第3話

三時間ほど経った頃、僕は目を覚まし起き上がると看護士が声をかけてきて、もうしばらく安静にしてほしいと言っていたが、先ほどよりも身が軽くなり調子がよくなったので、テントへ向かうことにした。

外は小雨が降って気温も低い。重症化している負傷者たちの事が気になり、自衛官側のテントにいる救護に行くとベッドを囲み蛍光の灯が立ち込めていた。息を引き取った遺体にヒュプノスがその者の頬に手を添えて祈祷をしている。


「では、この者の魂を天へ導く。皆のもの、黙祷をしてくれたまえ」


僕はただ彼の横顔を見守る事しかできずに小さな苛立ちと冷静さを行き来しながらテントの脇に立ち、その遺体の魂が身体から浮き上がるとヒュプノスはそれを抱きかかえて姿を消していった。


「ビニールで包んで病院へ搬送する。撤去した後次の負傷者の対応に取り掛かるようにしてくれ」

「わかりました……兵頭さん、もう体調は良くなったのですか?」

「ええ、おかげさまで。今日はヒュプノスたちはどれくらい来ていたんですか?」

「今が一人目だ。なぜだ?」

「いや、それならいい。俺はこれで戻る。もし救助が必要になったらすぐに呼んでください」


ヒュプノスが来た分先程より雨の勢いが強く身体を打たれていく。その後もテントでの応急処置は続いていき、日付が変わって四時になったころ救護室の係員が僕に近づいてきて文科相の加納から連絡が来ていたと告げてきた。

九時。加納に電話をかけると彼は僕に条例の決議案が可決されたことを伝えてきて、特命として召集する人物の一覧が掲載してある書類を送られてきたので、チーム長の明神がいる救護所に行った。


「そうか。可決になったか……」

「これが名簿です。もしかしたらここの救護チームの中にも召集される者もいるかもしれないので、各自声掛けをしていきます」

「ああ、頼む」


その後テントで処置を行っていると、外がざわつく声が聞こえてきたので、静かにするように促すと条例の件が民間人の耳にも入ってきたようで、不安がる負傷者が何人か声を上げていた。


「どうしよう、国が条例を認可して情報が拡散していると話している。先生、俺召集をかれられたら見知らぬ人と関係を持たないといけないんだよな?」

「まだその可能性は低いと思います。連絡があり次第私達から報告するので、まずは救護テントで安静にしていてください」


他の救護士たちも負傷者をなだめていったが、仮に自分が当たってしまったら死んだ方がマシだという人も訴えるように告げてきた。

夕刻になり、休憩室に入ると数名の救護士がこちらを向いて怪訝けげんそうな表情をしていた。彼らが見ていたタブレットを見てみると条例の召集名簿の一覧表が表示されていて、記載されている名前にひと通り目を通していくと、僕は身体が一瞬凍りつく感覚になった。


「兵頭……勇輝…」

「兵頭さん。これ、同姓同名の方ですよね?まさかとは思ったんですが……」

「現住所が一致している。俺で間違いない」

「相手って一体誰なんでしょうか。この名簿には顔が載っていないから、余計気になりますよね」

「発令されたらいつ通知が来るんでしょう?」

「まあ近いうちには来るだろう。複雑だけどまずは相手に会ってから出ないとなんとも言えないな……」


その一週間後、ようやく自宅に帰る事ができて、玄関の郵便受けに溜まっているチラシを片付けていると、赤い封書が一緒に紛れていた。

開封をして中に入っている書類を開くと親衛隊からの条例召集について記載がされていた。

相手の名前と住所、メールアドレスが書いてあり何かの鍵も同封されていて、数日以内に連絡を取るように命じてあった。また何かのQRコードが表示してあり、スマートフォンでそれを読み取ると相手の詳細のプロフィールと互いに住む新居の住所が記載させていたので、地図を調べてみると、今の自宅から三十キロ程離れた場所だと確認ができた。


僕は早速相手のアドレスに連絡をし近いうちに会うことを伝えて、数時間後に返信が来て四日後であれば良いと告げてきた。

約束の日になり、新居となるとあるマンションに着き中へ入りエレベーターで上階へ上がり五〇五号室の前に来て鍵を開けてみた。

中にはまだ相手の人物が来ていなくてしばらく待っていると、スマートフォンから着信が来てその相手が今向かっているのでもう少し待っていてほしいと告げてきた。


二十分後ベランダの窓から外を眺めている時に玄関の鍵が開く音が聞こえてきたので、振り向くと中に誰かが入ってきた。


「兵頭勇輝さんですか?」

「はい。もしかして益井さんですか?」

「はい、遅くなって申し訳ないです。はじめまして、益井 孝成たかなりと言います」

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