第2話
『みんな今日の配信来てくれてありがとう! で、実は最後にみんなに発表があります!』
コメント
:どうした?
:¥20000 今日の配信も良かったよ!
:発表?
:なんだ?
:¥520
『実は! 私桜木つぼみは、新たにVTuberの事務所を立ち上げました! その名も“SunLive.”です! 本日付で、私桜木つぼみはSunLive.の1期生となりました!』
コメント
:うぉおおおお!!
:うぉおおおお!!
:おめでとう!
:事務所!!
:¥2100 めでてぇ!!
:まじでおめでとう
:すげえええええええ
『事務所設立にあたり、ただいまより公式サイトから2期生の募集が始まります! バシバシご応募ください! では、また次の配信で!』
事務所にやってきてからしばらく経った。
私や香織を含めても社員は5人という少人数ではあるものの、こうやって発表したことで本格的に事務所としての仕事が始まる。
私は主にVTuberのマネジメントや広報などを行ういわば権力のある雑用と言った感じだ。
プログラミングが出来るわけでもなく、絵が描けるわけでもない。そういった難しいことは他の人たちに任せている。
私はひたすらにVTuberのサポートをするのだ。
「お疲れ様」
「ありがとう。ついに発表だね」
「ほんとだな」
2期生の募集は3段階の審査で行われる。
1つ目が動画審査だ。
会社の設立メンバーは私と香織と社長の3人で、実は全員が女性だ。
そのため、この事務所では主に女性のタレントを取り扱うことになる。
動画審査の内容は、あらかじめ用意されている役になりきった動画を送信すると言ったものだ。
また、用意されていない役であってもおっけーで、とりあえず動画を送ってくれと言った内容だ。
用意されている役は3つで、清楚なキャラクター、ロリなキャラクター、セクシーなキャラクターだ。
細かい設定などは自分で考えて貰い、自己紹介とその設定に沿って実際に配信をしている体で話して貰う。
それを私たちで審査して1次審査は終わりだ。
VTuberとして活動して行くにあたり、私が最も大切だと思っているのがトーク能力だ。
確かにゲームの上手い下手で人気は左右されたりする。しかし、話が面白くなければ飽きられてしまう。
何もない完全に自分で考えて話して貰う。
シンプルだけれど、その人の人間性や配信適性が分かる。
2次審査はオンライン面接という形で行われる。
なお、ここでは音声だけで行い、カメラ等は付けない。
そして、予定では友達と話しているような、ラフな感じで行こうと思う。
どれだけ緊張せずに、初めての相手と話せるのかをチェックするのだ。
最初に私と、次に香織と話して貰う。
そして3次は実際に会って面接だ。
わたしは面接を受けたことがないから分からないけれど、完全に社長たちにお任せするから、多分普通の面接と同じだと思う。
2次まではどこからでも出来るけれど、バーチャルの癖して3次でリアルに呼び出すのか!? とか言う声があるかもしれない。ただ、事務所で活動して貰う以上は所属してからもこの事務所にたまにだが来て貰うことになる。
その準備と思って貰えれば良い。
「いや~、凄い反響ね」
「そうですね」
この大人っぽい女性がうちの社長だ。
敏腕なキャリアウーマンで、バリバリの仕事人。
彼女の名前は
一応社会人と言うことで、私も社長にはしっかり敬語を使う。
なんなら香織以外は敬語を使っている。偉すぎ私!
確かに立ち上げメンバーだけれど、香織とともにチームの最年少で、見た目とかを考えると完全にガキンチョでひよっこ。
まあいいの。事務所と一緒に成長するから。
「ひえっ、こんなに……」
あれから1ヶ月が経過し、応募は締め切られた。
あの桜木つぼみが立ち上げメンバーの事務所と言うこともあり、相当な注目を浴びたSunLive.には、ものすごい量の応募が殺到した。
「これを全部見るんですか……?」
「そうよ。頑張ってね」
「汐ちゃん頑張れ!」
「香織! 一応あんたも見るんだからね?」
「えぇ~、私も?」
「そうよ香織ちゃん。みんなでやりましょうね。じゃ!」
「……社長??」
「わ、分かってるわよ。冗談冗談~」
応募総数1428。応募開始日から徐々に増えていくこの数値。
怖くなった私たちは、この日のためにチーム全体であらゆる仕事を早めに終わらせていた。
香織も今日からしばらくは配信頻度を減らして対応する。
ただ、現在この事務所の収入は香織の配信ただ1つ。そのため香織は配信の方をできるだけ専念して貰いたい。
……実質4人で1400近くもの動画を見るのだ。
真夜中。終電も終わり寝静まった住宅街の中、永遠と光をともす建物があった。
その建物に入っているのはSunLive.プロダクションだ。
皆死んだ顔をしながらヘッドフォンを着け、モニターを眺め、メモを取る。
社員の一人はもうダウンしたらしく、アイマスクをしてそこら辺の床に転がっている。
確かにこのマンションにベッドはある。
ただそのベッドは私と香織の家にある、私と香織のベッドだ。
さすがに社員に貸すわけには行かない。
そんな地獄のようなスペースに、愉快な声を出しながらやってきた女がいた。
「突撃~! 我が事務所!」
コメント
:みんな死んでるとは?
:どうなってるんだ
:修羅場ってこと?
:つぼみちゃんの会社大丈夫?
「大丈夫。私は社長じゃないから!」
「大丈夫じゃねぇよッ!!!」
「ひぇッ、し、しおちゃん!?」
「オメェもすこしゃあ手伝えや!」
コメント
:893来たーー!!
:¥7000 残業代
:汐ちゃんだ!!
:うっすうっす!
今まで片手で数えられるほどには配信に出ているのだが、私はそこそこ人気らしい。
ただ、いまは配信のノリにのってられる余裕はない。
「たのむからそっとしといてくれぇ……」
呂律が回らないながらも頑張って言葉を掛けると、申し訳なさそうな顔をしてしおれていった。
「す、すみませんでした」
この日のスパチャの量はいつもの2倍近くに上ったらしい。
私の残業代だって。
「お、終わった……」
「こっちもです……」
「おっしゃぁぁああッ!! 打ち上げ! 打ち上げ!」
「いやいや、まだ面接があるわ。ここからよここから」
相当な時間を要して、ついにすべての動画を見切った。
オフィス内は歓喜の声で湧き上がっている。最高だ!
最近はほとんど寝られていなかった。ベッドに入れば熟睡してしまうからと床で寝る日々。
体はバキバキで目の下にはクマがたくさんついている。
机の上に散乱するエナジードリンクとコーヒーの缶から目をそらすように、私は5階にある自宅へと逃げていった。
時刻は18時。初めての定時帰宅である。
「ただいま~!」
「あ、お帰りなさい」
「風呂入って寝る」
「え~!」
「わたしゃあ疲れてるんじゃい!」
「えー! じゃあ私も一緒に入って寝る~」
「はいはい」
うちの家は広いと思う。2人で住むには十分の広さ。
もちろんそれぞれに部屋を作って、そこにそれぞれのベッドを置いても大丈夫なほどには広い。
だが我が家のベッドは1つだけ。
一緒にお風呂に入った私たちは、寝室にあるダブルベッドの真ん中に寄り、シングルでも良いんじゃないかというほど密着して寝る。
いつも私は抱かれ枕。
暑苦しいけど、慣れればこれが一番安心する。
私は枕を変えると寝られない体質だから。
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