叫ぶ場合もある。

 長めに叫んだときは、謎の墜落ビブラートが掛かり、こちらが人気だ。

 普段落ち着いた配信をしているが、驚く場面でこうやって叫び散らかす。そういったギャップも彼女の人気の秘訣だろう。


 笑みをこぼしながらニヤニヤと動画を作っていく。

 やはり自分の好きな動画を作るのは楽しい。私は桜木つぼみというキャラクターが好きだし、中の人である花咲香織も好きだ。

 彼女がこうやってたくさんの人から認められ、求められ、愛されているのを見ると、こっちまでうれしくなる。

 しかし、同時に少し不安もあるのだ。

 やはり期待に晒されすぎて萎縮してしまっている所はあると思う。


 確かに以前から男女かまわぬ人気で、人目に晒されるのは慣れているかもしれない。

 しかし、彼女の今の舞台はネットだ。

 名前も知らない。顔も知らない。そんな誰かも分からない人から常に監視の目を浴びせられている。

 私なら絶対に潰れてしまう。

 そのストレスを適度に発散し、楽しそうに続けられているのはやっぱり凄い。

 たくさんの配信からの切り抜きを集めている今なら分かる。

 日が経つにつれて彼女は楽しそうに配信をしている。


 でもたまには配信とか気にしないでゆっくり出来る日を作ってあげたいなぁ……。

 有休取ったら温泉旅行とか一緒に行きたい。




 そんなことを考えながらもなんとか編集を進めていく。

 毎度新しい切り抜き素材を編集アプリに読み込ませるたび、私の神聖なる鼓膜を犠牲にしている。

 編集アプリはデフォルトの音が大きいのだ。

 もし1つの素材でも下げていないのがあれば、せっかく見に来てくれた人たちの鼓膜を破ってしまうから、1個1個気をつけてチェックしていく。




「ん? ちょっと待って?」


 一通り叫びをつなげ終わったので、通しで確認していたのだが、明らかにおかしい叫びが混じっていた。


「ッスー、これは誰の叫びだろう」


 思わずそう震え声で発してしまう。


「……私いつ叫んだ?」


 明らかに1つ、いや1つどころではない。いくらか私の叫びが混じっているのに気がついた。

 おそらく寝ぼけながらか、酒を飲みながら切り抜き作業をしていたのだろう。

 異物混入過ぎる。


 もういいや。このままいこう。






「よしかんせー!」


 時々休憩を挟み、つぼみや2期生たちの配信を見ながら作業して、ようやく切り抜き動画が完成した。

 丁寧に字幕を入れ、丁寧にカット編集をし、丁寧にモーションを入れた。

 私は切り抜き動画を作るときはいつも丁寧に作業をしているのだ。

 切り抜き動画が適当だと、本当は面白いはずの人が面白くなく見えてしまうかもしれない。


 できる限り演者を目立たせる。これが大事だと思っている。


 一通りの通しチェックを終え、いざエンコード。

 動画の合計時間は10分弱だ。

 想像以上に少なかったが、まああまり叫ぶ機会はないということなのだろう。

 1人分の叫びで10分くらいの尺が取れているのだから、相当量あるかもしれない。




「よし、早速投稿しよう」


 サムネイルは慣れたもんで、ササッと作ってしまう。

 概要欄にはしっかりと元動画のリンクを貼り付け、つぼみとSunLive.の公式チャンネルも貼る。

 ウェブも貼り、ガイドラインのリンクも記載する。


 そこら辺の細かい作業も大切だ。

 あくまで私の目的は、切り抜きからつぼみの配信へと視聴者をつなげること。

 私の切り抜きチャンネルを伸ばすことではないのだ。


「よし。投稿完了」






【音量注意】桜木つぼみ叫び声まとめ【SunLive./桜木つぼみ】

○茶葉ちゃん 〔チャンネル登録〕  ⇒共有 +保存 …

 チャンネル登録者数 8.6万人

334回視聴 12分前

この動画はSunLive.の切り抜きガイドラインに沿って投稿しています。

何か問題等ある場合はお手数ですが、概要のリンクよりご連絡ください。

〈元動画〉

【ホラゲー】白玉みたいなお化けの…… もっと見る



3件のコメント


○@user-jhws8wjkg93gs 7分前

 初投稿動画がつぼみちゃんの切り抜きとは。てぇてぇ


○@user-83hdiwjf9vbn 2分前

 なんか最近更新止まってた『桜木つぼみ切り抜きチャンネル』の編集に似てる?


○@user-j28erjskaosc0j 4分前

 茶葉ちゃんの叫び声自分で入れるんかwww 

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