32 ビオーチェの丘で好きな子と
僕がお腹が痛くなるくらい笑ってると、リーチェがポロッと「ふふっ、泣いてるよりイジワル言ってるシエルの方が好きよっ!」と笑った。
ドキッとした。リーチェの口から好きって言葉が出るなんて。だって僕はずっとリーチェに面倒ばかりかけているのに。
「イジワル言ってる僕が好き???」
「ええ、好きよ。ついでに私の作ったお菓子も食べてくれたらもっと好きになるかもっ!」
リーチェが僕を好き??? 本当?? それはどんな種類の好き?
そんな事をグルグル考えていたら、リーチェはバスケットから何やら黒い物体を取り出した。最近いろいろな形にして、花蜜のクッキーを焼くのがお気に入りみたいだった。
「これは?」
「ビオーチェの花を使って、花魔法でクッキー作ってきたの。」
(やっぱり・・・。)
「これ、何の形だと思う?」
黒くて、不気味な羽がついてる、、、、生き物???
(この前はブタの顔かなと思ったら、ネコって言われて涙目になってたし・・・。)
「えっと、勇ましい・・・ドラゴン???」
「えっ・・・。」
(猫みたいな瞳を見開いて、すごくショックを受けた顔をしている。)
「あ、えと、、、黒い色だから、カラスとか???」
「もうっ、からかわないでっ!黒くなってるのはほんのすこし焦げただけだしッ!これは、可愛いうさぎなんだからっ!」
すこし焦げた??? 爆発して消し炭みたいになってる・・・。何か不吉なドラゴンの羽みたいだと思ってたのは、どうやらうさぎの耳だったみたいだ。
「もしかして、、、リーチェの屋敷に迎えに行ったときに、ドカンッとすごい音が聞こえてたけど、あれクッキー作ってたの?」
「あーそーいえば、ソウダッタカモ。」
リーチェがソワソワして、目が泳ぎ出した。
この間はリーチェがお菓子を作って、危うく火事になるところだったって聞いた。
(お菓子作るのって、そんなに命がけの作業だったっけ???)
僕は手の中に持った”クッキーと呼ばれる物体” を、パクリッと一口かじった。
(苦っ!あんなに美味しい花蜜を、どうやればこんなに苦くて不味くできるんだろう???)
「シエル! 味はどう?」
長いまつ毛に彩られたマゼンタの瞳をキラキラさせてる。腰をかがめてまだ地面に座り込んでる僕の顔を覗き込むように、リーチェが聞いた。
「この間より、、、美味しくなってる。」
不味くても食べられるんだから上達してる。リーチェには言ってないけど、この間貰ったやつは口に含んだだけで毒と同じ症状が出て倒れたし。もしかしたら花魔法がまだ安定してないのかも。たぶんだけど。
(それともたんに下手くそなだけだったりして・・・。)
「ほんとっ、嬉しいっ!! たくさん練習したもの!」
そう言いながらリーチェがぴょんぴょん跳ねると、シャリシャリと音が鳴った。
「これ、綺麗。」
僕は1つの石を手に取った。ビオーチェの花の下には、まるで貝殻のような真珠色の欠片がある。それらは踏むとシャリシャリと耳に心地よい音を立てる。花と対になる”石”の一種だ。
「そうねっ。シエル、どちらが綺麗な石を見つけられるか競争しようっ!」
言うなり、水色の靴でタタタタッとリーチェが石を探しに駆けていく。
(ビオーチェの花の下で宝探し・・・?)
ちょっと楽しそう。だってすぐ近くを見ただけでも光る石がゴロゴロ転がってる。僕は立ち上がると、花の下を覗き込みながら丹念に見ていった。あれもこれもと没頭して探してるうちに、満月から落ちてきた雫のような銀色に光る石を見つけた。
「うわぁっ、綺麗っ!」
(リーチェの髪の色みたいだ!)
「そっちは危ないよっ!」というリーチェの声も耳に入らず、夢中で駆け寄った。
(しまったっ!)
気づいた時には、ツルッと滑った足ががけの外へとび出し、視界にはずっとずっと下の方に見える地面。
(落ちるっ!)
身をすくめ、衝撃を覚悟した時、
ドンッ
一瞬宙 に浮いた体が強い力で突き飛ばされ、草むらへと転がった。目の前にはコロンッと転がっていた水色の靴。
「リーチェッ!!」
必死で名前を呼ぶけど軟弱な体は思うように動かない。
助けないとっ!助けないとっ!焦る心でリーチェの後を追おうとすると、、
「来ちゃダメッ!」
ドッダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダッァアッーーーーーーーーーーーーーーー
「りーちぇーーーーッ!!!!」
僕を突き飛ばしたリーチェが、裸足のまま崖に転がり落ちていく。発作的に自分も飛び降りようとした僕をかろうじて繋ぎ止めてたのは、リーチェの『来ちゃダメッ!』という言葉だった。
「ゔわぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
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