第4話 二次審査

「あの、私マジで面接無理なんですけど」

「頑張って!」

「頑張ってって社長! だって、面接の相手大体私より年上ですよ? 年下ほぼ居ないじゃないですか」

「頑張って!」

「うぐ……」


 私が若すぎるだけかもしれない。

 まあ、そんなこと言っていても今日という日が来てしまったのだからもう仕方がない。

 今日は第二審査である、面接の日だ。

 一人あたり20分程度で、私の面接の後に5分くらい香織が雑談をするので、一人あたり25分くらいだ。

 今から数日に分けて少しずつ面接を行っていくわけで、私はオフィスのパソコンとにらめっこ。時間が来るのを今か今かと待っている。

 別のデスクでは他の社員さんが私たちの会話を聞いてメモするべく、こちらもパソコンとにらめっこだ。


「よし、時間になった。いこう」


 オンライン会議のアプリに入って早速面接スタートだ。


『失礼します』

「こんにちは。では早速、自己紹介をお願いします――」


 そんな感じで面接が始まった。

 今回聞くのは主に志望動機、VTuberになったらやりたいこと、好きな投稿者または配信者(桜木つぼみを除く)といった感じだ。

 あとは好きな漫画や小説、アニメなど、ネットカルチャーに関することも聞いてほしいと言われている。

 あくまで私の面接は、VTuber適性を調べるもので、人柄を把握するためのものではないらしい。


 では以下は数あるQ、Aの中からいくつか連ねていこうと思う。


「では、志望動機を教えてください」

『はい。VTuberになりたいと思ったからです』


 うん、それは多分みんなそうなんだよね。

 間違ってはないね。


 次。


「好きな投稿者、または配信者はいますか?」

『hawawaです。あの豪快な料理と飲みっぷりが見てて気持ちいいんですよね』

「わかる」


 hawawaはニッコリ動画で有名な人で、通称アル中ガラガラと呼ばれている。

 明らかに使用量のおかしい調味料と、濃いお酒、謎の中毒性が凄い。私はhawawaが好きな人に悪い人は居ないと思っている。


 次。


「VTuberになってやりたいことはありますか?」

『人類救済』

「??? それはどういうことですか??」

『近年、この地球で温暖化問題が発生しています。このままでは温暖化によって飢餓が発生したり、海面の上昇で島が沈没したり――』


 多分面接受けるところ間違えていると思うんだよね。

 話を聞く限り相当な知識があるようだから、もっとちゃんとした研究機関に行った方が良いと思う。


 次。


『この事務所に入れば桜木つぼみさんとセックスできますか?』

「できねぇよ」


 次。


「なりたいキャラとかはありますか?」

『ふんっ、素の私だ。漆黒の炎に包まれ、悪の組織から――』

「あああああああああ!!!」


 次。


「なりたいキャラとかはありますか?」

『あの、えっと、私リアルがあれなので、あ、キャピキャピした感じのが……』

「……ッス~、あ、はい~、そうなんですね~」


 次。


「好きなアニメはありますか?」

『はい。私は“織田信長は将軍である”って言うアニメが好きで、その中でも完全栄養食としてピーナッツを食べる通称、ぴなっつーというキャラが推しなんですけど、んふッ、ぴなっつーを思い出しただけでニヤけてきました……、あ、あと可愛い絵柄をして内容は結構鬱で、でもその中でも女の子たちがキャピキャピ頑張るのが好きで、時折苦痛に歪む表情とか、狂っていくのが凄い性癖で、あぁ、あと、主人公の普段はばかっぽい天然なキャラだけど、やるときはちゃんとやる――』

「あはは、そうなんですね~、今度見てみます~」

『はい! 是非! あ、あと、特に7話のシーンがお気に入りで、ここでようやく厳しかった仲間が心を開くんですよ、そこがもう感動で、ここから一気に鬱へと舵を――』




「疲れた……」

「お疲れ様。なかなか大変そうだったわね」

「本当ですよ。本当に疲れました……」

「明日で二次審査の通過者を決めるから、いろいろメールとかやって、三次はこっちでやっとくから、三次の間は香織ちゃんと休み取りなさい」

「はい。ありがとうございます」






「面接やばかった……」

「えぇ? 私は楽しかったよ」

「いやいや、もうキャラが濃すぎ。疲れるわ」

「あ~、弱ってる汐ちゃんも可愛い~!!」

「やめろ~、くっつくな!」

「もう、満更でもないくせに!」

「……うるさい!」






「で、休みをもらえることになったけど、どこか行きたいところあるか?」

「そうだねぇ……、まだこっちに来てから少ししか経ってないけど、もう自然が恋しいよ」

「あぁ、それは分かるな。どこか行くか」

「近くに良い自然あったっけ」

「うーん、ちょっと外まで行かないとダメかも」

「じゃあ私あそこ行きたい! ヤマヲススメの聖地の天覧山!」

「あぁ、ここからだと池袋でなきゃだから遠いけど、まあ時間はあるし行ってみようか」




『ていう感じでね? 天覧山に行ってきたの!』


コメント

:へぇ、楽しそう

:わいんちの近くや!!

:¥12000 旅行代


『あ! 旅行代ありがとう! でねでね、天覧山って結構登りやすくて犬の散歩も出来るって言ってたけど、初心者からすればきつかったよ~。茶葉ちゃん運動不足だからバテてた』


 明らかに語尾に笑いが含まれていたのが気になるが、実際バテた。

 22歳にして恥ずかしいものだ。

 飯能市にある山だけど、東京から一本で行けて、良い感じの自然があったから凄く良かった。

 私たちが山に行っている間に三次審査もやったみたいで、後は私たちの確認を取るだけらしい。

 この三次審査を終えてからは私の仕事が増える。

 マネージャーとして、スタッフとして細かいキャラの打ち合わせやスケジュールの話し合いなどをしないといけない。

 香織に手伝って貰いながらやるかぁ。


 そう思いながらだらっとお酒を飲み、チーズをつまんで配信を見ていたら、急に配信部屋から香織が飛び出してきた。


バンッ!


 勢いよく扉が開くあまりの大きな音に驚いて少し飛び跳ねてしまった。


「うわぁ!? どうした!?」

「トイレ~! 急がないと!」


 配信画面に目をやると、斜めに傾いた状態で固まっているつぼみの姿があった。

 そして……。


バンッ!

『うわぁ!? どうした!?』

『トイレ~! 急がないと!』


「うわぁ!? ちょっと! ミュートできてないぞ!!」

「ふぇぇえ!?」


『うわぁ!? ちょっと! ミュートできてないぞ!!』

『ふぇぇえ!?』


コメント

:草

:仲良いなぁwww

:草

:¥5000 てぇてぇ

:助かる

:¥8000

:草

:www

:こいつらwww


 多少の時差があって聞こえてくる私たちの声。

 思わず私は配信部屋に猛ダッシュしてマイクのミュートボタンを押した。


コメント

:なんか凄い挙動したぞwww

:茶葉ちゃんがミュートしたんだろw

:¥50000 草

:さすがすぎる

:このポンコツ具合が良いよなぁ


 私の猛烈な動きがカメラに反応して、桜木つぼみのアバターはものすごい動き方をした。


「ふぅ、すっきり」

「もう……、ちゃんとミュートしろよ?」

「はーい」

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