第6話
十五時が過ぎた頃、立ち寄ったスーパーへ買い出しに行きその後自宅に着くと、僕は少しだけ仮眠が取りたいと思い益井に声をかけてベッドに横たわり眠ることにした。一時間ほど経ち起き上がってリビングへ行くと益井は自分の部屋にいるようなので何も言わずに再び部屋に戻った。
ベッドに仰向けに寝転がりしばらく天井を眺めながら、条例の件について考えていた。
仮に益井と性交をしたとなると、それで僕たちは解放されて元の生活に戻れるのだろうか。果たして単に彼を抱いたとしてもそれを証明させるために親衛隊へ何かを送りつけないといけないのかと複雑な思いがよぎっていく。
改めて封書を取り出し書類に目を通していくと、ある事項が記載されていた。
「室内に設置してあるカメラを使って同居人の男性と性交をしろ?……そんなもの、どこに置いてあるんだ?」
僕はリビングへ行き、家具の中やキッチンのシンクの下、部屋のクローゼットなどを見渡してみたが、カメラらしきものは置いてはなかった。益井にも声をかけてみると部屋から出てきて天井の火災警報器の隣に設置してある黒く手のひらに乗るほどの小型装置を見つけて脚立で上りそれを取り外してみた。
「これ、レンズがついている」
「あらかじめ付いてあった物かと思われます」
「じゃあ、俺らがここに居るのを監視しているって事になるのか?」
「そうだと思う。僕の部屋にも同じ装置が付いていました」
「封書を見たんだが、性交……つまり益井さんと身体の関係を持つまでこれで見張られているってことになるのか?」
「音声ももしかしたら撮られているかもしれないですね」
「全部、晒し者にされているのか……嘘だろう?」
「この際、思い切ってしてみますか?早いうちに済ませれば僕らも早く解放されるかもしれないですよ」
「急には無理だ。男同士でしろだなんて……」
「だってそれが条件で一緒に住むようにされたんですよね?早いうちに……やってみますか?」
「そっちみたいに悠々としていられないよ。
すると僕の背中に益井は寄りかかり急に静かになった部屋に冷たい空気が漂う感覚になっていった。
「僕だってしたくないです。でも、条例に反したら何をされるかわからないし、その方が逆に怖いです」
「一旦、ソファに座ろう。立ったままじゃどうしようもない……」
僕らはソファに並んで腰をかけてしばらく無言でいたが、益井は僕の横顔を見つめて肩に手をかけて背中を摩ってきた。
「酒……飲もうか?」
「僕はいらないです。今、してしまうならさっさと済ませませんか?」
「気は確かか?俺は女じゃない。恋人同士でもない、どうみても男だろう?……なんか、何をどうすればいいかのか……」
「そんなに悩まなくてもいいですよ。兵頭さん、女性とセックスしたことはありますか?」
「ないんだ。島が分断されて男女が別々に暮らすようになってから全く触れたこともないし話したこともない」
「僕はあります」
「それはいつ?」
「実は、一度だけ女性島に侵入をしたことがあるんです」
「何の目的で?」
「大学時代だったんですが、当時の仲間たちと渡航して二日ほど滞在しました。街に行って一気に興奮して、ナンパみたいに声かけてそのうちの一人の二十代の女性の家に押し掛けたんです。その彼女を抱きました。でも親衛隊に見つかって処罰を受けました」
「ちなみに処罰とは?」
「男性島の男たちの相手です。それこそゲイにもみくちゃにされましたよ」
「
「だからまだ僕らの方が清い方かもしれませんよ。兵頭さん、抱きしめても良いですか?」
「まあ、少しくらいなら……」
益井はためらうことなく僕の身体を包み込むように抱きしめて肩に頭を持たれてきた。彼は時折人肌恋しく思うこともあり僕と暮らし始めてから数日現場に出向いている時は自宅にいないことに寂しく感じることもあると言っていた。
彼は僕の存在がどことなく自身の家族と似ていることがあるという。
特に父親の面影を感じ幼少期に遊び相手になってくれた記憶が強く残っているので尚更僕の佇まいがその人と重なるとも話してくれた。
「郷愁ってやつか」
「ええ。僕は父が大好きでした。島を離れた頃彼は亡くなったんです。僕一人きりになってしまい親戚の家で暮らしながら学業に専念していって一浪してようやく大学に入れましたから。……兵頭さん、父さんみたいに温かいな」
僕はそれを聞いて自分の家族を思い出し、志半ばにして同じく父親を病で亡くした身でもあるので、彼が昔を懐かしむのもわからなくもなかった。僕も両腕をまわして彼を抱きしめると先程よりも強く抱き抱えてきた。家族を思うのは皆同じ。ただ境遇が違うだけだがこうして日本国が分断したことにより、人間の価値観も変わってしまったのは事実だ。
「ねえ……僕の部屋に来てくれませんか?」
「カメラは?」
「付いています。手始めに僕を抱いてください」
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