51 魔法対決
パリッンッ
「俺も間抜けじゃないんでね。まともに闘うわけないだろぉおがああ。」
モーヴェ子爵の、いやモーヴェの破れたシャツの襟元に奇妙な蛇の刺青が見えた。手枷のせいで傷口から出ている血をペロペロと恍惚とした表情で舐めている。
(なンだこいつ?? 気味悪ぃ。)
奇ッ怪な動作に目を奪われてると、床に倒れた騎士を尻目に”怪物” は窓を割り外へと飛び出した。
「ちょっと~、私を置いてかないでよッ~!」
白のドレスが騎士の血で染まり、手枷足枷をつけられたノワールが喚く。
髪もドレスも干物のようにぐちゃぐちゃになった姿は哀れだった。「牢屋へ」と命じるローランの言葉に、「痛〜い。」と何とも場違いな声を上げたノワールが床を引きづられながら連れてかれた。
「逃がさねぇ。」
(リーチェを狙った代償は必ずとらせる。)
「兄様っ!」
テオがすぐさま蒼の疾風を起こし、その勢いを借りて奴の後を追い窓の外へと飛び出した。奴は痩せた体をフラフラさせながら不恰好な走り方で、庭園の木々の間をすり抜けていく。
モーヴェの背中を視界に捉えすぐさま地面に手を置き、地の魔法を呼び出す。奴の目前に『ザッーーーーーーーガッガッガッガッ』とパックリと大地が割れるほどの地割れを起こす。行き場を失い痩せこけた体でユラッと立ち止まると、「邪魔するなアアアッ!」と怒鳴りながら地面をダンッと踏んだ。
「・・・ッってっ。」
(地面に雷を流しやがった! あともう少し避けンのが遅かったら危なかった。)
オレは、窓のそばで祈るように手を組むリーチェらを見た。
(広間にいる客を人質に取られたら厄介だ。)
「兄様っ、こちらは心配しないで下さい!」
ピーーーーッ!ピッーーーーーーーーーー!
テオが指笛を鳴らし、濃い霧で城を覆って防御魔法をかけ直してる。こっから見ると蜃気楼みてぇだ。
「余所見すンなよなぁああ!!」
ドスンッ!
鉄の塊のような衝撃が腹に直撃し、吹っ飛ばされ木に叩きつけられた。途端息が苦しくなり頭が朦朧としてくる。あばら骨やっちまったか?
フーーッフーーッ
呼吸音がおかしい。うまく息ができねぇ。
(これが話に聞いていた怪物の”爆発”!?)
自然界の細部にまで魔法を干渉させ、小さなエネルギー体を分裂させていく。そうやってエネルギーを生み続けながら、ある限界を超えると一瞬のうちに大きくて強い高音の熱を伴った爆発を起こすと言う。
(防御魔法をかけてなかったらマジでヤバかった。)
「・・・ッ調子に乗るなよ。」
自分の体を銀の粒子が包み込んでいく。荒々しい竜巻がモーヴェの体を突き上げた。まるで銀色の龍が人を飲み込んじまうみてぇに。
風が叫び声のような悍ましい音を立てて、近くの岩や木製のベンチの瓦礫をその渦に巻き込んでいく。
ぅガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!
手足が引きちぎられるほどの壮絶な勢いに、怪物の悲鳴が轟く。このままバラバラにしちまいてぇ衝動にかられる。
(リーチェを悲しませることだけはしねぇ。)
肉体的な痛みが増すのと裏腹に、凪のように心が澄んでくる。頭の先から足のつま先まで神経を張り巡らせ、繊細なコントロールに意識を使う。奴が気を失い声が絶えた時、銀の龍はその姿を消した。
空中から落下してくる奴を仕留めるため、地面を蹴り上げ高く跳ぶ。服に剣を突き刺し、そのまま木に服ごと奴を突き刺した。一度加速を失った奴のボロボロの体は、服が破れるままにドサッと木から落下する。一度落下の衝撃を和らげたから死んではいねぇはず。
(こいつの強大で邪悪な魔法を封じる。)
地面に落ちた奴の肩に、魔獣を仕留める魔道騎士の剣を突き刺した。
『銀の龍を宿し剣よ、その力で闇を浄化せよ。』
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