第15話

僕は目を覚ました頃とある地下牢のような柵で閉鎖された檻の中に横たわっていたので起き上がると異臭が漂ったいるのに気づき口を押さえた。何度か人を呼んでみたがこだまするように声が響いている。

しばらくすると二人の人物が檻の前に立ち鍵を開けて外に出ろと告げてきた。そこから道なりに歩いていくと階段を登って、一室の中に入るように言われて足を踏み入れると、細く小さな光が差す窓のところに立つ人物がこちらを振り向き、その顔を見て僕は鳥肌が立った。


「久しぶりだな、兵頭。負傷者に手厚く介抱してやっているようだな」

「後藤……お前、なぜここまでして日本国を破滅させようと図っているんだ?」

「破滅ではない。とにかく増え過ぎた老人や子どもを追放させ、元の国の時代に再生していきたいのだ」

「追放じゃないだろう。殺戮さつりくしてこの国を支配下していきたいんだろう?!」

「支配か。くっ、それも悪くはないな。だがな、まずは首相のアキレス腱を切り、真のリーダーになる者を選抜させ総力をあげて国を守ることがこの島国にとって大きな利益となる。諸外国との同盟も結ぶことで、より強靭きょうじんな国家戦力を創り上げるのだ」

「それは……お前たち親衛隊だけの望みだろう?人々は皆争いのない国を創り共存と存在価値のある利益を共に掲げていけるようにしていきたいんだ。この二千年以上の歴史の間に武力闘争や世界大戦を経験してきた世界の人間がどれだけの苦しみを見てきたことか……それがない世の中になるように治安維持も撤退させたのに、親衛隊が発足したことでまた国の自由が奪われていったんだぞ!」

「それじゃあ貴様のような微塵な愚か者に分裂した列島をどう立て直せるか、その頭で皆を救世済民できると言い切れるのか?!……言い切れるのか、我が弟よ……」


後藤と僕は異母兄弟だ。


この国が天変地異で分裂した際に幼かった僕らは実母とはぐれ孤児として男性島に漂着させられたようなものだ。僕が六歳になった時、父は亡くなってしまったため後藤とも離れて暮らすことになったが十六歳で親衛隊の一員となった後藤の事を知り僕自身にはもう家族と呼べる存在がないのだと言い聞かせて医師になることを決めた。親族に無理をお願いしては猛勉強し医大を卒業したのと同時に後藤が部隊のリーダーとなったことで一気に勢力が過激化していき、僕もまた救護士という一万倍の倍率を突破して今の道へと突き進んだのだった。

後藤は僕の傍に寄り、眉をひそめては襟首につかみかかってきては苦笑いをしてきた。


「あの馬鹿な父親に似てきたな」

「父さんは愚かではない。医師として権威ある者へと昇格していった。誰からも慕われていた人だったじゃないか。忘れたのか?」

「大昔の話なんか記憶にないな。俺は首相の首を取ることが目的だ。目の前で死んでいく者たちを手助けしているのなら、新しい国を創ることに精を尽くしていきたい。なあ、人命も大事だがそのがたいの良さを活かして俺の下で一緒に組織を立て直さないか?」

「断る。そっちは十分人手も足りているだろう?救護士や医師は減少してきているんだ。俺一人でも欠けたら何千倍の命が救えくなるんだ。……兄貴、あんたも自分の命を守れ。このままだと機動隊にやられてしまう。降参するのがこの国の為だ」

「綺麗ごとにもほどがある。俺を待っている人がいるんだ。待ち望んでいる若者たちもいるんだ。裏切れないな」

「だったら、俺も待っている人たちのためにこのまま返してもらいたい。俺を殺したところで一斉にあんたも一撃されるんだ。この国を、これ以上殺さないでくれ……!」

「いつだって正統派だな。取り敢えず一旦解放させてやる。だが殺戮は終われない。出生の断絶懸案を認可させた後に本当の自由を民衆に与えてやる。……おい!誰かいるか?!」

「はっ!」

「この人質を解放させろ」

「しかし、機動隊が接近しています。このまま解放せずに刺殺しては?」

「命令は命令だ。直ちに解放せよ!」

「こっちだ、ついてこい!」

「……兄貴」

「最後に会えてよかった。共にこの国の『自由』をたたえて尽力していこう」


その後救護所に着いて矢野たちがいる指令室に入ると、皆が駆け寄り無事に帰ってこれたことに安堵していた。後藤との関係は伏せておいたが親衛隊の動きが思わしくないことを告げると、治安維持部隊へ援護してもらうよう通達を送ると、一時間ほどで彼らが到着し、のちに後藤も確保したことも連絡が来た。

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