第4話
「プロフィール読ませていただきました。兵頭さん、あの東都医療特命救護チームのリーダーなんですね。僕ビックリしました」
「いえ。大した事ではないです」
「だって救急救命医からあのトップの救護チームに任命されて勤務されているんですよね?凄いじゃないですか!」
益井という男性は外観からは好青年といったような雰囲気を漂わせて、温厚そうな人柄と見え年齢も三十歳と同年代でどちらかというと彼の方が年下のように感じた。
「僕もプロフィール読ませていただきました。ご出生が沖縄なんですね」
「ええ。生まれてからすぐに東京にきまして」
「だから顔立ちもはっきりとした感じなんですね」
「顔……そんなに気になります?」
「いや。そういうつもりで言ったんじゃなくて……」
「まあいい。よく昔から言われるんです。顔が目立つから日本人に見えないとか突つく人もいるんですよ。それより僕ら今日会ったばかりなのに余計な話を悠長にしていられるものだな。例の条例で同居しろだなんて本当にうっとうしいものだ」
「まあこれがいつまで続くのかもわからないらしいしな。一生涯だなんて言われたら、たまったもんじゃない」
「そちらは荷造りはしています?」
「いやまだだ。明日も隣町の救護所で任務があるし、その合間に用意して取り掛かろうと思う」
「僕はとりあえずは始めています。期限内に引っ越さないと国外追放?排除処置命令とかが下されるみたいなんで、急いだ方が良いですよ」
「親衛隊の奴ら、どこまで手荒いんだ……」
僕らは挨拶を交わすとマンションを出て自宅へと帰っていった。一週間後僕は新居のマンションへと引っ越してきて、リビングの奥にある居間へと荷物を運び入れて荷解きをしていた。ひと通り作業を終えてキッチンに行くと益井が何かの調理をしていたので声をかけてみた。
「ああこれ?今日の夕飯です」
「そうか」
「兵頭さんの分も作ったので一緒に食いましょうよ」
「いいのか?」
「ええ。家事全般得意なんで今後食べたいものがあったら教えてください」
彼の作った料理がテーブルに並べられて煮物や白飯に味噌汁などまるで実家で並ぶような光景に懐かしさが浸っていった。早速ひと口食べていくと、つい
「良かった、口に合うみたいで嬉しいです」
「ずっと外食やインスタントがメインだったんだ。人に作ってもらうのってやっぱり良いよな」
「兵頭さんは家にいる時間もあまりないでしょう?こうして合う時間ができれば僕が作りますので遠慮しないでください」
「申し訳ない。ただ、旨いのは旨いよな」
「明日は何時に出るんですか?」
「七時。救護所に行く前に先に医療センターに来てくれって言われた」
「何がお話でも?」
「内容は聞かされていない。まあ、あまり良くない知らせだというのは感じるところかな……ごちそうさまでした」
「僕が片付けます」
「いいよ。このくらいは自分でやる。先に風呂に入ってこい」
「じゃあ、先に入りますね」
翌朝、高度救命医療センターへ向かい院長室へ入ると院長と役職者の数名が席に着いていて、僕も椅子に座ると副院長からある提案を示してきた。
「今、女性島で男性島から侵入している民間の若者の男性たちが相次いで刺殺されている。恐らく親衛隊の仕業だと政府で内密に調査が行われている。兵頭先生、あなたに特例で女性島への救助命令が出されたんだ。他にも同じ医師や自衛官らへ十数名の指名が上がっているんだ」
「しかし、女性島へ侵入すると私達も刺殺される可能性もありえますよね。国では認可はされていないのですか?」
「そこが厄介なところなんです。極秘侵入で囚われている女性や子どもを助けて元の居場所か仮設所に救護してもらいたいんだ」
「囚われている?一体何があったんですか?」
「女性たちも島を脱出しようとしていたらしくそこで警備隊に一時的に捕獲されているようなんです。そこへ我々男性島の特例の救助隊が彼女たちを助けるよう要請をかけているんです」
「かなり高度な依頼ですね。医師である僕らも救助に向かうと彼女たちも安心できる。そういう事でしょうか?」
「ああ。それから兵頭先生は今益井という男性の方と同居されているとのことで伺ってはいますが……?」
「はい。彼がどうかされましたか?」
「その者について私達も調査したんですが、学生時代に武術を習得していたようで身体能力も優れた人材だと聞いています。ご存じでしたか?」
「いえ、初めて聞きました。そうか、それで私と同居するように命じてきたのか……」
「その益井という方も今回の救助隊の一員として召集がかけられています」
「え?益井さんも?」
「民間人であるが高い身体能力を持ち合わせているようだから兵頭先生とパートナーとして組んでいただきたい。この任務、引き受けてくれますか?」
「時間がもうないんです。このあと救護所に行かれるとは思いますが本日中に返事が聞きたい。どうか検討してください」
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