第12話
翌日になり、休憩所から外に出ると周囲の女性救護士たちが慌ただしくしていたので、何があったのか声をかけてみると、男性救助隊として来ていた民間人の二人が救護車でここから脱走したと話していた。自衛官たちは街に向かっている可能性が高いと話し合い、発見さたらすぐに救護所に戻すよう警告していた。
数時間後救護テントで処置をしている際に一人の救護士が僕に応接所まできて欲しいと告げてきたので、その場所に行くと益井が座って待っていた。
「お二人に協力してほしいことがあります」
「どうされました?」
「脱走中の二人を引き連れてきていただきたいのです」
「その二人は広範囲に渡って移動している可能性もあるのですが、今ここから位置情報を確認してみたのですが……こちらに写っている地図の中の場所にいるみたいなんです」
「この場所はどのような所ですか?」
「歓楽街の外れです。立ち入るのも大変危険な場所で、親衛隊がうろついている事もあるんです」
「どうしてこういう状況の時に脱走なんかしたんだ?」
「恐らくですが、元々は殺戮が狙いで集められた人たちだったんです。そこから落選したので今回の救助隊に志願したものかと思われます」
「そういえば、古谷と酒井の姿が見当たらない。まさか、あの二人か?」
「そうなんです。そのような気配も全くなかったので二人を信頼していたのですが……こんなことをするなんて日本国の恥ですよ」
「僕らは街に向かう事も危険ですか?」
「ええ。特に日中だと男性が歩いている姿を見ればパニックになる可能性もあるかと……」
「失礼します。矢野警護官、たった今入った情報です。男性島から来た者たちの殺戮者の中に我々救助隊から脱走した二人とみられる者が合流したとのことです」
「どこに向かっているかわかりますか?」
「それが申し上げにくいのですが……」
「いいから言いなさい」
「はい。
古谷と酒井の二人は外山町というところに着いた際に車から降りて通行する若い女性らに声をかけてホテルへと連れこみ、無理矢理強姦行為を働いたという。矢野は当分の間は二人を女性島の拘置所に匿い取り調べに応じては処罰も与えられるだろうと話していた。
「こういういい方は何ですが、ストレスから来る欲求不満がたたっていたのかもしれません。この一週間近く負傷者の数が増えてきていますし何かと耐えきれなかったのかもしれません」
「ともかく僕たちはここのテントにいる人たちの対応にあたりますので、また何かありましたら呼んでください」
それから夜になると、あるテントでは重症者の心肺停止が相次いで起きたので女性救護士とともに対応に追われていった。息が弱くなり始めた頃、電灯が消えかかったのでヒュプノスが来ると警告を出したが一瞬にして辺りが暗くなったので皆が非常用のライトを点けると、重症者の女性の枕元にヒュプノスが現れていた。
「もう、これ以上無理はしなくてよい。さあ、安らかに眠りなさい……」
「おい。まだこの人は心臓が動いているぞ。これから心マを開始します。離れてくれ」
「無駄だ。この者が死を選んだ。私は彼女の意思を尊重する。余計な事をするでない……!」
すると手をかざしたヒュプノスの光とともに魂が舞い上がり彼は胸元に抱えてテントから出ていった。
「待ってくれ。まだここには負傷者が増えるのか?教えてくれ!」
「……そろそろ落ち着いてくる頃のようだ。あなたも自分の身をわきまえて行動するようにしなさい」
「どういうことだ?」
「益井という男には気をつけなさい。彼はあなたを狙っている」
するとヒュプノスは上空へと昇っていき次第に姿を消した。テントに戻ると救護士らはその女性の遺体の撤去を行ない益井も補助作業を手伝っていた。ヒュプノスの言っていた彼の危険性というものが何なのかこの時は明確に捉えることができなかった。
深夜二時。静まり返る救護所の休憩テントで何かの物音がしたのでベッドから起き上がってみていると益井がバッグに荷物を詰めていたので声をかけると、彼もまた今ある現状に耐えきれなくなったのでここから脱走して乗船所へ向かうと言い出してきた。
引き留めようとしたが彼は涙を流してこれ以上関わらないでくれというと外へ行き車を盗んで敷地内から出ていってしまった。
僕は休憩所にいる女性警護官に事情を伝えると後を追うように命じてきたので、ライフル銃を持ち込みもう一台の車で位置情報を確認しながら彼の車を追いかけた。
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