第11話

二十三時を回ったところで再び休憩所に行くと益井の姿を見つけて声をかけた。


「どうだ?疲れていないか?」

「大丈夫です。今のところ救助隊の人たちも怪我もしてないので元気ですよ」

「顔色が優れないな。寒気はしないか?」

「はい。今朝からずっと出回っていたので多少の疲労はありますが、本当に心配しなくても大丈夫です」

「何かあったらすぐに言えよ」

「はい」

「あの……お二方もしかしてパートナーですか?」

「ええ。何かありましたか?」

「いえ、なんだか兄弟のようにも見えたので親しいのかと思ったんです」

「実は僕らもパートナーなんです」


そう告げてきたのは民間人である古谷と酒井という男性だった。彼らも元々医療機関で看護士として働いていたが政府から離脱を余儀なく警告されてしまったために救助隊の一員として選ばれたのだという。


「僕らはパートナーになって一年が経ちました。だいぶ共同生活にも慣れてきましたし。お二人は?」

「僕らはまだ二ヶ月くらい。まあなんとか最近になって落ち着いてきたかというところです」

「兵頭さん、東都医療特命救護チームのリーダーなんですよね。僕らが機関で働いていた時からの憧れだったんですよ」

「そんなに知れ渡っていたんですか。今はそこから離れて医療センターで臨床にあたっているんです」

「そうだったんですか。救護チームの編成も政府が管轄していますからね、そこは仕方ないのかもしれないな……」

「じゃあ益井さんとはだいぶ時間も一緒に取れていますよね。どうですか、兵頭さんがいると頼りになるでしょう?」

「ええ。自分も勇ましくなった感じがします」

「皆さん、就寝の時間です。隣のテントにベッドが設置してありますので各自移動してください」

「じゃあまた明日。おやすみなさい」

「おやすみなさい」


翌朝四時の起床とともに支度が整うと救助隊全員で次の防空壕のある場所へと向かっていった。とある敷地に到着して降りると数名の女性たちが走ってこちらに向かってきたので、矢野が保護して話を聞くと男性島から渡航してきた者に追われて集団 殺戮さつりくから逃れて来たので助けてかくまって欲しいと要求してきた。


「男性陣はどこにいる?」

「あの鉄塔の向こうにある建物の中にうろついています。襲われる可能性に高いので気をつけてください」

「ここの地下に防空壕があるのでひとまずそこに待機してください。……私達も向かいましょう」

「全員車に乗ってください」


女性が教えてくれた建物に着くと矢野をはじめとする自衛官らが銃を構えるように指示してきて、相手が攻撃してきたら発砲しても構わないと告げてきた。

緊迫するなか中へ侵入していくと螺旋階段から誰かの悲鳴が上がってきたので僕らが登っていくと数発の銃声音が聞こえてきてうめき声も聞こえてきたので急いで向かうと、ある一室の扉を開けて銃を構えながら入ると、十数名の女性の遺体や負傷者が互いに泣きながら抱き寄せ合っていた。


「私達は救助隊です。何があったのですか?」

「今、この部屋の中にいた男性たちが私達に向かって銃を乱射してきました……お願いです。助けてください……!」

「どこに逃げたかわかりますか?」

「奥のドアから外に出て階段で降りていったみたいです」

「兵頭さん、手当てをお願いします」

「触れても大丈夫ですか?」

「はい。ここを撃たれました……」

「止血をするので少し我慢してください」

「ううっ……こんな惨事になるなんて誰も予測なんかしていなかったのに……男は皆残酷よ……」

「撃たれてもよく耐えましたね。骨には届いていないのでしばらく安静にすれば回復します。益井さん、彼女たちを車に移動させてください」

「はい。自力で立てる方は僕の後について来てください」

「この遺体はどう運ぶんですか?」

「応援要請を入れたのでもうすぐで到着します。その後は自衛官の彼女たちに任せてください」

「……矢野さん、全員避難できました。僕らも行きましょう」

「まだ誰かいるかもしれないので銃を離さずに建物から離れるようにしてください」

「はい!」


負傷した女性たちを車に乗せて救護所に向かい僕ら医師が処置を取るとまた次の別の場所から負傷者が出たので向かって欲しいと告げてきた。その日から数日の間に発生した死傷者は合わせて二百名以上と殺戮によるものだったという。島を脱出しようと試みた者も含めると千名近くの犠牲者が生じていた情報を聞き暴動が悪化してくる背景の中で、僕たちはひたすら目の前の救助に当たっていった。

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