18 初めての恥じらい
(間に合ったか?)
ラウンジに飛び込んだ時、テオと一緒に、リーチェが猛獣に対峙していた。
(なんだあの格好? ドレスめくり上げて、勇ましすぎるだろ? )
「2人とも、下がれっ!」
(やりそうだな~とは思ってたけど、本当に闘ってたとは・・・。少しジッとしててくンねぇかな。マジで。ーーーーー心配なんだよ。)
「兄様!」「シエル!」
テオが目で何か合図をしている。ん?
(やべっ、オレも上半身裸じゃねぇか。)
ってか、今そんなこと気にしてる場合じゃねぇ。テオもリーチェもすでにボロボロだ。
ガガガガガガガガーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッ!!!
竜巻のような勢いの風。屋根への凄ぇ衝撃!?
オレは2人に向かい声を張り上げる。
「このスパルナはツガイだ! もう一匹、2階から攻撃してた奴がいたッ!奴はもう身動きできねぇ。」
「ツガイ?」
リーチェが目を見開き驚くのも当然。スパルナ一匹でも珍しいしな。
オレは、手に持ってた身長ほどの長さのある騎士の白の剣に向け、音楽のような抑揚をつけ、言葉を紡いだ。
『オーディン神よ。我に力を与えよ。』
徐々に剣の両刃が、真珠のような淡いホワイトゴールドに光ったかと思うと、みるみる間にどんどんと青白く魔力を増す。
(もっとだ、もっ・・・!?)
「シエル、お願いッ!そのスパルナを殺さないで!」
「はっ? ンな事言ってる場合か? 」
リーチェが、両手を組んで胸の前で握りしめ、マゼンタの瞳を潤ませていた。
(ほんっとずりぃ!)
「お願いっ! 城の庭で会ったヒナの親かもしれないの!」
(ヒナ? このツガイの子ども??? 城で会った?)
「チッ! どうなっても知らねぇぞ。」
「兄様!兄様の動きを僕がサポートします!」
テオがズイッと前に出る。魔力も剣の腕も、テオはオレより筋がいい。体力さえ回復すれば、すぐにオレなんか追いつかれちまうだろう。
「おぅっ!頼む!」
テオは、左手の短刀を構えたまま、右手の短刀だけ腰に戻し、思い切り息を吸い込んでから、指笛を鳴らした。
「ヒューーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」
テオが創りだした小さな青の疾風を捉え、オレは窓の外のスパルナの頭の上にまで一瞬で飛び乗る。
(動きが軽ぃ!空でも飛べそうな勢いだ。)
途端、スパルナは頭を覆うように金の羽を広げ、突風を起こし、オレを振り落とそうともがく。
(あっぶね! ーーーテオ、頼むぞ!)
オレはスパルナの体の上を、青の疾風とともに、あちこち移動しながら避けていく。
(どこだ? こいつの魔力の急所は?)
スパルナの頭上の白と赤の飾りのすぐそばの、首元に赤黒い”溜まり” が見えた。狙いを定め、魔力を纏わせた両刃の白の剣を、その場所に思いきし突き立てると、ヌブブッと嫌な感触が剣から伝わる。
『ギャァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァアアアアアアアアアアアアア!!!!!』
恐ろしい悲鳴がしばらく続いた後の、シンと空気が張り詰めたかのような静寂。
オレは、剣をスパルナの急所に突き刺したまま、トンッとラウンジの床へと降りたった。
「大丈夫だ。死んでねぇ。」
(殺さねぇ程度に魔力を調整したからな。)
「シエル・・・。」
リーチェは、青ざめた顔でオレの名を呼び、安心したのか、そのままふらりっ、、、
(ほらっ!勇ましいのに、弱っちいから。)
オレはリーチェの身体を真綿で包むように、そっと抱き上げた。
「きゃあっ!」
「少し休んでろ。」
(どんだけ暴れりゃ、こうなるんだ?)
見ちゃいけねぇと思いつつ、リーチェのすり傷だらけのある一点に視線がつい向いちまう。言ってあげた方がいいのか???
「お姫様抱っこ・・・。」
「は?」
(頬を赤く染めて、珍しく恥ずかしがってるように見えるかと思ったら、何、訳の分かンねぇこと。)
「シエル、私はいいから、おじ様をお願い!」
親父は魔力の消耗で、一時的に意識を閉ざし回復を図ってるだけだろう。あとはオレたちに丸投げって親父らしいっちゃ親父らしい。
「とーさまの事は僕たちがやるから。」
「リーチェちゃん、私たちは慣れてるから大丈夫よ。さっきは守ってくれてありがとう。」
(テオたちがいるから、親父は大丈夫だろ。)
「いえ、私は何も・・・。」
「ふふっ、でもこれだけは知っておいて。私たち、リーチェちゃんがシエルの結婚相手で、本当に嬉しいのよ。」
「おば様・・・。」
ゆっくり話をさせてやりてぇが、リーチェもテオも体力の限界だ。今は戦闘の緊張で気を張ってるから元気そうだけど。
「話は後だ。テオ!すぐに城の騎士団へ連絡し、スパルナの引き取りを頼んでくれ。」
親父が咄嗟にかけた防御魔法のおかげで、二匹のスパルナは、屋敷にほとんど入っては来れなかった。クチバシは壁にぶっ刺さったけどな。
(ったく、いきなり猛獣二匹の相手なんて誰が予想できっかよっ! )
「はいっ!兄様!」
テオは勢いよく返事をした後、リーチェをチラリと見るとボソッと呟いた。
「あんた、もうちょっと恥じらいってもんを持ちなよね?」
さっきから、捲り上げたドレスのスカートから、リーチェの白い太ももが露わになっていた。もう少しでスカートの奥の大事な部分が曝け出されそうなぐれぇだ。柔らかそうな太ももに細けぇすり傷がたくさんついてる。
「きゃああああああああああああああああああ!!」
今頃になって、リーチェは涙目で慌ててる。
(やっぱ気づいてなかった。)
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