第12話

「あれ? どこにしまったかな……」


 先ほどから梓ちゃん用の敷き布団を探しているのだが、どうも見つからない。

 クローゼットを調べ、押し入れの中などもじっくり調べたが、見つからない。

 確実に来客用の布団は用意されているはずなのだ。

 だって前の家に住んでいたときに親が泊まりに来るとかもあったから、そのために布団を買っていた。


 ……ん? 前の家に住んでいたとき?


「あ、捨てたわ」

「ん? 何を」

「いや、引っ越すときに敷き布団捨てたくね?」

「確かに!」


 どうせ東京だから電車いっぱいあるし、ホテルもあるから泊まっていく人は居ないよね~と思っていた。そのため、すべて捨ててしまった。

 なるほど。オフコラボで泊まっていく可能性もあったわけだ。全く考えていなかった。


「新しく買わないとな。こうやって泊まりに来る人今後もいるだろうから」

「そうだね。じゃあ、今日は梓ちゃんは私たちのベッドだね」

「そうだね。……あ、……わたしシーツとか変えてくる」

「? わかった」


 私たちのベッドは大きめだから3人くらい入ると思う。

 洗ってあったシーツを取り出し、今着けているシーツと交換する。

 この機会にということで、冬用の暖かい布団も出すことにする。

 そろそろ11月ということもあって、朝は結構冷え込む。

 いくらくっついて寝ているとは言っても寒いものは寒い。


 圧縮パックでぺちゃんこになっているもかもかな布団。

 圧縮パックを開けると、みるみる膨らんでいくので非常に面白い。

 何回もやりたくなる。




「うおー! もかもかだ!」


 今は誰も居ないし、せっかくもかもかなのでベッドにダイブしてみる。

 私の軽い体を、ふわっふわな布団たちが全身で受け止めてくれる。

 気持ちいい!


「すごい!! きゃはは! ふわふわだ~!!」


「か、可愛い……」

「これは可愛いですね」

「ぎゃぁぁああああっ!!」


 見られた。


「ノックしろよ!!!」

「えぇ? 2人の部屋だよ? ノックいらないでしょ~」

「そうだけど……」


 恥ずかしかったので耳まで真っ赤に染めて俯いていると、2人のひそひそ話が耳に入ってきた。


「先輩、私動画撮ってましたよ!」

「まじ!? 送って!」

「……消せ、すぐに消せーーッ!!」

「ありゃ? 聞こえちゃってた?」

「丸聞こえだっ!」




礼文梓【SunLive.】@Azusa_SunLive

 茶葉ちゃんが可愛すぎる……


 →鷹治百合【SunLive.】@YuriTakaji_SunLive

何があった?


 →礼文梓【SunLive.】@Azusa_SunLive

  誰も見てないと思ってふかふかのベッドにダイブしてた。

  マジで鼻血出るかと思った……


 →茶葉ちゃん@Chaba_Sakuragi

本当に広めないでください……






 歯磨きを済ませ、ベッドに3人でゴロゴロしている。


「私茶葉さんのイメージ変わったかもしれないです。可愛い」

「でしょ? マジで可愛いのよ。ね~?」

「ね~じゃねえよ。つつくな」

「とか良いながら抱かれてるんですね」

「いや、これは梓ちゃんが狭いかと思って寄ってるだけだから」

「甘えんぼさんで可愛いでしょ?」

「はい。凄く可愛いです」


 マジでこいつら何なんだよ。

 私マジでちゃんと仕事しているし、しっかりと支えてやってるのに明らかに下に見られていないか?

 最近マジで忙しいのだ。睡眠時間ほとんど取れない日もあって、たまにご飯も抜いている。


 だから布団に横たわるとすぐに眠気が……。






「あら、寝ちゃった」

「可愛いですね」


 すーすーと寝息を立てる汐。

 汐を挟んで2人が会話をしている。


「最近ね、ベッドに入るとすぐ寝ちゃうの」

「そうなんですね。近頃ずっと忙しそうにしてますからね」

「私1人でも大変そうだったのに、新たに5人増えちゃったから。事務所っていうこともあって責任とか感じちゃってるんだと思う」

「こんなに小さいのに偉いですね」

「そうだね」


 そういいながら2人は香織に抱きつく汐の姿を微笑ましく眺める。

 香織はどこか申し訳なさそうな顔をしているようにも見える。


「……私たちもそろそろ寝ようか」

「そうですね。おやすみなさい」

「おやすみ」


 汐がすぐに寝てしまったせいか、はたまたみんなが疲れていたからなのか。

 定番の怪談や恋バナなどは全くなく、皆静かに眠りについたようだ。






「暑い……」


 翌朝、いつもなら朝は寒いのに……。

 もかもかの布団を出すには少し早かったかなと思ったが、どうやら原因はそれではないらしい。


「暑いって言うより、暑苦しい?」


 右には香織。左には梓ちゃんという風に思いっきり2人から抱きつかれている。

 チラッと時計に目をやると、時刻は午前の6時。いつもなら2度寝しようか迷うのだが、今日は2度寝はしない。

 昨晩はやけにぐっすり眠れて、今は目が冴えまくっているのだ。


 この2人からはいつ抜け出せるのだろうか。

 そう思いながら、今の一瞬だけは裏方から抱き枕へと転職することにした。






 ――パシャッ!!


 そんな音で目が覚めた。

 何事かと思い目を開けると、ニヤニヤとしながら香織が私の写真を撮っている。


「な、なんで撮った!?」

「可愛かったから~!」

「ちょ、みせろ!」


 なんとかスマートフォンを奪い取って写真を確認すると、そこにはよだれを垂らし、気持ちよさそうにしながらもかもか布団に抱きつく私が写っていた。


 無言で消した。

 すぐにゴミ箱ボタンを押して写真を削除した。


 すると、今消した写真の1つ前に撮ったであろう写真がスマートフォンに表示された。

 ……これも消した。

 次のも消した。

 その次のも――。


「無言で撮るのやめてくれる?」

「あー! 私の秘蔵写真集が!」


 そう悔しそうにする香織を見て、ご満悦だといった表情をする汐。

 ただ、香織は全く悔しくなどなかった。

 普段写真を撮らない汐は知らなかったのだ。

 消した写真は削除フォルダに移動されるだけであり、完全には消去されていないということを。

 そして、ニヤニヤとこちらを見る汐を横目に、悔しがっているような演技をしながら削除フォルダーの中身をすべて復旧させた。


(よしっ)






「そういえば梓ちゃんは?」

「もう帰っちゃったよ。随分気持ちよさそうに寝てるもんだから、起こせなかったよ」

「……今何時?」

「11時」

「仕事じゃん! ちょっと! なんで起こさなかったの!?」

「え? だって今日休みでしょ?」

「……そうだった。そうだった! 休みだぁあああ!」


 完全に忘れていた。

 今日はお休みの日だ。久しぶりのお休みの日だ!


「ぬふふ~、お昼寝しちゃおうかな~」

「ダメだよ。先に朝ご飯食べてね」

「はーい!」


 今日はお休みかぁ。

 今日はお休みかぁ!!

 何しようかな? 動画見る? 漫画読む? それともどこかでかけちゃう?

 明日も休みだから温泉旅行でも行っちゃう?

 いや、温泉旅行はさすがに11時からじゃ無理か。


 でも何でも出来る気がする。今なら空も飛べそう!!  

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